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慰弦

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- 6章 -

- それぞれの大切な人 -

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「お兄ちゃんっ、お帰りーっ!」


園庭から兄の姿を見つけた紗千は一目散に駆け寄り、兄の膝上15cmくらいしかない背を目一杯伸ばして抱きつくと、そんな妹を慣れた手付きで軽々と抱き上げた鈴橋は愛しそうに頬を寄せた。


「ただいま、紗千。今日も良い子にしてたか?」

「うん!今日は皆とお絵かきして、おままごともやったよ!」

「そうか、楽しかったか?」

「うんっ! あとねあとねっ、あれっ!あれもやったのっ!!」

「へぇ、良かったな」


そんな微笑ましい光景を、安積は驚愕の表情で凝視していた。平気でアルミ缶や野球ボールを人に投げつけるあの鈴橋に、こんな一面があるなんて…目の当たりにしても信じがたい。


「あはは、せーちゃんの目がテーンw」

「まぁ、無理もないですけどねぇ」

「ほら、紗千。皆に挨拶しな」

「はーい!!お兄ちゃんたちこんにちー………ゎ」


元気良く挨拶をする紗千だったが、“ お兄ちゃんたち ” の中に自身を凝視する始めて見る人物、安積の存在に気がつき、華やかな表情から一変不安そうな色を浮かべた。


「…お兄ちゃん。あのお兄ちゃん誰?」

「………」

「あっ、俺は…」


無意識の内に凝視してしまい怖い思いをさせてしまった。申し訳なかったと慌てて笑顔を作った安積は自分もちゃんと自己紹介をと口を開きかけのだが―


「隣の組の人だよ」

「友達とか言おうっ!?」


鈴橋に先を越され、その温度のない紹介に秒で突っ込む。そこまでして友達になりたくないのかと落ち込むが、とりあえずは鈴橋は “ 恥ずかしがりやなんだな ” と、無理やり納得する事にした。

しかし、そんな安積に天使が舞い降りる。


「じゃあ、お兄ちゃんのお友達だねっ!」

「えっ!?」

「~っ、紗千ちゃんっ!!?」


兄に落とされた後の妹の優しい言葉。その温度差に感激も一塩だ。ぶわっと涙目になる安積を見る鈴橋の視線は嫌悪感丸出しだが、それすらも許容出来る程屈託泣く笑う妹の言葉が天使すぎた。


「紗千ね、さくら組の子もふじ組の子もお友達だよっ!お兄ちゃんはそうじゃないの?」

「や、俺はー…」

「はいはいっ!!お兄ちゃんは隣の組の子もその隣の組の子もみーんなお友達だよっ!紗千ちゃんと一緒っ!」

「じゃぁ、紗千は?」

「もちろんっ、紗千ちゃんとももうお友達だよっ!!」

「わぁーいっ!!おともだちーっ!!」


そんな微笑ましい会話の中で、華やかに笑う妹を抱いている兄だけが苦々しい顔をしていたのは言うまでもない。
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