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- 6章 -
- それぞれの大切な人 -
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「へぇ~綾はお母さんなんだぁ」
「…母親が大事なのは皆そうでしょうけど、綾雪は普通以上に大事にしてると思いますね…すごく母親思いの優しい息子さんだと思いますよ」
「なんかあっきーじじくさい…」
「ぁははっ、なんかそう言われると切ないんですけど」
「いやいや、人生達観してる感じで尊敬しちゃうw」
まだ夏の色の濃い風が吹き抜ける街路樹に伸びる二人の影を、安積は静かに見下ろした。
幸せな兄弟。幸せな家族。そんな話になるたび、複雑な感情が襲う。
嫌な方向に向かいかける思考を振り払うかのように頭をふると一転、いつもの笑顔をつくり隣を歩く班乃の前に躍り出た。
「じゃぁさ、あっきーの大事な人って誰なの?」
「僕 ?そうですね…家族始め、恋人も、僕が今まで関わってきた人達皆、安積たちだって勿論僕の大事な人ですよ」
「おぉ、模範解答w」
「本心なんですけどね」
「そーなの? …そっかっ!! なんか嬉しいなっ!大事って言われるのって、すっごく嬉しいねっ!!」
「…やー、なんかそう言われると僕も照れるんですが」
「うへへ」
そんな話をしながら歩いている内に、いつの間にか班乃の利用する駅までたどり着いていた。頭一つぶんは低い位置にある安積へとそっと視線をうつすと、緩い笑みを浮かべている。
なんだか上手く話を反らされたような気がした。
以前安積が言っていた自分より大切な人。
天真爛漫な安積に影を落とさせるなにか。
その原因は「あの人」なのではないか。
そして「あの人」に影を落としているのは安積なのではないか。
勘づかれないよう確めようと思っていたのだが、2人とも意外とガードが硬くどうにも無理そうである。
ならばといくどか直接聞こうかと思った時もあったが、双方が望み合わない行動をとるのは逆に亀裂を生みかねないのではないかと、ずっと実現を妨げていた。
「どうした、あっきー?」
考えている内にぼっとしていたのだろう。心配そ
うに此方を見る安積に何でもないよと笑顔で片手をふった。
「そう?なら良いけど…」
「じゃぁ、僕はそろそろ」
「おぉ、いつの間にか駅についてたんだw」
周りは特に栄えているわけではないが、学校、そして住宅街に近いこの駅は、夕方ごろになると割と人が多くなる。2人はじゃぁと短い言葉を交わし、班乃は駅へと歩みを進めた。
大事な人。
それぞれの大切な人。
自分より大切で、大切で。
居なくなるなんて考えられない。
遠ざかる背中に向かって安積は声を上げた。
「あっきーは居なくなっちゃ駄目だからねっ!」
人が多く行きかう中いきなり大声で叫ばれ、驚きと共に反射的に声の主を振り返る。
「何変なこと言ってるんですかっ!? また明日、学校でっ!」
それだけ言うと、そそくさと改札を通り見えなくなってしまった。
「…居なくなる時なんてわかんないじゃん」
班乃の消えたほうをぼんやりと見つめながらつぶやいた言葉は、人々の出す音に解けて消えて行った。
「…母親が大事なのは皆そうでしょうけど、綾雪は普通以上に大事にしてると思いますね…すごく母親思いの優しい息子さんだと思いますよ」
「なんかあっきーじじくさい…」
「ぁははっ、なんかそう言われると切ないんですけど」
「いやいや、人生達観してる感じで尊敬しちゃうw」
まだ夏の色の濃い風が吹き抜ける街路樹に伸びる二人の影を、安積は静かに見下ろした。
幸せな兄弟。幸せな家族。そんな話になるたび、複雑な感情が襲う。
嫌な方向に向かいかける思考を振り払うかのように頭をふると一転、いつもの笑顔をつくり隣を歩く班乃の前に躍り出た。
「じゃぁさ、あっきーの大事な人って誰なの?」
「僕 ?そうですね…家族始め、恋人も、僕が今まで関わってきた人達皆、安積たちだって勿論僕の大事な人ですよ」
「おぉ、模範解答w」
「本心なんですけどね」
「そーなの? …そっかっ!! なんか嬉しいなっ!大事って言われるのって、すっごく嬉しいねっ!!」
「…やー、なんかそう言われると僕も照れるんですが」
「うへへ」
そんな話をしながら歩いている内に、いつの間にか班乃の利用する駅までたどり着いていた。頭一つぶんは低い位置にある安積へとそっと視線をうつすと、緩い笑みを浮かべている。
なんだか上手く話を反らされたような気がした。
以前安積が言っていた自分より大切な人。
天真爛漫な安積に影を落とさせるなにか。
その原因は「あの人」なのではないか。
そして「あの人」に影を落としているのは安積なのではないか。
勘づかれないよう確めようと思っていたのだが、2人とも意外とガードが硬くどうにも無理そうである。
ならばといくどか直接聞こうかと思った時もあったが、双方が望み合わない行動をとるのは逆に亀裂を生みかねないのではないかと、ずっと実現を妨げていた。
「どうした、あっきー?」
考えている内にぼっとしていたのだろう。心配そ
うに此方を見る安積に何でもないよと笑顔で片手をふった。
「そう?なら良いけど…」
「じゃぁ、僕はそろそろ」
「おぉ、いつの間にか駅についてたんだw」
周りは特に栄えているわけではないが、学校、そして住宅街に近いこの駅は、夕方ごろになると割と人が多くなる。2人はじゃぁと短い言葉を交わし、班乃は駅へと歩みを進めた。
大事な人。
それぞれの大切な人。
自分より大切で、大切で。
居なくなるなんて考えられない。
遠ざかる背中に向かって安積は声を上げた。
「あっきーは居なくなっちゃ駄目だからねっ!」
人が多く行きかう中いきなり大声で叫ばれ、驚きと共に反射的に声の主を振り返る。
「何変なこと言ってるんですかっ!? また明日、学校でっ!」
それだけ言うと、そそくさと改札を通り見えなくなってしまった。
「…居なくなる時なんてわかんないじゃん」
班乃の消えたほうをぼんやりと見つめながらつぶやいた言葉は、人々の出す音に解けて消えて行った。
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