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ドラゴンさん
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ざあぁぁ、と葉擦れの音。
皮膚を掠める冷たい風。
頬をくすぐる小さな草達。
「うぅ…」
目を覚ますと、マヤは草むらで寝そべっていた。
ゆっくりと上体を起こす。
「ふぁ~」
とあくびを一つした。
大分長い時間眠っていたのか。
なんだか体がだるい。
キョロキョロと辺りを見渡すと、木々が生い茂っていた。
森の中のようだ。
「うーん?」
覚えがない。
マヤは腕を組んで、これまでの記憶を辿ってみた。
(えっと…確か、女神様に異世界召喚させられたんだよね…。面白い漫画を描くために…)
念のため頬をつねり、夢でないことを確認する。
(痛い…現実……)
信じられないが、本当に異世界に召喚されてしまったようだ。
と思ったところで、「いやいや」とマヤは首を横に振った。
(夢遊病か何かで森を彷徨ってしまったのかも…)
そんな事を考えていると、背後から、犬の鳴き声のようなものが聞こえた。
「キュウゥゥゥン」
「…?」
振り返ると、そこにいたのはーー
「ド…ドラゴン…?」
身長は三〇センチくらいで、全身が赤い。
大きなクリクリとした目をしていて、背中に羽が生えている。
マヤは驚きのあまり、ポテンと尻もちを付くと、そのまま後退りした。
「…うそ、うそ…。こんなの、あり得ない…」
でも目の前にいる可愛らしい生き物は確かにドラゴン。
小学生の時に図書室にある『幻想生き物図鑑』で見たイラストと同じだった。
「やっぱり私、本当に異世界に来ちゃったんだ」
でないとドラゴンがいるなんて状況、理解できようか。
マヤはゴクリと一つ唾を呑み込むと、ドラゴンに向かって丁寧な口調で語りかけた。
「こんにちは。ドラゴンさん」
ドラゴンはクリクリとした目をマヤに向けるだけで、うんともすんとも言わない。
(知性はないのかな…)
マヤとドラゴンがただ向き合うだけの時間が過ぎた。
変にドラゴンを刺激すると襲って来ないか不安だった。
(どうしよう…)
しかし、相変わらずドラゴンは呑気そうな視線をマヤに向けるだけ。
脅威になりそうな気配は全くなかった。
しばらく睨めっこをしていた両者だったが、ふいにマヤの中にある感情が芽生えてきた。
それはーー
「か、可愛い…描きたい…!」
漫画家の性なのかもしれない。
マヤは制服のポケットからスマホを取り出すと、お絵描きアプリを開いた。
そして、人差し指で器用に目の前のドラゴンを写生し始めた。
(うん、うん、うん、良い…すごく良い…)
慣れたもので、サササと描いていく。
五分もすると、ドラゴンの簡単なカラーイラストが出来上がっていた。
「わあ…初めてドラゴン描いた」
しかも、資料集などを参考にしたのではなく、ドラゴンの実物を見てである。
マヤは感極まり、スマホの画面をドラゴンの方へ向けた。
「見て、あなたを描いたの。どうかな…」
先程までの警戒はとっくに無くなっていた。
この呑気さは、無邪気な幼さゆえかもしれない。
ドラゴンはスマホの画面を見て、「キュウウウ?」と首をかしげた。
「やっぱり分からないよね…」
マヤがしゅんと寂しそうな顔を浮かべると、突然、ドラゴンの口が、大きく開いた。
(わ、あくびかな…?)
ドラゴンが口を開ききると、その中からニョロニョロと長い舌が出てきた。
(…す、すごい!こんなに長いベロみたの、初めて…)
ーーと、次の瞬間、
ものすごい速さでマヤのスマホに舌が伸びてきた。
「わっ」
舌はスマホに巻き付き、一気にドラゴンの口の中へ吸い込まれていった。
気が付くと、マヤの手からスマホは消えていた。
一瞬の出来事だった。
(えっと…スマホがドラゴンの中に吸い込まれていった…?)
ポカーンとするマヤ。
目の前の可愛らしい生き物から、「ゴクリ」と呑み込む音が聞こえた。
(…うん…。今、食べたよね…。私のスマホ…)
マヤは事態を認識すると、慌ててドラゴンをガッと掴んだ。
そしてその体を思いっきり上下に振った。
「ねえ!返しくださいいい…私のスマホ!」
(まずい、まずい!あれがないと担当さんと連絡が取れないし、何より今まで温めてきたアイデアが消えちゃうよぅ)
ドラゴンの体は重かったが、マヤは精一杯にその体を振った。
「…き、きみの体にも良くないと思うな…体に毒だよあんなもの! 鉛の塊だよっ!」
ドラゴンは揺らされながら、表情をピクリとも変えない。
マヤのスマホを吐き出す気配もない…。
「こ、こうなったら…」
マヤはドラゴンの足を掴み、逆さまに持つと、背中をペンペンと叩いた。
(お願い吐いて…!)
半泣き状態だった。
現代っ子からスマホを奪うなんて…なんという鬼畜。
(いやまあ、この子は悪くないんだけどね、不用意にスマホを出した私の責任なのだけども…)
突然、マヤにされるがままでいたドラゴンが、「キュオォォォォン」と大きな声を響かせた。
「…わっ」
マヤが驚いて手を離すと、ドラゴンはスタッと地面に二本足で着地した。
ドラゴンは、マヤの方へ鋭い視線を投げた。
その目は怒りに燃えているように見える。
(…ちょっとやりすぎちゃったかな…?)
不安になるマヤの耳に微かに「ガルルルル…」と低い唸り声のようなものが聞こえた。
「…ん? 何この音…」
よく耳を澄ますと、それは目の前の可愛らしい小さな生き物の喉元から聞こえていた。
次の瞬間ーー
ドラゴンの体が突如として巨大化し始めた。
「…へ?」
マヤは我が目を疑った。
ズモモモモ…とドラゴンの体がどんどんと大きくなるのだ。
(な、なにこれ…)
マヤは、目の前のドラゴンが巨大化するさまを茫然と眺めていた。
全体的に丸かったドラゴンのフォルムも、次第に角張ってきて、気付くとムキムキボディの本格的なドラゴンになっていた。
ドラゴンの巨大化が止まると、その身長はマヤの倍ほどになっていた。
皮膚を掠める冷たい風。
頬をくすぐる小さな草達。
「うぅ…」
目を覚ますと、マヤは草むらで寝そべっていた。
ゆっくりと上体を起こす。
「ふぁ~」
とあくびを一つした。
大分長い時間眠っていたのか。
なんだか体がだるい。
キョロキョロと辺りを見渡すと、木々が生い茂っていた。
森の中のようだ。
「うーん?」
覚えがない。
マヤは腕を組んで、これまでの記憶を辿ってみた。
(えっと…確か、女神様に異世界召喚させられたんだよね…。面白い漫画を描くために…)
念のため頬をつねり、夢でないことを確認する。
(痛い…現実……)
信じられないが、本当に異世界に召喚されてしまったようだ。
と思ったところで、「いやいや」とマヤは首を横に振った。
(夢遊病か何かで森を彷徨ってしまったのかも…)
そんな事を考えていると、背後から、犬の鳴き声のようなものが聞こえた。
「キュウゥゥゥン」
「…?」
振り返ると、そこにいたのはーー
「ド…ドラゴン…?」
身長は三〇センチくらいで、全身が赤い。
大きなクリクリとした目をしていて、背中に羽が生えている。
マヤは驚きのあまり、ポテンと尻もちを付くと、そのまま後退りした。
「…うそ、うそ…。こんなの、あり得ない…」
でも目の前にいる可愛らしい生き物は確かにドラゴン。
小学生の時に図書室にある『幻想生き物図鑑』で見たイラストと同じだった。
「やっぱり私、本当に異世界に来ちゃったんだ」
でないとドラゴンがいるなんて状況、理解できようか。
マヤはゴクリと一つ唾を呑み込むと、ドラゴンに向かって丁寧な口調で語りかけた。
「こんにちは。ドラゴンさん」
ドラゴンはクリクリとした目をマヤに向けるだけで、うんともすんとも言わない。
(知性はないのかな…)
マヤとドラゴンがただ向き合うだけの時間が過ぎた。
変にドラゴンを刺激すると襲って来ないか不安だった。
(どうしよう…)
しかし、相変わらずドラゴンは呑気そうな視線をマヤに向けるだけ。
脅威になりそうな気配は全くなかった。
しばらく睨めっこをしていた両者だったが、ふいにマヤの中にある感情が芽生えてきた。
それはーー
「か、可愛い…描きたい…!」
漫画家の性なのかもしれない。
マヤは制服のポケットからスマホを取り出すと、お絵描きアプリを開いた。
そして、人差し指で器用に目の前のドラゴンを写生し始めた。
(うん、うん、うん、良い…すごく良い…)
慣れたもので、サササと描いていく。
五分もすると、ドラゴンの簡単なカラーイラストが出来上がっていた。
「わあ…初めてドラゴン描いた」
しかも、資料集などを参考にしたのではなく、ドラゴンの実物を見てである。
マヤは感極まり、スマホの画面をドラゴンの方へ向けた。
「見て、あなたを描いたの。どうかな…」
先程までの警戒はとっくに無くなっていた。
この呑気さは、無邪気な幼さゆえかもしれない。
ドラゴンはスマホの画面を見て、「キュウウウ?」と首をかしげた。
「やっぱり分からないよね…」
マヤがしゅんと寂しそうな顔を浮かべると、突然、ドラゴンの口が、大きく開いた。
(わ、あくびかな…?)
ドラゴンが口を開ききると、その中からニョロニョロと長い舌が出てきた。
(…す、すごい!こんなに長いベロみたの、初めて…)
ーーと、次の瞬間、
ものすごい速さでマヤのスマホに舌が伸びてきた。
「わっ」
舌はスマホに巻き付き、一気にドラゴンの口の中へ吸い込まれていった。
気が付くと、マヤの手からスマホは消えていた。
一瞬の出来事だった。
(えっと…スマホがドラゴンの中に吸い込まれていった…?)
ポカーンとするマヤ。
目の前の可愛らしい生き物から、「ゴクリ」と呑み込む音が聞こえた。
(…うん…。今、食べたよね…。私のスマホ…)
マヤは事態を認識すると、慌ててドラゴンをガッと掴んだ。
そしてその体を思いっきり上下に振った。
「ねえ!返しくださいいい…私のスマホ!」
(まずい、まずい!あれがないと担当さんと連絡が取れないし、何より今まで温めてきたアイデアが消えちゃうよぅ)
ドラゴンの体は重かったが、マヤは精一杯にその体を振った。
「…き、きみの体にも良くないと思うな…体に毒だよあんなもの! 鉛の塊だよっ!」
ドラゴンは揺らされながら、表情をピクリとも変えない。
マヤのスマホを吐き出す気配もない…。
「こ、こうなったら…」
マヤはドラゴンの足を掴み、逆さまに持つと、背中をペンペンと叩いた。
(お願い吐いて…!)
半泣き状態だった。
現代っ子からスマホを奪うなんて…なんという鬼畜。
(いやまあ、この子は悪くないんだけどね、不用意にスマホを出した私の責任なのだけども…)
突然、マヤにされるがままでいたドラゴンが、「キュオォォォォン」と大きな声を響かせた。
「…わっ」
マヤが驚いて手を離すと、ドラゴンはスタッと地面に二本足で着地した。
ドラゴンは、マヤの方へ鋭い視線を投げた。
その目は怒りに燃えているように見える。
(…ちょっとやりすぎちゃったかな…?)
不安になるマヤの耳に微かに「ガルルルル…」と低い唸り声のようなものが聞こえた。
「…ん? 何この音…」
よく耳を澄ますと、それは目の前の可愛らしい小さな生き物の喉元から聞こえていた。
次の瞬間ーー
ドラゴンの体が突如として巨大化し始めた。
「…へ?」
マヤは我が目を疑った。
ズモモモモ…とドラゴンの体がどんどんと大きくなるのだ。
(な、なにこれ…)
マヤは、目の前のドラゴンが巨大化するさまを茫然と眺めていた。
全体的に丸かったドラゴンのフォルムも、次第に角張ってきて、気付くとムキムキボディの本格的なドラゴンになっていた。
ドラゴンの巨大化が止まると、その身長はマヤの倍ほどになっていた。
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