Pop Step

慰弦

文字の大きさ
上 下
58 / 1,142
- 8章 -

- 休日 -

しおりを挟む


丁度同時刻頃、植野は地球上には居なかった。

そんな言い回しをする人は高確率で周りに一人は居るだろう。主に正月辺りに。

正確には、部活で飛んでいるだけなのだが。

バサッとマットに落ちる音が校庭に響く。


「綾雪おしいっ!」

「あーっ!くっそっ!」


後数cm、むしろmm単位かもしれない。ほんのちょっとが越えられない大きな壁となっている。


「この間は一日に二回も自己新だしたのに、どうした?今日は不調だな」

「だってこの間は……」

「なんだ、ドーピングでもしたか?」

「ちょっ、その発言顧問としてどうなのよ?」

「あっはっは、悪い悪いw」


部活の皆の軽口やノリが好きだ。

飛んだ時に見える青空、風を切り落下する感覚、遠ざかる横に伸びた棒を見るのが好きだ。

教室を見上げれば見える鈴橋が好きだ。

そこだけ切り取られたように輝いて見える。

それが植野の大好きな棒高跳び。


だけど今日は一つだけ足りない。栽培部は休日は交代制で整備に来るのだが、今日は鈴橋の担当ではない。

したがって教室の窓から覗く鈴橋の姿はあるわけがないのだ。


「がっくんがいないと自己新も出ないとか…どれだけ俺格好つけたがりなんだろうね」


小さく自嘲気味に呟いて、再び自己最高記録を塗り替えるために勢いをつけて走りだした。

『大丈夫、俺は飛べるっ!』

意気込んで棒を地面に着けた瞬間、視界の先にとある人物を捕らえた。


「っ!?」


その人物に気をとられ、見事バーに激突しながらマットに倒れこんだ。


「ちょっ、植野大丈夫かっ!?」

「いきなりどうした?」

「あっ…あ、いや…」


バーを背中に引いたまま、呆然と校舎から見える裏門を凝視していた。

見間違いか…いや、でも自分が彼を見間違う事などあり得るだろうか?


「お、おい植野?」

「あっ、あぁ、大丈夫」


マットの上で呆然としていた事に気がつき急いで立ち上がった。

もう一度裏門へ目を向けるが誰もいない。

ついに幻覚迄見るようになったか…植野は首をふって再び練習へと戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

チャラ男会計目指しました

岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように………… ――――――それを目指して1年3ヶ月 英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた 意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。 ※この小説はBL小説です。 苦手な方は見ないようにお願いします。 ※コメントでの誹謗中傷はお控えください。 初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。 他サイトにも掲載しています。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...