英雄代行、始めました

谷本 督太

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第一章 『英雄の始まり』

第一章 8 『同士討ち』

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 ミネルヴァとの戦闘で倒れる寸前までに追いやられた卓斗。セイレム騎士団第二冠の強さは本物だった上に、予想以上だった。だが、その窮地に駆け付けたのは同じくセイレム騎士団第十冠ネプトゥ・オルセイアだった。

「そこを退け、ネプトゥ」

 ミネルヴァはネプトゥに対して強く睨みながら話した。同じセイレム騎士団に向けてはいけない殺意を持って。

「退きません。私はミネルヴァさん達が間違ってると思います……!! 昔は皆が仲良くて、共に平和を願っていた筈なのに……」

「その後ろに居るのは、その平和を壊した魔女軍の男だぞ。何故、庇う必要があんだ?」

「この人は魔女軍ではありません。私達と敵対する様な人では無いんです」

「お前までもそう言い張るか……!! ウチに楯突くって事は分かってるんだよな?」

「分かってないのは……ミネルヴァさんの方です!! 私はこの人を全力で守ります!!」

 ネプトゥは視線だけを後ろに向けると、

「イヴリースさん!! ミネルヴァさんは私が食い止め時間を稼ぎます!! その間にホダカさんに治癒魔法を!!」

「分かった!! 助かるよ!! アイシャ、お願い」

「はい!!」

 イヴリースに頼まれたアイシャは、傷だらけで今にも意識を失いそうな卓斗に治癒魔法を掛けた。水色の光が卓斗を包み込み、その傷を癒していく。

「裏切り者だな……ネプトゥ!!」

 ミネルヴァは一気に地面を蹴って、ネプトゥの方に詰め寄った。ネプトゥも同じく、地面を蹴ってミネルヴァを迎え撃つ。

「裏切り者は容赦しねぇぞ!!」

 ミネルヴァは走って来るネプトゥに向けて、紫色の光線を放った。ネプトゥは指を上にクイっと上げると、水の壁が地面から吹き出して光線を防ぎ、その場で爆発が起きる。
 その瞬間に、ネプトゥは高く跳躍してミネルヴァの居る方に両手を翳す。すると、ネプトゥの背後に青色の魔法陣が浮かび上がる。

「珍しく私は怒ってますから……!!」

 魔法陣から水のレーザーが無数に放たれた。ミネルヴァはバク転で後方に下がりながら避けて行くが、

「――チッ……!!」

 ミネルヴァの背後に水の球体が出現し、ミネルヴァは勢いのままその中へと入ってしまう。

「捕まえました……!!」

 だが、ミネルヴァの両腕の紫色の光が強さを増した瞬間、ミネルヴァを閉じ込めていた水の球体は弾け飛ぶ。

「小癪なんだよ……!!」

 ミネルヴァが右手を翳すと、紫色に光る槍を作り出した。それを見たネプトゥも、手に青色に光る槍を作り出す。そして、魔法陣に足底を当てて踏み台にし、一気に蹴ってミネルヴァの方に詰め寄る。その瞬間に魔法陣は粉々に砕ける。

 ミネルヴァとネプトゥはお互いの槍を交える。その瞬間、衝撃で地面に円形のヒビが入って抉れる。

「どいつもこいつも、ウチに勝てるって思ってるんじゃねぇぞ!!」

「ミネルヴァさんこそ、私が第十冠だからって舐め過ぎです!!」

 お互いが槍に力を込めると、二人は弾ける様に離れる。ミネルヴァは直ぐに地面蹴って跳躍し、ネプトゥの方に詰め寄ると、槍を横に振るう。

 ネプトゥはそれを槍で防ごうとするが、防いだ瞬間にミネルヴァはしゃがみ込む様に回りながらネプトゥの足元に入り込むと、その場で逆立ちをするかの様に足を振り上げる。

「ぐっ……!!」

 振り上げた足底はネプトゥの顎に当たり、そのまま上空高く蹴り上げられた。ミネルヴァはそのまま、地面を蹴って高くジャンプしネプトゥを追いかけて、胸倉を掴む。

「ウチが強過ぎるから舐めてんだよ……!!」

 ミネルヴァはそのままネプトゥを、真下に向かって投げ飛ばす。その際に、両腕の紫色の光はまた強さを増すと、常人離れした力となって、物凄いスピードで地面に叩きつけられるネプトゥ。その威力は、ネプトゥが叩き付けられた衝撃で、地面が大きく抉れる程だ。

「がはっ……」

 だが、ミネルヴァは容赦無く、直ぐにまたネプトゥを追いかけ、仰向けで倒れ込むネプトゥの腹部に向けて思いっきり踏み付ける。

「……かっ……」

 踏み付けた衝撃で抉れた地面は更に粉々になった。ネプトゥも口から血を吐き、グッタリと倒れ込んだまま動かなくなる。それを見たイヴリースは、

「ネプトゥ!! マズイ……アイシャ、後どれくらいかかる?」

「す、すみません……!! 思ったより傷が酷くてもう少し掛かります……!!」

 倒れ込んで動かなくなったネプトゥを跨ぐ様に立つミネルヴァは、

「おいおい、威勢の割には呆気ないじゃねぇかよ……クソが」

 ミネルヴァはそう言うと、ネプトゥの胸元を踏み付け、力を込める。

「ぐっ……あ……」

「何も言えねぇか、あぁ? このまま殺してやるよ」

 踏み付けるミネルヴァの足が紫色に光り出す。同じセイレム騎士団の仲間であるネプトゥにトドメを刺すべく。

 その瞬間、ネプトゥの目が突然と見開いた。そして、青色の光がネプトゥを包み込み、ミネルヴァを弾き飛ばした。

「チッ……なんだ?」

 ミネルヴァは体勢を整えると、ネプトゥの方に視線を向ける。包み込む青い光はネプトゥの姿が見えない程に強かった。

「お前のそんな魔法は見た事がねぇぞ。何を隠し持ってたんだ……?」

 青い光が弾ける様に消えると、そこには青色の光の翼を生やしたネプトゥが立ち尽くしていた。頭の上には同じく青色の光の輪っかが浮かび上がり、ネプトゥの全身は青白く、そして神々しく光っていた。

「その姿……まさか……」

「――はい。誰にも言ってませんでしたが、私は『天装』を習得しています」

 ネプトゥの言葉を聞いてミネルヴァは目を丸くして驚き、言葉を失った。

「『天装』……だと……!?」

 その神々しい姿になったネプトゥをイヴリースも見つめていて、思わず目を奪われた。

「あれは……ボクも初めて見た……」

「イヴちゃん、あれは何ですか……?」

「『天装』って言って天使族だけが使う魔法だよ。自身を大幅にパワーアップさせるだけでなく、扱う魔法が全て究極クラスになる……『魔装』ならボクも扱えるけど、『天装』は天使にしか扱えない……ネプトゥはまさか……」

 ミネルヴァはこの戦いで初めて動揺を見せた。格下だと決め付けていたネプトゥが『天装』を使った事に。

「言って置きますが、私は天使ではありません。ただ、私の幼い頃の師匠が天使だったんです。ずっと扱う事は出来なかったんですけど……」

「一般の人間が天使族の魔法を使うだと……? その上、『天装』って……ふざけてる……!!」

「私の本気は伝わりましたか? 私の全力をもってミネルヴァさんを止めます」

 ネプトゥの見せた事の無い『天装』を見て、ミネルヴァは苛立ちを募らせた。冠の数字が力の全てだと考える彼女にとって、十の冠を要するネプトゥが、『天装』を扱うなど認めたくなかったのだ。

「チッ……くそったれが……!!」

 ミネルヴァは怒りに任せて、ネプトゥに向かって何発も何発も光線を放った。爆炎が上がり続けても尚、ミネルヴァは攻撃を止めなかった。

「ハァ……ハァ……ウチは認めねぇぞ……!!」

 その瞬間、ミネルヴァの背後から、

「――気は済みましたか?」

 ミネルヴァの背後からネプトゥの声が聞こえ、ミネルヴァは背筋を凍らせた。あの一瞬で真後ろに移動した速さよりも、それに気付かなかった事に恐怖を感じた。

「――っ!!」

 ミネルヴァはすぐさま振り向いて、槍を横に振るった。だが、槍はネプトゥの体を捉える事は無く、部分的に水が浮かび上がって槍を防いでいた。

「クソが……!!」

「もう終わりです、ミネルヴァさん」
 
 ネプトゥがミネルヴァに向かって手を翳すと、水の球体がミネルヴァを呑み込んでいく。そしてそのまま、球体と共にミネルヴァを吹き飛ばす。
 地面を抉りながら飛んでいく水の球体は、岩に衝突した瞬間に大爆発が起きる。爆炎と共に水が辺りに飛び散り、雨の様に降り注いだ。
 ミネルヴァは岩にもたれかかる様にグッタリとしていて、一切動かない。

「ディアナさん達の方は、大丈夫でしょうか……」


*************************


 ネプトゥが卓斗達の元へと向かった後、ディアナとウェルカ、ウェスタは、ケレスとメルクリウスと睨み合っていた。

「――アポロさんから、殺していいって言われてるんで、全力で潰しますよ」

 メルクリウスは指をポキポキと鳴らしながら、ディアナ達を強く睨む。仲間である筈の同じセイレム騎士団から、殺すと言われてディアナ達は奥歯を噛み締めた。すると、耐えかねたウェルカが、

「あんたら、アポロなんかの言いなりになっていいわけ? あんな新参者の言う事なんか信じてるの?」

「セイレム騎士団って、序列がモノを言うじゃないっすか? いくらディアナさんが俺より数字が上でも、更にその上のアポロさんの言う事は聞かないと駄目っしょ。なんなら、こっち側のトップはユノさんなんすから、誰も口答え出来ないんすよ普通」

「其方はセイレム騎士団が序列だけで組まれた組織だと、そう捉えるのか? 我々が過ごしてきた今までは、ただの数字だけで意味を成さないと、そう言うのか?」

「俺達は仲良し軍団じゃないんすよ。強さがモノを言う世界に生きてんだから、それぐらい分かって下さいよ」

 メルクリウスはそう言うと、細長い剣を手に作り出し、緑色のエネルギーを纏わせる。

「覚悟して下さいよ、ディアナさん!!」

 メルクリウスはそう言うと、地面を勢い良く蹴ってディアナの方に詰め寄った。ディアナも、即座に剣を作り出して赤色のエネルギーを纏わせると、

「ユノと同じで、其方にも理解して貰わねばならないな……」

 二人が刃を交えた瞬間、赤色と緑色のエネルギーがぶつかり合って地面を大きく抉った。

「ケレス!! あっちの二人は任したぞ!!」

「御意」

 ケレスはそう言うと、目に見えぬ速さでウェルカとウェスタの目の前まで移動した。

「――っ!!」

 そして、両手を二人に向かって翳すと、透明のエネルギーが両手に纏う。

「上からの命令だ。悪く思わないでくれ」

 ケレスが無表情でそう言葉にした瞬間、前方が突然と破壊された。目に見えない波動がウェルカとウェスタを巻き込んで、辺り一帯を一瞬にして破壊したのだ。

「ウェスタ!! ウェルカ!! くそ……ケレスの大地の魔法か……!!」

 横目で二人の方を見て心配するディアナに、メルクリウスは、

「一対一の真剣勝負といきましょうや、ディアナさん!! よそ見は禁物っすよ!!」

 メルクリウスはそう言うと、一気に緑色のエネルギーを全身から放出した。そのエネルギーに弾かれる様に、ディアナは後方へと吹き飛ばされる。だが、

「其方がその気なら、我も本気で行くぞ……!!」

 ディアナは体勢を整えると、剣の刃の所を摘む様に持つ。そして、弓を引くかの様な動作をすると、激しく燃え上がる矢を作り出す。
 そして手を離すと、炎の矢はメルクリウスに向けて放たれた。その速さは避けるには不可能な程の速さだ。当然、メルクリウスは避ける事が出来ず、肩に突き刺さる。

「ぐっ……」

 その瞬間、炎の矢は燃え広がる様にメルクリウスを炎で包み込む。火柱が空高く上がり、辺りの温度を一気に上げていく。
 やがて、炎の上がりが収まっていくと、そこにメルクリウスの姿は無かった。

「――いきなり燃やすとか無しっしょ」

「――っ!!」

 すると、地面から銀色の液体が溢れる様に出現し、徐々にメルクリウスの姿へと変わっていく。

「燃えて溶けるってこんな感じなんすね。もう味わいたくないや……」

 まるでディアナの攻撃は効かなかったかの様な言い草に、ディアナは目を丸めた。何より、再生したメルクリウスに違和感を感じた。

「そういや、ディアナさんは俺の魔法を見るのは初めてでしたっけ? たーんと、俺を味わって下さい?」

 不敵な笑みを浮かべてそう話すメルクリウスを見て、ディアナは不気味さに背筋を凍らせた。

 ――その後方では、ケレスの破壊によって未だに砂埃が舞っていた。ケレスはジッとその砂埃を見つめると、

「む……?」

 何かを感じて、咄嗟にその場から離れると、砂埃が舞う煙の中から、炎の鞭が飛び出してきていた。ケレスの体を捉える事無く、空振りをした炎の鞭は地面に垂れると、砂埃が徐々に晴れていく。

「――ウェスタ、大丈夫だった?」

「えぇ……私は何とも無い」

 手に炎の鞭を持つウェルカと、その背後に立つウェスタは、ケレスの破壊に巻き込まれても尚、無傷で立っていた。その様子を見て、無表情なケレスは微かに目を細めた。

「何故、無傷」

「こう見えても、私達もセイレム騎士団の冠を与えられてる者なのよ。容易くやられたりしないわ」

 ウェルカはそう言ってケレスを強く睨んだ。その言葉を聞いて、ケレスは黙り込むと戦闘体勢に入る。

 絵麻と二乃の救出作戦はセイレム騎士団も大きく巻き込み、ここにセイレム騎士団同士の戦闘が開幕された。


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