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奴隷解放

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 今日もみんなで、神器級の剣を創るための準備をしている。女神が創ったものと同等の物を人間が創ろうというのだから、色々大変なのだ。

 俺はノエルの指示に従い雑用をしながら、最近の出来事について考え事をしている。

 アイリとフィリスに魂のハーネスが発現したのは、俺が危険に晒されたのがきっかけだった……? いや、俺が危険に晒されたタイミングではなくて、彼女たちの感情が振りきれたときに発現したように思えるな。 

 試してみるか。俺は昼食時にノエルに聞いてみる。

「ちょっと試したいことがあるから、クレアを連れて出掛けてもいい?」

 するとノエルは「カイトがしたいことはなんとなく分かる。いいよ」とあっさりOKしてくれた。

「そういう訳だからクレア、午後は二人でデートしよう」

 クレアが「デートですか? 行きます! 行きます!」と大喜びで返事をする。この子はいつも元気だ。

 昼食が終わるとすぐに、俺はクレアに手を引っ張られながら屋敷を出発するのだった。

 

 * * *



 俺とクレアはアーリキタの街にある奴隷商の館まで来た。

「あの、カイト様? なんでここへ……」

 不安そうな顔で俺を見上げるクレア。

「そろそろさ、クレアの奴隷を解放しようか?」

 クレアは「嫌です!!」と俺の手を放して、魔装術を発動し逃走した。

 おぉ、速いな。もうあんな遠くに……。クレアも速く動けるようになったんだなぁ……。

 感心してる場合じゃないな。俺も魔装術を発動し追いかけ、逃げるクレアに手のひらを向けて、言霊を唱えた。

「チェーンバインド」

 柔らかめのチェーンに調整したチェーンバインドでクレアを捕まえる。クレアに苦痛を与えたくはないからな。

 身動きの取れなくなったクレアは、恍惚の表情で俺におねだりする。
 
「ああ、カイト様! もっときつく縛ってください!」

 ……どうやら、気遣いは不要だったようだ。とはいえクレアの綺麗な肌に跡が残ったら嫌なので、きつく縛るようなことはしない。

 柔らかい光の鎖でぐるぐる巻きのクレアを、お姫様抱っこして奴隷商の館に入って行った。



 奴隷商の館に入ると、スーツの男が奥から出てくる。

「今日はどのようなご用件で?」

「この子を奴隷から解放して欲しいんだけど」

「このような上玉を一体どこで?」

 スーツの男はピクリと顔を動かした後、鑑定眼鏡を取り出しクレアにつけられた奴隷の指輪を見る。

「こ、これは、あの時十万イェンで売った奴隷!? なぜこのような上玉に……。奴隷の指輪を付け替えた形跡は見られない。まさか、ノーブルスキル『変身』持ちか……?」

 へー、さすが奴隷商。なにも言っていないのにそこに辿り着いたか。でもクレアが『変身』持ちなのは俺達だけの秘密だから、スーツの男の言葉に否定も肯定もせずに流しておく。

「で、どうなの? 解放してくれるの?」

 スーツの男は慌てて首を振る。

「解放するなんて勿体ない。五千万……いえ、六千万イェンで買い取らせてください」

「売る気は無いよ。解放だけして」

「ならば七千万でいかがか?」

 スーツの男の声は次第にヒートアップしていく。どんな金額を提示されたって、売るつもりなどあるわけない。俺が黙って首を横に振って拒否すると、スーツの男は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに真顔に戻った。
 
「……分かりました。こちらへどうぞ」

 スーツの男の案内について行くと、地下の部屋に案内された。

「こんなところで解放の儀式するの?」

「いえ、申し訳ありませんが、お客様にはここで原因不明の病死をしていただきたく思います」

「は?」

「その娘の美しさなら、一億イェンはくだらないでしょう。大人しく売っていれば死なずにすんだのですよ」

「ああ、そういうこと? いいよ、相手してあげる。見たところあんたじゃ俺の相手にならなさそうだけどいいの?」

 スーツの男は本性を現し、口元を歪めて笑った。

「ククッ、貴方のことは覚えておりますよ。何か月か前にパーティーメンバー用に奴隷を買いに来た新人冒険者でございますね。しかしイキるのはまだ早すぎるのではありませんか?」

 スーツの男は悪人モード全開で続ける。大げさな身振り手振りが少しイラつく。

「その様子だと冒険者が板についたようですが、経験の浅い冒険者が最強気取りになるのはよくあることです。今から貴方の相手をするのはAランク級戦闘奴隷でございます。絶対的な実力の差というものを学んでから、この世を旅立つとよいでしょう」

「はいはい。早いとこ頼むよ」

 俺が光の鎖でぐるぐる巻きのクレアを下ろして立たせると、奥から剣士が出てきた。さすがAランク級だ。闘気がそこらの冒険者とは桁違いだ。かなり強いに違いない。あくまで並の人間レベルでだが。

「やれ」

 スーツの男の指示に従い、奴隷剣士は踏み込んで俺に斬りかかる。俺は棒立ちのまま魔装術を軽く発動し、下段から俺の頸に迫る刃を指二本でつまんで止めた。

 奴隷剣士は驚きの表情で俺を凝視する。

 その状態で俺が軽く魔力を放出すると、剣士は吹っ飛び壁に激突した。スーツの男は予想外の出来事に思わず声をあげた。

「なっ、今の光はまさか神聖魔法のホーリーレイか!? 貴様、神聖魔法が使えるのか?」

「今のはホーリーレイなんかじゃない。俺からこぼれた魔力を、軽くそいつにぶつけただけだ」

「なん、だと?」

 驚愕し、目を見開くスーツの男。

「俺のホーリーレイを食らってみるか?」

 俺が魔装術に込める魔力量を増やすと、体を覆うオーラが放つ光が強くなって、地下室を明るく照らす。

「おのれ!! これならどうだ!?」

 スーツの男が叫び、壁にある装置を操作すると、Aランク級と思われる波動を持った戦闘奴隷がわらわらと出てきた。

 うわー、いっぱいいるなぁ。Aランク級って何千人に一人って誰か言ってなかったっけ? でも、こちとら女神とケンカしようとしているんだ。Aランクだろうと超越者でもない奴が何人いても無駄なんだよ。

 俺は出てきた戦闘奴隷を片っ端からチェーンバインドで拘束してやった。

 身動きの取れない戦闘奴隷たちを目の当たりにしたスーツの男は、尻もちをつき脂汗べったりな顔で俺を見る。

「お、お前の目的はなんだ!?」

「だから、この子を奴隷から解放してって言ってるでしょ」

「しかし、その娘の美しさなら相当な価値が……」

「あいにくお金には困っていないんでね。それに、奴隷の指輪くらい俺の力でも簡単に消せるさ。ただ、形式に則っておこうと思っただけなんだよ」

 俺は少し威圧を込めて続ける。
 
「この子は俺の大切な人なんだ。絶対に他人に渡す気はない。奴隷の解放だけ頼むよ」

「はい……。承知しました」

 俺の言葉にガタガタ震えながら、スーツの男は頷いてくれた。



 多少のゴタゴタはあったが、当初の目的である奴隷の解放をするための儀式をする部屋に案内された、

 さぁ、奴隷解放の儀式を始めようか、というところで、クレアは光の鎖に巻かれた状態で大騒ぎして抵抗する。

「カイト様とのつながりが消えるのは嫌です!」

「つながりと言えばそうかもしれないけど、奴隷としての主従関係なんて、絆とは言えないだろ?」

「カイト様の奴隷がいいんです! どうして今さら解放しようとするんですか!? 闇落ちしてやるー! 悪霊になってやるー!」

 拘束されたまま、エビが跳ねるように暴れ、大声で泣きわめくクレア。この子の奴隷プレイに対する執着はとてつもなく大きいようだ。

 その時、俺の体の奥底に、何か温かいものが触れたような感じがした。この感覚はもしかして……。

「なぁ、クレア。俺の声が聞こえるか?」

 俺は頭の中でクレアに問いかけた。

「何ですか!? 聞こえるにきまってますよー!!」

 泣き声をあげながら俺の顔を見るクレア。再び頭の中でクレアに呼びかける。

「俺の心の声が……、聞こえるんだな?」

「へ?」

 クレアは泣き止んで、キョトンとしている。

「クレアとの間にも魂のハーネス発現したみたいだな」

「魂のハーネス……ですか?」

「そうだ。隷属契約なんかじゃない、本当の俺達の絆だ」

「カイト様と私の絆……。えへへ」

 だらしない顔で笑うクレアに俺は問う。

「隷属契約なんてもういらないだろ?」

「はい!」



 * * *



 そして帰り道。クレアは俺に甘えるように腕に抱き着いている。

「カイト様、大好き」

「もう『様』なんか付けなくていいのに」

「私はカイト様の奴隷でいたいんですっ!」

 どうやらクレアは奴隷プレイの続行が望みのようだ。どうぞ、好きにしてください……。俺は生温かい視線を送りつつ、クレアの頭を優しく撫でてやるのだった。
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