上 下
30 / 119
ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

31.疾風さん

しおりを挟む
 俺の固有スキルの解説と心の内の暴露が一通り終わったところで、ルイさんは話を変える。

「せっかくだから、樹君と結月さんも空を飛べるようにしておいて。まずは、訓練場に行って適当に風魔法を習得してきて、適当に使っていれば風魔法のコツが分かってくるだろう」

「訓練場で魔法の形や消費MPや発動の言葉を設定しているのは、魂力が弱く魔法を制御できないのをシステムでアシストする為だ。今の君達の魂力ならイメージだけで制御できるはず」

「もちろん、久奈さんのように固有スキルで大幅な強化がされるわけではない。それでも空を自在に飛ぶくらいなら練習すれば出来るようになるはずだ」

「飛べるようになったらご褒美をあげるから、頑張って」



 そういうわけで、俺達は訓練所に行くことにした。訓練場とは名ばかりで、中の様子は銀行のATMコーナーとほとんど変わらない。俺と結月は訓練場の端末へ風魔法を習得しに行く。久奈はもう覚えているので、訓練場の中に設置してある椅子に座って一人で待っていた。

 俺が風魔法を習得して久奈のところに行くと、久奈がちょっとイケメンな男に絡まれていた。

「一緒にフィールドに行こうよ」

 どうやらナンパされているようだ。俺が近づくと久奈はその男に「ごめんなさい」と頭を下げて俺の方に駆け寄ってきた。男の矛先が俺に向かう。

「君はその子の友人なのか?」

「……」

 俺が黙っていると、久奈は俺の腕を抱いて男に答える。

「私の恋人だよ」

「そんな弱そうな男が、君みたいな可愛い子の恋人?」

 男は俺を見下して軽く鼻で笑い、得意げに語りだした。

「俺は疾風のカズヤ。超強力な固有スキルが目覚めて、さっき東のフィールドの2番目の中ボスを倒して来たんだ! 俺と一緒にいこうよ!」

 二つ名をドヤ顔で名乗ってしまう奴など、絶対に面倒臭いに決まっているので早々に帰ろうとする。

「そうなんですか。凄いですね。知りませんでした。では失礼します」

 結月も風魔法を習得して俺達と合流する。久奈が俺とくっついているのを見て、俺の空いている方の腕に抱きつく。すると男は、目を見開いて驚いている。

「なっ、まさかこの美人も?」

「……」

 俺は無視してさっさと歩きだし訓練場から出る。当然その男もついてきて、俺を呼び止めた。

「まて! そんな可愛い子二人と二股しているとは許せん! 俺と勝負しろ!」

 ハァ……やっぱりこうなった。即座に俺は「ヤダ」と答える。

 この男がどれほど強力な固有スキルを持っているかは知らないが、全く負ける気がしない。でも、さっさと帰って飛ぶ練習がしたいんだよ。と思っていたら結月が耳打ちする。

「一捻りした方が早いかもよ? しつこそうだし」

 しょうがないので勝負を受けることにする。俺は、ふぅと息を漏らしながら疾風さんに言う。

「分かった、相手するよ。ここでするの?」

「フッ、俺が本気で戦うと辺りに被害が出る。東のフィールドの2番目の広場で勝負だ」

「ハイハイ」

 渋々、疾風さんに付いていく。そういえば東のフィールドって行ったことないな。どんなところだろ? 東の転移ゲートの広場には3個の転移ゲートが浮かんでいる。男に付いて転移ゲートに入る。

 転移ゲートを抜けるとそこは屋外ではなくゲームでよく見る城の大広間のようなところだった。高い天井にシャンデリア、大理石の柱に、細かい装飾のある豪華な壁面。

 岩だらけの北のフィールドよりこっちの方が面白そうだな。でもゲームを進行するなって言われてるからこっちを攻略するわけにもいかないか。

 疾風さんから決闘の申し込みを受ける。向かい合って礼をして構える。

 疾風さんは剣を構えて、俺に自分の固有スキルの解説を始めた。ハァ、興味ないな……。

「俺の固有スキルはスピードが大きく上昇する。同時に反応速度も上がる!」

 言い終わると、勢いよく切り込んできた。疾風さんが振り下ろした剣を、俺は刀で受けいなす。疾風さんは必死の形相で剣を振り回し、時折剣スキルも使用し攻撃をしてくる。

 確かに速いが、結月よりずっと遅い。何よりこいつは剣を適当に振っているだけで剣術じゃない。

 時々使ってくる剣スキルによる剣技は基本に忠実で正確だ。だが読みやすく対処しやすいと結月が以前言っていたが、その通りだと思った。

 そもそも、魂力の大きさが違いすぎて勝負にならない事は最初から分かっていたけどね。

 疾風さんが剣を思い切り振り上げたときに、がら空きになったお腹にそっと刀を当てる。そっと当てたはずなのに、疾風さんは派手に吹っ飛んで行ってしまった。

「WINNER 柳津樹!」

 かなり手加減したのに一発で終了か。今の俺の魂力は1万以上、疾風さんは固有スキルを獲得したばかりの様子だったから千を超えたあたりだと思う。魂力の差による強さの差は絶大だな。

 これ以上面倒ごとに巻き込まれないように、そそくさと逃げるように立ち去る。

 
 帰り道、結月が嬉しそうに俺に言う。

「私が教えた事、ちゃんと身についているみたいだね」

「あいつが弱すぎたんだよ」

「それでも樹はちゃんと強くなってる。見たらわかるよ。……ご褒美だよ」

 抱き着いてきて結月の唇が俺の唇にそっと触れる。

「じゃあ、私も樹にご褒美」

 久奈も抱き着いてきて俺の唇に自分の唇を触れさせる。

 面倒ごとに巻き込まれてうんざりだと思っていたが、美少女二人からのご褒美で癒された。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...