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6話.導かれし歓迎遠足

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オイルと金属の香りが辺り一面から匂い、機械の駆動音がうるさく響く。
此処は武器の生産を行う【政府非公認】の工場の一つ。
作られた武器は高額で取引され、その儲けの資金は組織である【シークレット•HMTKT】の運営にまわされる。
いわゆる大規模な闇市。
「はぁ…」
そんな所で働く1人の痩せっぽちな男は部屋のソファに寝そべりながら頭を抱えていた。
なぜ頭を抱えているのか、理由は単純です。
仕事の失敗というシンプルなもの。
「よーし、お前達の言い分はよく分かった。
つまり1人の男にコテンパンにやられて戻ってきたと?」
「そうだよスピア!おらのガトリング全然当たらなくてぇよぉ…クソ!くやしい!」
「おいおい泣くなよガッツ..見苦しいぞ。いやまじで」
「うう…スピアぁ!」
太っちょのガッツは地べたに寝そべり、足を駄々をこねる子供のようにバタつかせる。
ガッツ改め、本名伊藤斗真(いとうとうま)。
組織の戦闘員であり、ガトリングの使い手。強烈な反動を物ともしない高い安定力と生まれつきの視力の良さをボスに買われ、組織に誘われた。

ボスから勧誘を受けたのは今から6ヶ月前。
昔から食べるのが好きだった彼は小学生の頃には体重90キロを超え、中学高校では100キロ超えた。
【お前昼飯の時だけ楽しそうだよな】
その体型でいじめを受け続けた。
中学は言葉や物理的に、高校は日々絶えない人の無言の目に嫌気がさす。
「僕..ここにいて良いのかな」
そして少年は自殺を決行した。
「くそぉ…最後の晩餐に特盛ラーメンを食べてやる‼︎」
行きつけのラーメン屋で食べる最後の晩餐をこれから死ぬ人間とは思えないほど意気の良い食べっぷりで完食する。
スープの全て飲み干し、店の天井を見上げる。
「ご馳走様でした」
金を払って店を出ようとした所で、
「はぁ~!良い食いっぷりだな小僧!」
さっき自分が座ってた席から左に2つ離れたところに座っていた男が話しかけてきた。
「まるでこれから戦地へ行く兵隊みたいだな。ラーメンは味わって食わんと」
男は音を立てずにスープを飲み干す。
「な、何ですか..?いきなり」
その男はガタイの良い体をブラウンの革ジャンで包み、黒のサングラスをかけている。
髪は肩まで伸びた白毛をピンクのゴムで一本に束ねている。
まるでオフの日のサンタクロースかのようだ。
「当ててやるよ。今から死ぬ気だろ」
「は!?」
いきなり何を言い出すかこのおっさん。
サングラスから透けた目でこちらを見てくる。
「どうして分かる..」と聞こえるか分からない小さな声で呟く。
男は一瞬目を細めたが何を言ったのかはおおよそ察したのだろう。
「俺はそういう奴を何度も見た。…可哀想にな」
「え..?」
今まで同じような嫌な奴だと思った。
「何ですか..僕のことなんかほっといてくださいよ!」
「いやぶっちゃけお前が自殺しようがしないかはどうでも良い」
「ええ..?本当になに..」
「ただ死ぬ前に俺の【仕事場】に来てみないか?」
「仕事場..?」
男は彼を店から連れ出し、2人っきりになる。
「詳しいことはまだ言えないが、人を集めていてな。もしお前が俺と一緒に働くなら、俺がお前を買ってやる」
「買う..?僕に価値なんか無いですよ..」
男はニヤリと笑う。
「価値だと!?ハッ‼︎ああ良いさ!無くて結構!お前は結局人生で誰からも必要とされてないんだからな!」
そこで伊藤は男を怒りで殴り飛ばした。
人を殴ったのなんて初めて、勢いで腕がちぎれるかと思った。
男は軽く吹っ飛び、その後すぐに起き上がったあと、ヒビの入ったサングラスを拾った。
「ゲホッ..!あーいでで。流石の威力だなおデブ君」
「はぁはぁクソ..!どいつもこいつも知ったような口聞きやがって!俺だって嫌なんだよ‼︎変わりたいよ‼︎でも怖いんだよ…!1人じゃ..」
「何だそんなことかよ」
男はむくりと立ち上がり、彼の頭に手をのせる。
そして、優しく撫でた。
「クソ..!う..うう!」
「悪かったな、大丈夫だ。俺と一緒にお前の価値を見つけに行こう。だから俺と来い」
「……..良いんですか?…..俺なんかで」
「ハッ‼︎大歓迎さ!」
その時のボスの笑い顔は今でも覚えている。
これが初めてボスと会った日。
そしてボスが大怪我をし、入院してから一ヶ月が経った。
「うう..早く帰ってきてよボス..」
「おいおいガッツ大丈夫だって。ボスのお方は帰ってくるさ絶対。それを信じ、俺達は課せられた任務を果たすのだ!!おけ?」
痩せっぽちな男スピアは空の皿にポテチを補充し、ガッツを席に付かせる。
「任務ってあの異能の女を捕まえることだよね。そういえば何で捕まえる必要があるの?」
スピアは知らなかったのかよコイツ、みたいな顔をする。
「いいか、異能の力ってのはヤバイんだ。まさに、世界を変えちまうレベルでな。それさえ手に入れちまえば俺がボスに…」
「ボスに…何?」
「え ああ!俺がボスにそのー..美味いもんをご馳走してもらうんだ!いやー何が良いかなマジでぇ!」
「な!?スピアだけずるい!俺もやる!あ!でもさぁ..あの先生とか言われてた奴どうするの?アイツすっごい強いんだよ..」
スピアは部屋にかけて会ったフード付きの黒いマントを羽織り、腕に付けてある怪しい紫色の装置を見上げる。
その装置には【No.4】と付けられている。
「安心しろよ、策は考えてある。もしかしたら【騎紫団】以上の化け物かもしれんからな。コイツの実験に利用させてもらうぜ…」
スピアは不敵に笑いながらそう呟いた。


穏やかな春の陽気が気持ちいこの日。
雲一つない晴天がこれ以上似合う季節はこれ以外にないだろう。
「歓迎だ!遠足だ!動物園だ!」
ここはとある動物園の入り口前。
神道学園の生徒達がワイワイ賑わっている。
それもかなりの大人数。
それもそのはず、この場所には神道学園の全生徒と全教師が集まっていた。
今日は神道学校の歓迎遠足当日。
この伝統行事は校長の気分による決定で開かれ、今年は春からのスタートである。
かなり大掛かりのもので、今回の開催場所である動物園ものかなりの広さを持つもの。
名を『キングワールド』と呼ばれている。
人類が歴史上で作った最も大きい動物園だ。
「うおー!これがキングワールドですか..もう楽しみすぎて昨日はまともに寝れませんでしたよ」
赤く長い髪を靡かせ、白いシャツと黒い白衣のようなスーツを上から羽織った姿。
異能者特別担当教師 本名は不明だが【ヒイロ先生】という名が最近付いたらしい。
「おい名無し、あんまりはしゃぐな。8時から校長の挨拶が始まるから、お前もさっさと並べ」
その後ろからいつもはボサボサ寝癖ありの茶髪に、黒いシワシワスーツのメガネ姿のはずの男がいるはずだった。
しかし今日は、それら全てがキッチリしていた。
センターに分けられた髪に、丁寧にアイロン掛けされたスーツ。
メガネはコンタクトになっている。
「ねぇ、あの先生誰?かっこいい..」
一見誰だかわからないが、教員の名札には八千代アヤメと書かれている。
「八千代先生!絶対行くか!って言ってたくせにどうしたんですか?」
「バウの奴が強制参加だとよ。この行事のルールで、1人でも欠けたら中止だとよ。それに今日は..戦いがあるからな」
「?まあいいか。それと八千代先生、今の私には【ヒイロ】という名前が有ります!いい加減そっちで呼んで下さいよ」
「良い名前だーな。そろそろ始まるから行くぞ、ヒイロ先生さん」
「そうですね。生徒達が待ってますからね、やっちー」
「やっちー言うなぁ‼︎」
2人は開会式場に早足で向かっていく。
その走り去っていく姿を遠くから見つめる怪しい影がいる事も知らず。

キングワールドの中心の位置するステージエリア。
外に300以上のパイプ椅子がズラリと並べられ、その一つ一つに生徒達が座っている光景はまるでライブ会場のよう。
その生徒達の目の先にある大きなステージには、映像を映し出す大きなスクリーン。
そこで今、歓迎遠足開会式が開かれようとしていた。
「マイクオッケーです..!」
キィーン!っというマイクの入る音が会場に響き、生徒達の話し声が小さくなっていき、
完全な静寂となる。
『全校生徒の皆さんこんにちは。開会の挨拶を担当します、教頭の明道です..。さて、皆さん早く遊びたいでしょうから話は手早く済ませましょう。とにかく怪我の無いように、そして新たな交流を深めてみてください。よろしいですか?』
「はーい!」「彼女とデートするぜー!じっちゃん先生!」「フードコート巡りするぞー!」
『ほっほっほ…。よろしい、では解散』
生徒達は解散し、各々の団体を作り散らばっていった。
その様子をステージから見つめる明道教頭。
その目線は赤髪の無名の方へ向く。
「彼が噂の先生ですか。ほっほっ..こりゃ楽しめそうですな、校長」


開会式の後、私達は異能教室のメンバーで集まった。
ミル達3人も朝から元気そうだ。
「よぉし!じゃあ行きますよ!やっぱ最初は亀でしょ!」
すると、走り出そうとした私の肩を八千代先生が掴む。
「すまないヒイロ。俺は一緒に行けない」
「え?」
八千代先生の目はとても真剣こちらを見つめいる。
なんて綺麗な目しているんだ..。
私はとりあえず生徒達から距離を取り、2人っきりになる。
「一体どうしたんですか急に」
「すまない、お前に子守りの仕事を押し付ける。理由は訳があって話せない。だが断言できることは、この動物園に何かがある..!」
「何..かがある..?」
「そうだ、何がある。あるんだ」
八千代先生レベルのお方が話せない理由..。
まさか、この前の銃を持った組織に関係することとか。
とにかく、だとするなら俺が皆んなの歓迎遠足を守らなければ!
「分かりました。ご安心ください、八千代先生は八千代先生のやるべき事なさって下さい」
「フッ..成長したな。時間がねぇ、俺は行くぞ」
私達は互いに握手を交わし、背中を向けて去っていく。
お互いの任務のため。
「もー遅いよ!」
「すみませんセイナ、私達も出発しましょう」
こうしてヒイロ達は遠足に向けて出発した。
八千代の方というと。
「やべぇ!ミモリちゃんのキングワールド限定地下ライブに遅れる!急げぇ!」
嘘をついていた。
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