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ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

35.面倒ごと

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 さて、昼から何しようか……。と考えていると久奈が結月に言う。

「結月、私にも剣術教えてー」

「いいよ。久奈の技量ならPvPで打ちあうのが効率良さそう」

 二人で剣術の訓練をするようなので、俺は訓練場に行こうかな、と思い二人に伺いを立てる。

「じゃあ、俺は一人で訓練場行って、魔法を全種類憶えてきてもいい?」

「分かった。でも女の子にナンパされないように気を付けてね」

 久奈に釘を刺されたので、俺が頷いていると、結月にも一言もらう。

「樹は強引に迫られると断れないから」

「はは……気を付けるよ。変な男に絡まれる事はあっても、女の人に絡まれたりはしないと思うよ」

 俺は苦笑いで二人に返しつつ、一人で訓練場に向かった。



 * * *



 訓練場へ行き一通りの魔法を習得した。取り敢えず使えるようにしておけば、あとは練習次第でどうにでもできるからな。

 それにしても、最近は常に久奈と結月が一緒だから、一人で行動するのが何となく新鮮に感じてしまう。現実世界では、女の子と話さないことの方が普通だったのに。

 この世界は本当に楽園だな、などと考えながら歩いていると、後ろから「柳津君」と呼ばれた。

 振り返ると、金髪に赤のメッシュが入った肩までの長さの髪、黒のタンクトップに黒のミニスカート。ニーソの絶対領域の隙間から白い太ももを眩しく覗かせる美少女がいた。もちろん、久奈と結月の方が美人だが。

 誰だ? 知らない子だな……。ファンタジーな外見だけどNPCとは違うよな? と考えていると、その子は俺に歩み寄る。

「誰か分からない? 相場未来あいばみきだよ」

「あー、確か中三のとき同じクラスだったっけ?」

「高校も同じだよ。クラス違うけど」

 同じ学校だったのか……知らなかった。クラス違うしな。相場未来と言えば、太い黒ぶち眼鏡で、もっさりとした長い黒髪だったような?

「この世界の美容院で、できる限り美人にしてってお願いしたらこうなったんだ。凄いでしょ」

 華麗に異世界デビューしたんだね。と心の中で言いながらとりあえず褒めることにする。

「確かに見違えたよ、綺麗になったね」

「なっ……、アリガトウ」

 相場さんは、少し顔を赤くして俯く。少しの間の後、彼女は何かを思い出したように顔を上げた。

「ところで柳津君はゲームの攻略進めてる?」

 ゲームマスターと知り合って、隠しダンジョン的なところで、魂力を上げているとは答えられないよなぁ……。

「イヤ……、まあ……、ボチボチ」

「私の魂力1500くらいなんだけど、柳津君はいくつ?」

 本当は一桁違うけど、正直に答えると、きっと面倒なことになるだろう。

 俺が「俺も同じくらいかな」と無難に答えると、相場さんは続けて質問をする。

「じゃあ固有スキルも持ってるの?」

「あ、あぁ、でも俺のは大したことないよ」

「私のは弓を使って攻撃すると、威力とかいろいろ強化されるみたい」

「へー、そうなんだ」

「私の事、全く興味無さそうだね」

「そんな事は……」

「なんか変に落ち着かないし」

 こんなところ久奈と結月に見られたら、何を言われるか分かったもんじゃないからな。俺がおどおどしていると、相場さんは声をあげる。

「ハッ、まさか私に惚れてしまった? それで態度がおかしいの?」

 俺がきっぱり「それは無い」と答えると、相場さんのテンションは露骨に下がった。

「じゃあ、一回だけフィールド行こうよ」

 どうしようかと俺が迷っていると、相場さんは必死になって頼み込む。

「一人だとボスに勝てないし、他の男に頼むと口説いて来るから面倒だし。お願い! 一回だけ!」

 相場さんは俺の手を握り引っ張る。こんなところ久奈と結月に見られたら大惨事だ。仕方ない、行くか。

 その前に、久奈と結月のグループにメッセージを送っておかないと。
 視界のインターフェースを操作して「面倒ごと。ちょっと西のフィールドに行ってくる」と送信すると、すぐに「OK」と「了解」のスタンプが返ってきた。



 相場さんと二人で、西の転移ゲートの広場に向かう。西のフィールドは森林のフィールドで、木々が空を覆うように茂り薄暗い。
 虹刀を出すといろいろ聞かれそうなので、ミスリル刀を出して腰に下げた。

「柳津君は刀を使ってるんだね。妙にさまになっているなぁ」

 相場さんは感心した様子で、俺の事をじっくりと見ている。なんか照れるな。

「そうかな、見掛け倒しなんだけどね」

「そんなことないって、カッコイイよ」

「あ、ありがとう。じゃあ、進もうか」

 相場さんの視線は、熱を帯びているように感じる。もしかして相場さんって俺の事……? いや、まさかね。自意識過剰だよな。



 このフィールドの出現モンスターはリス、蛇、狼など動物形だ。
 切り捨てることに多少躊躇するが、切っても血が噴き出したりはしない。岩でできたモンスター同様、倒すと霧散して消滅する。

 相場さんもある程度戦い慣れしているようで、弓矢をうまく使って、次々とモンスターを仕留めていく。どんどん進むと森が開けたところに出た。奥には大扉がある。中ボスの広間か。

 大扉の前には、大きな木の幹に不気味な顔があるモンスターがいる。トレントかな?

「俺が前に出て注意を引き付けるから、相場さんは弓で攻撃して」

「分かった」

 ゲームを進めるなと言われてるんだけどな……俺が倒さなければいいか、と考えつつ木のモンスターに歩いて近づく。すると地面から根っこが槍の様に突き出して来た。俺は軽く左に跳んで躱す。

 木のモンスターは矢のように枝を飛ばしてきたり、太い枝を振り下ろして叩きつけてくるが、魂力が違いすぎるため攻撃が遅く感じる。
 本体を攻撃すると、おそらくワンパンで終わってしまうので、攻撃を払いのける為だけに刀を振るう。

 俺がモンスターをひきつけ、回避に専念していると、相場さんは次々に矢を命中させている。いくつもの矢を受けた木のモンスターは倒れて消滅した。
 相場さんは俺に駆け寄る。

「柳津君、強すぎない?」

「え? 俺は全く攻撃してないよ」

「あいつの攻撃を一度も受けずに余裕で避けてなかった?」

「あー、まぐれかな……。それよりそこの大扉開けてみて」
 
 相場さんに予想外の指摘を受けたので、誤魔化す為に大扉を開けるように促す。すると、相場さんは大扉に手を当て、押し開けた。

 大扉を開け次のエリアが解放されると、広間の中央に転移ゲートが出現した。そこに入りセンターに戻ると、久奈と結月がいた。

 相場さんと二人でいる俺を見つけた久奈が、ジト目で俺に言う。

「樹が女の子とデートしてるー」

 結月は冷たい笑顔を俺に向けている。口元は笑っているのに、目つきが怖い……。

「樹、ずいぶん楽しそうな面倒ごとだね?」

 久奈と結月の言葉に、俺が委縮して何も言えないでいると、相場さんは申し訳なさそうな顔で久奈と結月に頭を下げる。

「柳津君をちょっと借りました。ごめんなさい。ありがとう」

 相場さんは俺にも軽く頭を下げた後、去って行った。



 久奈が俺の手を握りながら言う。

「あれ、相場さんだね」

「え、見た目だいぶ変わってるのに分かるの?」

 久奈が「分かるよ」と答えると、結月も俺の手を握りながら聞く。

「で、何してたの?」

「中ボス倒すの手伝わされてた」

「ホントに押しに弱いよね、樹は」

 やれやれといった表情の二人に、俺は「すいません」と頭を下げるのだった。





++++++++++++++++++++




 こんなところで柳津君に出会えたから運命かと思ったのに。

 まさか中学時代に男子からの人気ダントツ一位だった鳴海さんと、高校で一番美人な桜花さんが出てくるなんて……。

 すごく仲が良さそうだったな……。さすがにあの二人には勝てないだろうな。

 柳津樹君、私の初恋だったのに。
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