上 下
2 / 5

2話

しおりを挟む
異世界に転移してしまった。
さて、これからの生活どうしよう。
ギルドとやらに行ったらどうにかなるかな。

そんな事を考えながらしばらく歩き、中世ヨーロッパ風の街に出た。

わあ、なんか感動。
映画の世界に入ったみたい。

人の往来が激しい。
皆、服装が日本のそれとは違う。
ファンタジーの世界だ。
ふと、あることに気付く。
人々が喋る言葉が、日本語じゃなかった。
どこの言語か分からない。
異国語。
なんか響きがのっぺりしてる。聴き心地は悪くない。
で、非常に驚いたことに、私はその異国語が理解できる。
全く聞き覚えがない言語なのに。
たぶん異世界転生の特典かな。

冒険者ギルドに着いた。
大きな木造の建物。
中に入ると沢山のベンチが並んでいた。
そこには西欧風の甲冑をまとった人や、剣や大きな杖を持つ人など、ファンタジー系のコスプレイヤーのような人達がたくさんいた。

ザ・異世界って感じ。

キョロキョロと周りを見渡す私を尻目に、アリスさんはスタスタとカウンターの方へ向かっていった。
慌ててついていく。

カウンターのお姉さんは、アリスさんに気づくと、「あら先生、こんにちは」と挨拶をした。

アリスさんはカウンター机に肘をつけて、人懐こい笑みを浮かべた。

「ミッちゃん!今日も働き者だね!尊敬しちゃうなあ」

ムッとするお姉さん。
  
「やだ先生酔ってます?」
「昨日呑みすぎてね、ちょっと酔いが残ってるかも」

やっぱり酔ってたんかい。

アリスさんは私の肩に両手を置き、カウンターの前に差し出した。

「紹介するよ。今日転生してきたばかりのモミジちゃん」
「あら可愛いお嬢さん。こんにちは。私はギルドの受付嬢の、ミクルよ」

ミクルさんはニコリと愛想の良い笑顔を浮かべた。

私はペコリと頭を下げた。

「初めまして、モミジです。えっと…12歳です」
「まあ、その年齢で異世界転生なんて大変ねぇ。驚いたでしょう」
「はい、すごく…」

横で「よく言うよ」と笑うアリスさん。

「ちょっと待っててね。まずはギルドカードを作るから」

コクリと頷く。
ギルドカード?
ネット小説では、確か身分証明書の役割を果たしていたけど、この世界でもそうなのかな?
いかにもテンプレ的。

それから、ベンチに座ってミクルさんを待っていた。
キョロキョロと辺りを見渡す。
たくさん人がいる。
皆、日本じゃあり得ない服装。
あとなんだろう、顔面偏差値が高い。

チラリと横に座るアリスさんを見る。
綺麗な横顔だ。
この世界でもアリスさんは飛び抜けて可愛い方だろうな。
全てのパーツが完璧。
なんか良い匂いするし。
白衣が似合う美少女だ。

アリスさんがこちらへ顔を向けた。
目が合う。

「今僕のこと見てた?」
「はい、美人さんだなーって見惚れてました」
「モミジちゃん……!」

急に、アリスさんがぎゅっと私を抱き寄せ、頬擦りをしてきた。

わあ!

ムニュっと柔らかい頬の感触が肌を伝う。

「モミジちゃんも可愛いよう!森で出会った時から良い子の君を大好きになったんだよ」
「…うぅぅ…ありがとうございます…」

周りの人から視線を感じる。
しかも男の人たちの視線はなんだか熱いものを孕んでいる気が…。

お恥ずかしいのでやめていただきたいのですけど。

バシャーン

と水飛沫の音。
な、何…?

気付くと、アリスさんがずぶ濡れになっていた。ポタリ、ポタリ、と水がしたたっている。
水に濡れる白衣の美少女。
謎の色気を醸し出している。

「先生!何してるんですか!」

前方から怒声が聞こえた。
見ると、顔を真っ赤にして、プンスカと頬を膨らますミクルさんがいた。
その手には、木製のコップ。
どうやらミクルさんがアリスさんに飲み物をぶっかけたみたい。

「こんな公共の場で幼い女の子に手を出すなんて!あり得ないです!淫乱!」
「淫乱て…抱きしめただけなんだけど…」

アリスさんは懐から杖を取り出すと、自分の頭をポンと叩いた。
すると濡れた箇所が全て乾いていった。
わあ、魔法ってすごい・・・。
ミクルさんは呆れたようにため息を吐くと、私の前にしゃがんだ。

「モミジちゃん、ギルドカードを作成するにあたって、あなたの情報を教えて欲しいの。まず、どこから来たのかな?」
「えっと、日本から来ました」
「はい。年齢は?」
「12歳です」
「そうだったわね。それじゃあ、希望職業は?」

希望職業?
お仕事のことかな。最初から決めないといけないのだろうか。
私が黙っていると、ミクルさんが表のようなものを見せてくれた。

「この世界では、最初に職業を決めるの。そしたら、それに合わせたスキルが身に付いていくのよ」
「なるほど…」

表には、『お仕事一覧表』と書いてあった。
ちなみに、異国語だけど読める。
これも異世界転生の特典だろう。

闘士、剣士、侍、歩兵、弓使い、etc…

たくさんの職種が書いてある。
じっと見ていると、横からアリスさんが謎の圧をかけてきた。

「モミジちゃんは魔道士になるよねぇ」
「先生は黙っていてください」

ピシャンと冷たく言い放つミクルさん。
アリスさんは「はあい」と拗ねた子供みたいに返事をした。
うーん。
どれが良いかよく分かんないなあ。
職種名を一つ一つ読んでいく。
・・・まあ、これにしようかな。せっかく異世界に来たんだし。
私は「これでお願いします」と、指を差した。

【魔道士】

恐らく魔法使いのこと。

「さすがモミジちゃん」と頷くアリスさん。

「魔道士……ね。本当にそれで良いの?もっと考えてから後日に決めるのでも良いんだよ」

私はフルフルと首を横に振った。

「いえ、これで決定でお願いします」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

浮気性の旦那から離婚届が届きました。お礼に感謝状を送りつけます。

京月
恋愛
旦那は騎士団長という素晴らしい役職についているが人としては最悪の男だった。妻のローゼは日々の旦那への不満が爆発し旦那を家から追い出したところ数日後に離婚届が届いた。 「今の住所が書いてある…フフフ、感謝状を書くべきね」

双子の姉がなりすまして婚約者の寝てる部屋に忍び込んだ

海林檎
恋愛
昔から人のものを欲しがる癖のある双子姉が私の婚約者が寝泊まりしている部屋に忍びこんだらしい。 あぁ、大丈夫よ。 だって彼私の部屋にいるもん。 部屋からしばらくすると妹の叫び声が聞こえてきた。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。

window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。 そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。 しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。 不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。 「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」 リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。 幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。 平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。

(完)そんなに妹が大事なの?と彼に言おうとしたら・・・

青空一夏
恋愛
デートのたびに、病弱な妹を優先する彼に文句を言おうとしたけれど・・・

処理中です...