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三十三章
雷神 〜前編〜
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ゼプトから送られる感覚的に、向こうの戦闘は終わったらしい。まぁ、並の戦力ならリア一人で壊滅だろう。当然だ。俺相手に模擬戦の勝率は勝ち越しているのだから。
「さて、そろそろ戻ってくるならこっちも終わらせるか」
そうつぶやき、軽くジャンプしてタイミングを合わせると、最高速で地面を蹴りだす。風が俺の前髪を吹き上げ、視界を開ける。瓦礫の向こう側。十数名で固まっている敵集団をしっかりと目視した俺は、右手の剣を左側から振りかぶり、ソードスキル発動。
スルーフェイズという単発の刀用スキル。この技は攻撃後に発生するノックバックが強力な技であり、こういった対多数戦において非常に有効な手段となる。彼等はそこそこ早い段階でこちらに気づいたものの、急接近しながら、少し浮いた所からの流し切りによって、全員が対応することも出来ずに吹き飛ぶ。体勢を崩しながら後ろへと追いやられる彼等は、ただ驚愕し、悲鳴に近い言葉を叫んでいるだけだ。
だが、この技の特徴はこれだけではない。強いインパクトを与える代わりに、その威力を殺しきれずに身体がどうしても回転してしまうのだ。そのため、技後の隙が大きく、使用するものは少ない。
だが、このタイミングでこの技を選んだのにも理由がある。とある対多人数用スキルの予備動作と完全に動きが一致しているからである。
「……ソウル・ロード」
対多人数用窮地奪回技の黄金の斬撃が敵群の崩れた体勢を捕らえ、その場に押しとどめながらじわじわとダメージを与えていく。
「なんだこの光⁉」
「知らねぇなら…………教えてやる!」
身体が翻り、突きの体勢に入った俺は、驚愕する彼らに対して叫び返すと、遠慮も躊躇もない全力を込めて剣を握りしめ、それを解放する。
「これが……剣だッ‼‼」
金色の航路が、斬撃中央に集められた十数名全員を飲み込み、遥か彼方、航路が向く方、俺の拡張された視力でも見えなくなるほど向こうへと、吹き飛ばす。俺の後方でレナと交戦していた敵側からも動揺と驚愕の声を感じる。敵の統制……というようなものも元からなかったようにも思うが、前線に混乱を生じさせることが出来た今、一気に攻めるべきだ。そう思いながらレナの方に向き直ると、ちょうどいいタイミングでビルの窓からリアが飛び出してくる。ジェットを利用して俺の横に着地したリアは、短く一息つくと、槍を指先で回した。
「ゼプトもらうぞ」
「はい! ありがとうございました!」
そう言いながら、 衛星を解除して俺の左手の中にゼプトを戻す。左手で握ったゼプトの力を解放する。
「レフトウェポン、タイプバースト」
この起句を言い放った瞬間に、左手の中にあるゼプトから光が瞬き微かに鼓動し始める。
属性開放状態に移行したゼプトを携えながら、本気のダッシュ。俺の前方で敵を威圧するように仁王立ちするレナの横を走り抜け、左手のゼプトを前へ掲げる。
”風槍”を発動させた俺の指先のさらにその先。ゼプトの剣先から緑色の旋風が出現し、敵の右翼側を全員包み込んだ。そのまま右手を返して上にもっていく。上に向けられた電竜刀から一瞬青白い光が放たれ、数秒後。敵左翼の上から雷撃が降り注ぐ。しかし一人、その雷撃を潜り抜けてこちらに接近してきた剣士がいた。
「……ふっ」
剣士の持つツヴァイヘンダーが降られると俺は咄嗟に飛びのき、二本の剣を構える。咄嗟に加勢に入ろうとするリアに剣を握るままの左手で指を三本立てる。三方位戦闘の意味で、現在の状況で言うと、俺・レナ・リアが分かれて戦闘をするように、という指示である。それを読み取ったらしいリアが、俺の後ろで動きを変えてそのまま横へと向かう。やはり、相手方にも硬いやつらはいるらしく、数名が流れてきている。そういえば、保護対象は? と思ったが、さすがうちの魔法担当。既に結界でコンビニごと覆って干渉不可にしている。
「ツヴァイヘンダーか。いい剣じゃないか」
そう話しかけたものの、返事は両手剣のリーチを活かした大振りな横薙ぎだった。咄嗟に後ろに向かって飛びながら、属性を入れ替える。風圧を放ち距離を取って剣の間合いギリギリを維持しながら、相手と睨み合う。
「お前も使えるのか……」
「まぁ、昔いろいろあったし。多少はね~」
軽口をいいながら半歩下がる。その瞬間に一気に距離を詰めてくる相手に対して、下げた右足を浮かせて右前へと飛び込む。相手の”手”が大振りな剣のままなら、距離を取るよりも内側に飛び込んだ方がこちらに有利に動きやすい。さらにこの位置なら、死角に入ることが出来る。飛び込み、背後に回った俺は、左手の剣での突きを慣行するが、大きくバックステップされたことで回避されてしまう。バックステップ中の彼のソレを見て、即座に構えを変更し、近距離戦に対応出来るようにする。右側から飛んできた剣先に対して、逆手持ちに変更した電竜刀でガードを置くと、その刀身に激しい火花を散らしながらツヴァイヘンダ―が当たった。その重さはそれほど酷くはなかったが、距離を取るためにその勢いを利用してバックステップする。が、間合いが変わった剣先が、後退中の俺に吸い付くように迫る。
「これだから、ツヴァイヘンダーはッ……!」
毒づきながら、左手のゼプトで剣先を叩き落とす。着地と同時に右に身体をひねって空中へと逃げる。追撃の水平斬りは空振り、その彼の右半身が大きく空く。
――ツヴァイヘンダーを使用しての戦闘時、最も気を付けなければいけないのは2点。重さと距離。
ツヴァイヘンダーは柄とは別に刀身との間にリカッソと呼ばれる部分があり、そこを持ち手として運用するかどうかにより攻撃範囲を変更する事ができる武器である。この距離変更をどのように使い分けるかを考えなければいけない。
そして、この武器はれっきとした両手武器である。重さを活かした攻撃な得意な分、戦闘途中に絶対に行ってはいけない攻撃がある。垂直斬り降ろしである。重さをすべて乗せることのできる有効打に思えるが、地面に軽く突き刺さるぐらいまで勢いのついた剣を再び持ち上げるには筋力と時間が必要になり、致命的な隙になる。
この男、その2点を完全に熟知して攻撃してきている。
だが、武器の特性を完全に理解しているのは相手だけでは無い。こちらもだ。
「ツヴァイヘンダーなら、この攻撃を喰らいたくないだろう。」
そう呟き、身体を捻りながら左下から刃を飛ばす。顔を一気にしかめながら、その剣を避ける事を徹底し始める。俺の切り上げということは、斬り降ろしでしか対応できないような軌道の斬撃。これは大型剣の使用者からすると非常に戦いにくいことは明白。俺ですら軽く舌打ちして黒龍化する自信がある。
2連続の斬り上げが避けられたことに対して、半ば予想していた俺は上がりきった剣を思い切り上から叩きつけた。
「地烈穿孔破断斬ッ!」
俺が振るった剣は虹色の輝きを灯しながら斬撃の射程を無限に拡張し、地平線まで切り裂き見える限りの敵の大半を飲み込み屠る。絶大威力の専用スキルを使用した俺は、反動により、その場にしゃがみ込むことしかできない。が、敵の無力化はできたらしい。駆け寄るレナが俺の身体をひょいっと持ち上げて走る。筋力強化を自分にかけているらしい。数歩走った段階で俺がいた場所は魔力の槍で穴だらけになっている。ムソウの魔女様万々歳ではあるのだが、移動させるのにフードを掴んで走るのはやめていただきたい。息が詰まる。痛い。
「……やべてくだざい……」
「おっと」
と、わざとらしい声を出しながら俺を地面へ落とす。痛い。
「くっそ、こんの暴力魔女がよぉ……!」
そう言いながら、ゆっくりと起き上がる。両手に握る柄の感覚を確かめながら、周囲を確認する。優勢だ。俺達が来た方角に、強力な気配を感じる。おそらくここの部隊の長がいるのだろう。
「レナ、行ってくるわ」
「はいよ。コレ選別」
そういいながら、俺にバフをかけながら準備運動をするレナ。援護するつもりらしい。物理的に。
と思った瞬間に、その向かおうとしていた方向から激しい戦闘音。こちらの動きを完全に読んだ騎士団の挟み撃ちらしい。すっかり忘れていたが、街中でこんなに暴れたらそりゃあそうだろう。そう思っていると、俺の横にライトが現れる。どこから?と思っていると、上空にトロンの姿。普段は騎士団の庁舎にいるし、ライトが乗ってきていても違和感はない。
「よっ」
ライトが俺に向かって手を挙げながら口を開く。
「早くね?」
「ま、俺らも前から追ってたグループだしな」
「へぇー、憲兵じゃなくて?」
基本的に、非属性使いや、小規模な犯罪グループへの対応は憲兵が行うことが多い。騎士団は今現在、ライトの意向によって犯罪の取り締まりもしているが、本来であれば王国内ではなく王国周辺の危険排除。詰まるところモンスター相手が主であったはずなのだ。
「合同でな」
「そうなんだ」
ライトの持つ騎士道というのがどういったものかは知らない。詳しく聞いたことはないし、これからもそうだと思う。だけど、俺はそれをなんとなくは理解しているつもりだ。
「レナ、引き渡し」
「わ、わかった」
慌てて保護した男のもとへと走っていく。2、3人取り逃がしたらしいが、今回の襲撃メンバーについてはほぼ全員を捉えた。騎士団に襲撃犯の身柄を渡すリアを眺めながら、ライトに対して言葉を続ける。
「今回、足洗うって奴らがいるから、連れてきてる」
「そっか。ありがたく引き受けるよ内情を知れるかもしれない」
「よろしく」
リアが残党の兵士を持ち上げている。
「あれ? 前言ってた部下の子じゃん」
「ガラス突き破って家に侵入してきてたんだよね」
「え、怖。何があったんだよ」
リアが護送車に向かって残党を投げ込んでいる。
「リア、腕はなまってなかったよ」
「ねぇ、俺の声聞こえてる? ミュートしてない?」
リアが片手で3人持ち上げて投げている。
「あいつの筋力どうなってるん?」
「おまえの聴力どうなってるん?」
「ライト」
「なに?」
「お前の理想はまだ遠いか?」
「……いや、もうすぐそこだよ」
質問に対して、まっすぐ前を向いたまま笑みをこぼすライトを見て、俺も自然と口角を上げる。
「そうか」
「さて、そろそろ戻ってくるならこっちも終わらせるか」
そうつぶやき、軽くジャンプしてタイミングを合わせると、最高速で地面を蹴りだす。風が俺の前髪を吹き上げ、視界を開ける。瓦礫の向こう側。十数名で固まっている敵集団をしっかりと目視した俺は、右手の剣を左側から振りかぶり、ソードスキル発動。
スルーフェイズという単発の刀用スキル。この技は攻撃後に発生するノックバックが強力な技であり、こういった対多数戦において非常に有効な手段となる。彼等はそこそこ早い段階でこちらに気づいたものの、急接近しながら、少し浮いた所からの流し切りによって、全員が対応することも出来ずに吹き飛ぶ。体勢を崩しながら後ろへと追いやられる彼等は、ただ驚愕し、悲鳴に近い言葉を叫んでいるだけだ。
だが、この技の特徴はこれだけではない。強いインパクトを与える代わりに、その威力を殺しきれずに身体がどうしても回転してしまうのだ。そのため、技後の隙が大きく、使用するものは少ない。
だが、このタイミングでこの技を選んだのにも理由がある。とある対多人数用スキルの予備動作と完全に動きが一致しているからである。
「……ソウル・ロード」
対多人数用窮地奪回技の黄金の斬撃が敵群の崩れた体勢を捕らえ、その場に押しとどめながらじわじわとダメージを与えていく。
「なんだこの光⁉」
「知らねぇなら…………教えてやる!」
身体が翻り、突きの体勢に入った俺は、驚愕する彼らに対して叫び返すと、遠慮も躊躇もない全力を込めて剣を握りしめ、それを解放する。
「これが……剣だッ‼‼」
金色の航路が、斬撃中央に集められた十数名全員を飲み込み、遥か彼方、航路が向く方、俺の拡張された視力でも見えなくなるほど向こうへと、吹き飛ばす。俺の後方でレナと交戦していた敵側からも動揺と驚愕の声を感じる。敵の統制……というようなものも元からなかったようにも思うが、前線に混乱を生じさせることが出来た今、一気に攻めるべきだ。そう思いながらレナの方に向き直ると、ちょうどいいタイミングでビルの窓からリアが飛び出してくる。ジェットを利用して俺の横に着地したリアは、短く一息つくと、槍を指先で回した。
「ゼプトもらうぞ」
「はい! ありがとうございました!」
そう言いながら、 衛星を解除して俺の左手の中にゼプトを戻す。左手で握ったゼプトの力を解放する。
「レフトウェポン、タイプバースト」
この起句を言い放った瞬間に、左手の中にあるゼプトから光が瞬き微かに鼓動し始める。
属性開放状態に移行したゼプトを携えながら、本気のダッシュ。俺の前方で敵を威圧するように仁王立ちするレナの横を走り抜け、左手のゼプトを前へ掲げる。
”風槍”を発動させた俺の指先のさらにその先。ゼプトの剣先から緑色の旋風が出現し、敵の右翼側を全員包み込んだ。そのまま右手を返して上にもっていく。上に向けられた電竜刀から一瞬青白い光が放たれ、数秒後。敵左翼の上から雷撃が降り注ぐ。しかし一人、その雷撃を潜り抜けてこちらに接近してきた剣士がいた。
「……ふっ」
剣士の持つツヴァイヘンダーが降られると俺は咄嗟に飛びのき、二本の剣を構える。咄嗟に加勢に入ろうとするリアに剣を握るままの左手で指を三本立てる。三方位戦闘の意味で、現在の状況で言うと、俺・レナ・リアが分かれて戦闘をするように、という指示である。それを読み取ったらしいリアが、俺の後ろで動きを変えてそのまま横へと向かう。やはり、相手方にも硬いやつらはいるらしく、数名が流れてきている。そういえば、保護対象は? と思ったが、さすがうちの魔法担当。既に結界でコンビニごと覆って干渉不可にしている。
「ツヴァイヘンダーか。いい剣じゃないか」
そう話しかけたものの、返事は両手剣のリーチを活かした大振りな横薙ぎだった。咄嗟に後ろに向かって飛びながら、属性を入れ替える。風圧を放ち距離を取って剣の間合いギリギリを維持しながら、相手と睨み合う。
「お前も使えるのか……」
「まぁ、昔いろいろあったし。多少はね~」
軽口をいいながら半歩下がる。その瞬間に一気に距離を詰めてくる相手に対して、下げた右足を浮かせて右前へと飛び込む。相手の”手”が大振りな剣のままなら、距離を取るよりも内側に飛び込んだ方がこちらに有利に動きやすい。さらにこの位置なら、死角に入ることが出来る。飛び込み、背後に回った俺は、左手の剣での突きを慣行するが、大きくバックステップされたことで回避されてしまう。バックステップ中の彼のソレを見て、即座に構えを変更し、近距離戦に対応出来るようにする。右側から飛んできた剣先に対して、逆手持ちに変更した電竜刀でガードを置くと、その刀身に激しい火花を散らしながらツヴァイヘンダ―が当たった。その重さはそれほど酷くはなかったが、距離を取るためにその勢いを利用してバックステップする。が、間合いが変わった剣先が、後退中の俺に吸い付くように迫る。
「これだから、ツヴァイヘンダーはッ……!」
毒づきながら、左手のゼプトで剣先を叩き落とす。着地と同時に右に身体をひねって空中へと逃げる。追撃の水平斬りは空振り、その彼の右半身が大きく空く。
――ツヴァイヘンダーを使用しての戦闘時、最も気を付けなければいけないのは2点。重さと距離。
ツヴァイヘンダーは柄とは別に刀身との間にリカッソと呼ばれる部分があり、そこを持ち手として運用するかどうかにより攻撃範囲を変更する事ができる武器である。この距離変更をどのように使い分けるかを考えなければいけない。
そして、この武器はれっきとした両手武器である。重さを活かした攻撃な得意な分、戦闘途中に絶対に行ってはいけない攻撃がある。垂直斬り降ろしである。重さをすべて乗せることのできる有効打に思えるが、地面に軽く突き刺さるぐらいまで勢いのついた剣を再び持ち上げるには筋力と時間が必要になり、致命的な隙になる。
この男、その2点を完全に熟知して攻撃してきている。
だが、武器の特性を完全に理解しているのは相手だけでは無い。こちらもだ。
「ツヴァイヘンダーなら、この攻撃を喰らいたくないだろう。」
そう呟き、身体を捻りながら左下から刃を飛ばす。顔を一気にしかめながら、その剣を避ける事を徹底し始める。俺の切り上げということは、斬り降ろしでしか対応できないような軌道の斬撃。これは大型剣の使用者からすると非常に戦いにくいことは明白。俺ですら軽く舌打ちして黒龍化する自信がある。
2連続の斬り上げが避けられたことに対して、半ば予想していた俺は上がりきった剣を思い切り上から叩きつけた。
「地烈穿孔破断斬ッ!」
俺が振るった剣は虹色の輝きを灯しながら斬撃の射程を無限に拡張し、地平線まで切り裂き見える限りの敵の大半を飲み込み屠る。絶大威力の専用スキルを使用した俺は、反動により、その場にしゃがみ込むことしかできない。が、敵の無力化はできたらしい。駆け寄るレナが俺の身体をひょいっと持ち上げて走る。筋力強化を自分にかけているらしい。数歩走った段階で俺がいた場所は魔力の槍で穴だらけになっている。ムソウの魔女様万々歳ではあるのだが、移動させるのにフードを掴んで走るのはやめていただきたい。息が詰まる。痛い。
「……やべてくだざい……」
「おっと」
と、わざとらしい声を出しながら俺を地面へ落とす。痛い。
「くっそ、こんの暴力魔女がよぉ……!」
そう言いながら、ゆっくりと起き上がる。両手に握る柄の感覚を確かめながら、周囲を確認する。優勢だ。俺達が来た方角に、強力な気配を感じる。おそらくここの部隊の長がいるのだろう。
「レナ、行ってくるわ」
「はいよ。コレ選別」
そういいながら、俺にバフをかけながら準備運動をするレナ。援護するつもりらしい。物理的に。
と思った瞬間に、その向かおうとしていた方向から激しい戦闘音。こちらの動きを完全に読んだ騎士団の挟み撃ちらしい。すっかり忘れていたが、街中でこんなに暴れたらそりゃあそうだろう。そう思っていると、俺の横にライトが現れる。どこから?と思っていると、上空にトロンの姿。普段は騎士団の庁舎にいるし、ライトが乗ってきていても違和感はない。
「よっ」
ライトが俺に向かって手を挙げながら口を開く。
「早くね?」
「ま、俺らも前から追ってたグループだしな」
「へぇー、憲兵じゃなくて?」
基本的に、非属性使いや、小規模な犯罪グループへの対応は憲兵が行うことが多い。騎士団は今現在、ライトの意向によって犯罪の取り締まりもしているが、本来であれば王国内ではなく王国周辺の危険排除。詰まるところモンスター相手が主であったはずなのだ。
「合同でな」
「そうなんだ」
ライトの持つ騎士道というのがどういったものかは知らない。詳しく聞いたことはないし、これからもそうだと思う。だけど、俺はそれをなんとなくは理解しているつもりだ。
「レナ、引き渡し」
「わ、わかった」
慌てて保護した男のもとへと走っていく。2、3人取り逃がしたらしいが、今回の襲撃メンバーについてはほぼ全員を捉えた。騎士団に襲撃犯の身柄を渡すリアを眺めながら、ライトに対して言葉を続ける。
「今回、足洗うって奴らがいるから、連れてきてる」
「そっか。ありがたく引き受けるよ内情を知れるかもしれない」
「よろしく」
リアが残党の兵士を持ち上げている。
「あれ? 前言ってた部下の子じゃん」
「ガラス突き破って家に侵入してきてたんだよね」
「え、怖。何があったんだよ」
リアが護送車に向かって残党を投げ込んでいる。
「リア、腕はなまってなかったよ」
「ねぇ、俺の声聞こえてる? ミュートしてない?」
リアが片手で3人持ち上げて投げている。
「あいつの筋力どうなってるん?」
「おまえの聴力どうなってるん?」
「ライト」
「なに?」
「お前の理想はまだ遠いか?」
「……いや、もうすぐそこだよ」
質問に対して、まっすぐ前を向いたまま笑みをこぼすライトを見て、俺も自然と口角を上げる。
「そうか」
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