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スローライフ 挿絵有
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あいつ、あれだけの傷を負ってまだ立ちあがれるのか?
ベネットは忌々し気にアルスを睨んでいるが、もう彼女には攻撃するだけの力は残っていない。
アルスが如何に規格外の強さを持っていたとしても、あれだけ傷んでいれば、俺でも止めを刺せるだろうか? 俺は拳を握り、呼吸を整え構えた。
そのとき、二つの赤い転移魔法陣が現れた。くっ、新手か!?
転移してきたのは長い金髪にウエーブのかかった美少女と、銀髪ロングのストレートの美少女だった。二人とも、強大な魔力を内包しているのが感じられる。転移魔法陣で移動してきたことも併せて考えると、最上位の魔導士に違いない。
くそ、何とかしてベネットだけでも逃がす方法は……。俺がベネットを抱き上げ、後ずさりをしていると、アルスは現れた美少女に声を掛けた。
「なんだ、マリーとシーナも来たのか」
その後、アルスは自身の全身にある傷を全く気にしていない様子で、俺に笑いかけた。
「二人とも僕の妻だよ。金髪の子がマリーで、銀髪の子がシーナ。どちらもベネットさんに負けないほどの美人だろ?」
マリーは目を吊り上げてアルスに歩み寄った。
「来たのか、じゃないでしょ!? 一人で勝手に出撃して! あなたは王としての自覚が足りないのよ!」
シーナも呆れ顔でアルスを見ている。
「そんなにボロボロになって……、随分と楽しめたみたいね?」
そう言いながら杖を一振りすると、アルスの傷は消え去り、服も新品同様になった。
「いやーちょっと舐めプが過ぎたかな? ベネットさんの強さは想像以上だった。今回は僕の負けを認めるよ。それと、ベネットさんにも治癒魔法をかけてあげて」
あまりに意外なアルスの物言いに、俺はつい「は?」と声が漏れる。
「別に君たちの仲を裂きに来たんじゃないんだ。騎士団から報告を受けたブラッディマッシュが、脅威かどうかを見極めに来ただけなんだよ」
マリーがアルスに突っ込む。
「単にアルスが強いモンスターと、戦いたかっただけでしょ?」
「まぁ、それも少しはあるね。でも、僕の超鑑定によると、二人は深く愛し合っていることと、ベネットさんが人類の脅威にはなりえないってことが分かったから、良しとしようじゃないか」
愛し合ってるとか、大きな声で言うな……。ベネットは嬉しそうに顔をほころばせて、俺の顔を眺めている。
「ウィルさん、これからもベネットさんを大切にね」
「言われなくてもそうするさ」
アルスは、軽く笑うとベネットに向く。
「ベネットさん、気が向いたら人類を滅ぼすために暴れてもいいからね? その時は僕が全力で相手するよ」
ベネットは嫌そうに顔をしかめてアルスを見る。シーナは持っていた杖でアルスの頭をはたいた。
「期待を込めて物騒な事を言うな! ポンコツ王!」
「そうそう、鑑定したときにウィルさんの記憶を見させてもらったけど、ブラッディマッシュの存在を騎士団に密告した赤い髪の子は、かなりの悪さをしていたようだね。彼女には罪を償ってもらうように騎士団に伝えておくよ」
一度に多くの事が起こりすぎて、あっけにとられていた俺は「はぁ……」と気の抜けた返事をしていた。
「じゃあ、僕たちはこれで失礼させてもらうよ」
満足そうに笑うアルス。その後、彼らは転移して去って行った。
* * *
ベネットとアルスが戦ってから一月がたった。俺達は、人間が近寄らないような深い森の奥で、仲良く暮らしている。
あの戦いの後、住むのにちょうど良さそうなところを探して旅をしていた。
そして、この森を見つけて、よしここに住もう! と決めた直後に、タイミングよくアルスが転移魔法陣で登場し、謎の技術で一軒家をプレゼントしてくれた。アルスの懐からポンッと家が出てきたように見えたが詳細は不明だ。
正直助かったが、アルスは「ベネットと楽しくバトルできたお礼」とか言っていたので、ベネットは物凄く嫌そうな顔をしていた。
ついでに服を燃やしてしまったお詫びとして、大量の服も貰った。アルスのチョイスは良く分かっており、俺の性癖を十分にフォローしてくれていた。
「ねー、ウィルー、この服ほとんど布が無いけど、こんなのがいいの?」
「ああ、そうだ。だが、人前でその恰好はダメだぞ? 俺と二人きりの時限定だからな!」
「ふーん? ウィルが嬉しいならそれでいいや」
と、ベネットに着せて喜んでいる。
もちろん、ずっとそんな事ばかりしているわけではない。まだ冒険者を引退するつもりはないので、体を鍛えつつ、森で狩りをしている。この森には強力な魔獣や蟲が多数生息しており、ベネットの食糧に困らないのがいい。
成長を続けるベネットは、転移魔法陣も操れるようになったので、たまに街に転移してこの森で採れた素材を換金しつつ、生活に必要な物を購入したりも出来るようになった。
ある日、転移魔法陣の赤い光が見えたので庭に出ると、あの王様が笑顔で手を振っていた。
「Sランクモンスターの視察に来たよ」
なるほど、暇つぶしか。この王様、割と自由に一人で行動してるよな。まぁ、この人を暗殺出来る奴なんていないだろうから問題ないのかねぇ?
アルスは世間話をはさみつつ、近況を俺に知らせる。ブラッディマッシュの存在は各方面に知られないように根回ししたそうだ。
そうしなければ、討伐隊が組まれて攻めて来たり、名声を上げるために冒険者が挑みに来るだろうとのこと。そこは素直に感謝しておくか。
それと、俺を嵌めた赤髪のリーダー格は逮捕され、牢屋にぶち込まれたそうだ。
ボコられた直後は仕返したかったが、今は何とも思わない。……いや、彼女の仲間を殺したのは気が咎めているか。彼女は残りの人生ずっと俺を恨んで苦しみ続けるだろう。そう考えると胸が痛む。それが俺の復讐だと言い切れる性格なら、まだ良かったのだが……。
俺から奪った金は、全額使われていて返ってこなかったが、それももうどうでもよかった。この森で手に入る素材を売れば生活に必要な金は手に入るし、俺にはベネットという、かけがえのない財産があるんだからな。
このままいつまでも、かわいい相棒と暮らしていければいい。俺はそう思いながら、今日もベネットと一緒に森へ狩りに出かけたのだった。
ベネットは忌々し気にアルスを睨んでいるが、もう彼女には攻撃するだけの力は残っていない。
アルスが如何に規格外の強さを持っていたとしても、あれだけ傷んでいれば、俺でも止めを刺せるだろうか? 俺は拳を握り、呼吸を整え構えた。
そのとき、二つの赤い転移魔法陣が現れた。くっ、新手か!?
転移してきたのは長い金髪にウエーブのかかった美少女と、銀髪ロングのストレートの美少女だった。二人とも、強大な魔力を内包しているのが感じられる。転移魔法陣で移動してきたことも併せて考えると、最上位の魔導士に違いない。
くそ、何とかしてベネットだけでも逃がす方法は……。俺がベネットを抱き上げ、後ずさりをしていると、アルスは現れた美少女に声を掛けた。
「なんだ、マリーとシーナも来たのか」
その後、アルスは自身の全身にある傷を全く気にしていない様子で、俺に笑いかけた。
「二人とも僕の妻だよ。金髪の子がマリーで、銀髪の子がシーナ。どちらもベネットさんに負けないほどの美人だろ?」
マリーは目を吊り上げてアルスに歩み寄った。
「来たのか、じゃないでしょ!? 一人で勝手に出撃して! あなたは王としての自覚が足りないのよ!」
シーナも呆れ顔でアルスを見ている。
「そんなにボロボロになって……、随分と楽しめたみたいね?」
そう言いながら杖を一振りすると、アルスの傷は消え去り、服も新品同様になった。
「いやーちょっと舐めプが過ぎたかな? ベネットさんの強さは想像以上だった。今回は僕の負けを認めるよ。それと、ベネットさんにも治癒魔法をかけてあげて」
あまりに意外なアルスの物言いに、俺はつい「は?」と声が漏れる。
「別に君たちの仲を裂きに来たんじゃないんだ。騎士団から報告を受けたブラッディマッシュが、脅威かどうかを見極めに来ただけなんだよ」
マリーがアルスに突っ込む。
「単にアルスが強いモンスターと、戦いたかっただけでしょ?」
「まぁ、それも少しはあるね。でも、僕の超鑑定によると、二人は深く愛し合っていることと、ベネットさんが人類の脅威にはなりえないってことが分かったから、良しとしようじゃないか」
愛し合ってるとか、大きな声で言うな……。ベネットは嬉しそうに顔をほころばせて、俺の顔を眺めている。
「ウィルさん、これからもベネットさんを大切にね」
「言われなくてもそうするさ」
アルスは、軽く笑うとベネットに向く。
「ベネットさん、気が向いたら人類を滅ぼすために暴れてもいいからね? その時は僕が全力で相手するよ」
ベネットは嫌そうに顔をしかめてアルスを見る。シーナは持っていた杖でアルスの頭をはたいた。
「期待を込めて物騒な事を言うな! ポンコツ王!」
「そうそう、鑑定したときにウィルさんの記憶を見させてもらったけど、ブラッディマッシュの存在を騎士団に密告した赤い髪の子は、かなりの悪さをしていたようだね。彼女には罪を償ってもらうように騎士団に伝えておくよ」
一度に多くの事が起こりすぎて、あっけにとられていた俺は「はぁ……」と気の抜けた返事をしていた。
「じゃあ、僕たちはこれで失礼させてもらうよ」
満足そうに笑うアルス。その後、彼らは転移して去って行った。
* * *
ベネットとアルスが戦ってから一月がたった。俺達は、人間が近寄らないような深い森の奥で、仲良く暮らしている。
あの戦いの後、住むのにちょうど良さそうなところを探して旅をしていた。
そして、この森を見つけて、よしここに住もう! と決めた直後に、タイミングよくアルスが転移魔法陣で登場し、謎の技術で一軒家をプレゼントしてくれた。アルスの懐からポンッと家が出てきたように見えたが詳細は不明だ。
正直助かったが、アルスは「ベネットと楽しくバトルできたお礼」とか言っていたので、ベネットは物凄く嫌そうな顔をしていた。
ついでに服を燃やしてしまったお詫びとして、大量の服も貰った。アルスのチョイスは良く分かっており、俺の性癖を十分にフォローしてくれていた。
「ねー、ウィルー、この服ほとんど布が無いけど、こんなのがいいの?」
「ああ、そうだ。だが、人前でその恰好はダメだぞ? 俺と二人きりの時限定だからな!」
「ふーん? ウィルが嬉しいならそれでいいや」
と、ベネットに着せて喜んでいる。
もちろん、ずっとそんな事ばかりしているわけではない。まだ冒険者を引退するつもりはないので、体を鍛えつつ、森で狩りをしている。この森には強力な魔獣や蟲が多数生息しており、ベネットの食糧に困らないのがいい。
成長を続けるベネットは、転移魔法陣も操れるようになったので、たまに街に転移してこの森で採れた素材を換金しつつ、生活に必要な物を購入したりも出来るようになった。
ある日、転移魔法陣の赤い光が見えたので庭に出ると、あの王様が笑顔で手を振っていた。
「Sランクモンスターの視察に来たよ」
なるほど、暇つぶしか。この王様、割と自由に一人で行動してるよな。まぁ、この人を暗殺出来る奴なんていないだろうから問題ないのかねぇ?
アルスは世間話をはさみつつ、近況を俺に知らせる。ブラッディマッシュの存在は各方面に知られないように根回ししたそうだ。
そうしなければ、討伐隊が組まれて攻めて来たり、名声を上げるために冒険者が挑みに来るだろうとのこと。そこは素直に感謝しておくか。
それと、俺を嵌めた赤髪のリーダー格は逮捕され、牢屋にぶち込まれたそうだ。
ボコられた直後は仕返したかったが、今は何とも思わない。……いや、彼女の仲間を殺したのは気が咎めているか。彼女は残りの人生ずっと俺を恨んで苦しみ続けるだろう。そう考えると胸が痛む。それが俺の復讐だと言い切れる性格なら、まだ良かったのだが……。
俺から奪った金は、全額使われていて返ってこなかったが、それももうどうでもよかった。この森で手に入る素材を売れば生活に必要な金は手に入るし、俺にはベネットという、かけがえのない財産があるんだからな。
このままいつまでも、かわいい相棒と暮らしていければいい。俺はそう思いながら、今日もベネットと一緒に森へ狩りに出かけたのだった。
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