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- 6章 -
- それぞれの大切な人 -
しおりを挟むいつもそうだ。
こういう時言葉に詰まってしまう。
力になりたい。そう思えば思うほど、どんな言葉が植野にとってベストなのか分からなくなってしまう。
気にしすぎてよそよそしくなってしまったら余計悲しませてしまうのではないか。
かと言って全く気にしてない素振りをし、口をつぐませ言いたい事も言えない状態にさせてしまったら元もこもない。
話して楽になるならどんどん話して欲しいと思うのに、それに対しての自分の対応が下手すぎて腹の底がムズムズしてくる。
いつもその繰り返しで、いい加減自分の駄目さにイライラしてしまうのと同時に、自分に家庭の話を打ち明けてくれた植野に申し訳なくなってしまう。
そんな事を考えている内の沈黙。鈴橋には物凄く居たたまれなく感じてしまうのだが、植野にとっては全く違うものであった。
横目で鈴橋を見ながら植野は微かに笑みを浮かべた。
植野にとって両親の話題をする事はタブーでもなんでもない。両親の関係でさえなんとなく気にはなるが、別に聞いてまわる程というものでもない。
けれど、それに対して鈴橋が真剣に考えてくれているというのは凄く嬉しく感じてしまう。
別に困らせたい訳じゃないが、自分を大切に思ってくれているのが物凄く嬉しい。
基本的に他人に興味がなく、お世辞でも社交的とは言えない。どうでも良い人に対してはなにがあろうと関わらないし、むしろ眼中にも止めない。そんな鈴橋が自分に対しては一生懸命になってくれる。
これ程嬉しい事はないじゃないか。
不謹慎にもそう思ってしまうのだ。
自分がそんな事を考えているなんてつゆ知らず落ち込んでいる鈴橋をこのままにしておくのもいい加減そろそろ可哀想だ。植野は難しい顔をしている鈴橋に若干体当たり気味に寄りかかった。
「…なんだよ」
植野の視線の先には夫婦生活を満喫している班乃と安積達。2人に聞こえない様に鈴橋の耳元に口を寄せて小さく囁いた。
「いんや、会長たち白熱してるなぁーって思ってさ」
「あ、あぁ…まぁ―…!?」
植野の言葉でおままごとに目を移した鈴橋は、今この状況を改めて理解したのであった。
自分の大切な大切なたいっせつな妹が、安積という男に汚されているという事実に。
もちろん、それは鈴橋の目にのみにしか見えない場景だけれど。
「紗千っ!」
おもわず名前を叫んで立ちあがった鈴橋は、勢いよく駆け寄り妹を抱きあげた。
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