箱庭のエリシオン ~ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?~

ゆさま

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ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

10.久奈と結月

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 北の転移ゲートの広場に戻ってきた。俺は鳴海さんに電話を掛ける。

「鳴海さん、戻ってきたよ。どこで食べる?」

「どこにしよう、どこでもいいよ」

「じゃあ、ファミレスにしよう」

「 OKじゃあ今から向かうね」

「あっ鳴海さん、今日フィールドで同じ学校の人と会ったんだけど、一緒に行ってもいいかな?」

「同じ学校の友達? いいよー、じゃあまたあとでねー」

 ――通話終了。

 その後、俺と桜花さんはショッピングモール内のファミレス風の店に向かった。



 店に到着し中に入ると鳴海さんがすでに到着して席に着いていた。俺の姿を見つけると、こっちこっちと手を振った。

 鳴海さんがいるのは6人くらいが座れそうなテーブル席だ。

 俺は鳴海さんの向かいに座る。桜花さんは俺の隣に座る。すると鳴海さんがニッコリと笑顔で質問してきた。

「コチラの美人さんは誰かな?」

 いつもどうり天使のような笑顔ではあるが、なぜか威圧感のある笑顔だ。

「私は、柳津君と同じクラスの桜花結月です。よろしく」

 桜花さんもニッコリと笑顔をうかべ、軽く頭を下げる。

 ん? 何か緊張感があるな。なぜだ? 俺が不穏な空気に戸惑っていると、鳴海さんも自己紹介をする。

「私は、柳津君と同じ中学校だった、鳴海久奈です。よろしく」

 再び鳴海さんはニッコリと笑顔をうかべ、軽く頭を下げる。

 「「なるほど、この子が例の女か……」」

 鳴海さんと桜花さんが同時に何か呟いたように聞こえた。

 食事をしながら桜花さんが俺と鳴海さんに話しかける。

「二人は中学時代からの友達なの?」

「中学の時は鳴海さんとはあまり話した事は無かった。今はゲームのシステム上のフレンドになってもらったけど」

「卒業式の日に柳津君は私に好きって告白してくれたよね」

 ドキッとするが精一杯動揺を隠しつつ「うん」と頷くと桜花さんが間髪入れずに聞いてきた。

「でも付き合っている訳じゃないんだよね?」

「う、それはそうだけど……。桜花さんこそ柳津君と同じクラスって言ってたけど仲いいの?」

「一学期の間はほとんど話もしたことは無かった。でも今日フィールドで会ってからはたくさん話をしたし、一緒に中ボスも倒した。私としては戦友だと思っているわ。もちろんゲームシステム上のフレンドにもなった」

「むぅぅ」

 なんとなく自慢げな桜花さんと、なんとなく悔し気な鳴海さん。俺の気のせいか?

 その後もどこか張り合っているような感じで美少女二人の会話が続き、俺は内心ヒヤヒヤしながらも笑顔で相槌をうちつつ聞いていた。

 楽しくも緊張感のある食事も終わり、俺達は三人で宿泊施設に向かいフロントで解散した。



 宿泊施設の一室に戻り、風呂からでた俺はペットボトルの水を飲みながらベッドに座り考え事をする。

 それにしても、桜花さんもこの世界に来ていたとは……。

 昼間の桜花さんとのやり取りを思い出してニヤニヤする。また刀の振り方教わりたいなー。

 片思いの相手と接点を作ってくれてありがとー! 神様! 普段は神様なんていないよね。とか言ってるのは内緒だ。

 現実世界では、”片思い”などと言っても特に桜花さんと接点があるわけでもなく、自分から距離を縮めるような行動をしたわけでもない。ヘタレな俺はただ彼女を遠くから眺めていただけだった。

 双原奏介の行動力は、ある意味素晴らしいことなのかもしれない。

 そういえば昼間の双原奏介との話、鳴海さんに聞かれたよな? なんか色々ぶちまけて話してしまったがマズイよなー。

 ベッドに横になるものの、気になって眠れない。考えたところでどうしようも無いんだけど、頭から離れない。ベッドの上でゴロリゴロリと寝返りをうっていると、突然スマホがブーブブッと振動する。

 鳴海さんからメッセージだ。

「起きてるかな? 起きてたらちょっと話したいことがあるから、ロビーまで来て」

 話って、やっぱ双原奏介との話の事だよな……。

 「了解」と返事して、ロビーに向かう。

 ロビーのソファーに座っている鳴海さんを発見して、少し離れて隣に座る。

 タンクトップにショートパンツと露出度は高め。ジロジロと見てしまいそうになるが、視線は気が付くと桜花さんが言っていたのを思い出し我慢する。

 俺たち以外に人はいない。シーンと静まり返っている。

 鳴海さんがスッと俺との間合いを詰めポツリと呟く。

「……柳津君と双原君の話。全部聞いてたよ。盗み聞きしちゃった。ゴメンね」

「ぬわぁ」ビクッとして俺は思わず変な声を上げてしまった。やっぱ聞いてたんだね全部……。とりあえず謝る。

「ゴメンナサイ……」

「べつに柳津君が謝ることないでしょ? 私の話、聞いて」

 俺は黙ってうなずく。

「あの日、柳津君が告白してくれて嬉しかったんだよ。真正面から告白してくる人なんていなかったから」

「でもその時は、柳津君とはあまり話したことなかったし、いきなり付き合うのは嫌だなと思ったんだ。」

「だから、付き合うのはごめんなさい。まずは友達からで……って言おうとしたら、柳津君、途中でダッシュで逃げて行っちゃったでしょ? だから結局振ったことになっちゃったね」

「でもね……今なら柳津君と付き合ってもいいよ。私けっこう柳津君の事、好きだよ」

 上目でこちらをちらりと見る。顔は少し赤みを帯びているように見える。あまりに可愛いその表情に俺が硬直して黙っていると、鳴海さんは少し表情を曇らせ呟く。

「やっぱり、桜花結月さんの事が一番好きなの?」

 一番好きって……。どうやって答えたらいいのか分からずに俺が黙っていると、鳴海さんは続けて聞いてきた。
 
「柳津君は私と桜花さん、どっちの方が……好きなの?」

 俺が予想もできないような言葉を次々かけてくる。俺はしどろもどろで口走る。

「い、いやどっちが好きって、どっちも好きだよ。……じゃなくて、そもそも鳴海さんが俺の事そんな風に思ってくれているなんて全く考えてなかったし、それに桜花さんは俺の事なんて別に何とも思ってないだろうし」

 俺は何を言っているんだ? 自分でもよく分からない。慌てふためく俺に、鳴海さんはさらに意外な言葉を言う。

「勘だけど桜花さん、柳津君の事が好きだよ」

「えええー、そんなこと本人じゃないとわからないでしょ?」

 その時、俺の隣に誰かが座った。俺が振り向くと、そこには桜花さんがいた。キャミソールとショートパンツという、より刺激的な格好だ。桜花さんはまっすぐに俺の目を見て言った。

「そうだね本人しかわからない。私は柳津君のことが好きだよ。今日一日で君の事を好きになった」

 突然の桜花さんの登場に俺は慌てた。っていうか、今俺の事を好きって言わなかったか!? 

「おっ、桜花さん、なぜここに?」

「フレンドの現在地検索を使ったら柳津君がロビーにいることが分かって、なにしてるのか気になって来てみたの」

「盗み聞きしちゃった。ゴメンね。のあたりから二人の話聞いていたんだけど……」

 それ最初からだよね……?

「柳津君、私の事好き……なの?」

 桜花さんは俺の右腕を抱きしめ胸を押し付ける。柔らかな感触といい香りが俺に襲い掛かる。

 すると鳴海さんも対抗しようとしたのか、俺の左腕に抱き着こうとするがパチンと弾かれる。接触制限だ。

「なんで私だけ弾かれるの?」 

 鳴海さんは目に涙を浮かべ訴える。それを見た桜花さんが煽るようなことを言う。

「私たちは接触制限を解除した仲なの。解除しないとできないような事をした仲と受け取ってもらって構わないわ」

 いや、俺は構うけどね。心のなかで叫ぶ。

 「っく!」 鳴海さんは慌ててインターフェースを操作しだす。

 音声アシストが聞こえ視界にアラートが表示される。

「鳴海久奈から接触制限変更の申請を受けました。許可しますか?」

「レベル3→レベル1 警告!! お互いに自由に触れるようになります Yes/No」

 鳴海さんは語気を強めて俺に言う。

「樹! 許可しなさい!」 

 初めて下の名前で呼ばれて、しかも命令されてしまった。迫力に押されYesを選択する

 接触制限が解除されたと同時に鳴海さんは俺の左手に抱き着く。こちらも柔らかなものが押し付けられる。まさに甲乙つけがたい。

 俺は想像もできないような出来事の連続に思考が停止していた。

 憧れの人。好きだ。片思いだ。そんな事を口では言ってはいたが、実際には遠くて手が届くはずないと心の奥では諦めていた。そんな美少女が今俺の腕に絡みついている。しかも二人も。

 人生のラック値ここで全部使いきってしまったんじゃないだろうな? もう明日死んじゃったりして。

 しょうもないことを考えながら無言で呆けていると、桜花さんが俺の右腕を抱きしめるのを緩める。

「女子二人に迫られて、対応に困っているみたいね。今日のところはこれくらいにしておくね」

 そして、俺の耳元に口を近づけ囁いた。

「今度から私の事、結月って呼んでね? 呼び捨てでいいよ。樹」

 コクコクと俺はうなずく。

 それを確認した後、桜花さんは俺から離れ「おやすみなさい」と笑顔で手を振りながら部屋に戻って行った。

 桜花さんがいなくなると、鳴海さんも俺の腕を放した。

「私のことも下の名前で呼んで。さんはいらないから」

 再び俺は、コクコクとうなずく。

「じゃあ、私も行くね。おやすみ、樹」

 手を振りながら部屋に戻っていった。

 嵐のような出来事が過ぎ去り俺はしばらく呆然としていた。

 両腕に残る感触と温もり、耳に残る可愛い声、女の子の香りを反芻し、女子に”樹”って呼び捨てされちゃったな。などと時折くねくねと悶えながら……。
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