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5.術士と妖
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「その兎や、他の形をした生き物ならざる生き物を、私達は妖と呼んでいる。そもそもこの妖というものは、日本中どこでも居るんだ。彼らは強い感情を持つ人間の心から生まれ、小動物の姿を模る。鼠や兎のような哺乳類から蜥蜴や蛇などの爬虫類、蛙という報告も中にはあっただろう?」
神宮寺さんは確認を取るように分倍河原さんに視線を向ける。
隣の分倍河原さんは何度も頷いて「ああ、蜘蛛やカラスの報告例もあるぞ」と付け加えた。
私はそんなにたくさんの種類には会った事は無い。
だからちょっとそんな話をされると…少しだけ気持ち悪くなった。
出会わなくてよかった…。
「彼らは人の心…感情を餌にして生きている。その感情は様々、喜怒哀楽…嬉しさだけでなく不安や心配、苦しみ、強い感情であれば何でも奪って成長していく。やがてその姿は犬や猫、いつしか狼や虎に変わり人になる」
「人に…?」
「……ああ、人に変わるのは主にこっちの地域になってからだろうが、そういった種類は"女王"と呼ばれていてね…そんな彼ら妖を討伐できる力を持っているのが、術士というものだ」
「術、士…」
放心してしまった。
自分の知らない世界の話をされている。
いや、厳密には知っている世界ではあるけど、その名称を知らなかった。
私達の存在意義を理解していなかった。
ずっと、紛い物の生き物を倒してた。
それが良い事なのか、悪い事なのかも分からず…。
「君は…確か快斗君、と言ったね。君の力を彼女に見せてくれるかい?」
神宮寺さんが快斗さんに顔を向ける。
快斗さんは「俺?別にいいけど…」とズボンのポケットから小さな瓶を取り出し、中身を床にぶちまけた。
中に入っていたのは黒い砂だったようで、快斗さんの足元は真っ黒に染まってしまう。
ああ、立派な絨毯が…!
「うし、いきます」
だけど驚くのも束の間。
快斗さんは砂の上に手を翳して念じると、砂が巻き上げられて快斗さんの手に収まっていく。
それは次第に形を成し、みるみる姿が出来上がっていく。
足元の砂は一粒もなくなって快斗さんの手に現れたのは…――真っ黒な剣だった。
「すごい…」
その姿に驚き、言葉が漏れた。
快斗さんは何食わぬ顔で立っているけれど、それは明らかに自分と違うようで同じな力だ。
「君は今まで何度も妖に襲われてきた…そうなんだろう?その為に力を使ってきた。違うかな?」
神宮寺さんの真っ直ぐな目が自分に向いて、確認するような声をかけられた。
呆気にとられたまま私は言葉を溢すように返事をする。
「そう、です…」
「ならば君はもう立派な術士だ。今までは分からずその力を揮ってきた。だが…ここには君と同じように妖を倒す力を持つ人々が集まっている。君がここに呼ばれた理由はね、その力をこの東京という町の為に揮って欲しいからなんだ」
「私が…術士…。…あの、いいんですか…?」
快斗さんは依然剣を握り締めて立っている。
だけど自分に向く目は、どこか期待に満ちた顔をしている。
「新しい術士、俺は楽しみだし仲間が増えて嬉しいんですけど!」
「あっ…、えっと、その…よ、よろしくお願いします…!」
快斗さんの嬉しそうな声に恥ずかしくなってしまった。
私が術士、大丈夫かなぁ…?
でも仲間とか、他にもそういう人が居るって知れたのは、嬉しかったんだ。
神宮寺さんは確認を取るように分倍河原さんに視線を向ける。
隣の分倍河原さんは何度も頷いて「ああ、蜘蛛やカラスの報告例もあるぞ」と付け加えた。
私はそんなにたくさんの種類には会った事は無い。
だからちょっとそんな話をされると…少しだけ気持ち悪くなった。
出会わなくてよかった…。
「彼らは人の心…感情を餌にして生きている。その感情は様々、喜怒哀楽…嬉しさだけでなく不安や心配、苦しみ、強い感情であれば何でも奪って成長していく。やがてその姿は犬や猫、いつしか狼や虎に変わり人になる」
「人に…?」
「……ああ、人に変わるのは主にこっちの地域になってからだろうが、そういった種類は"女王"と呼ばれていてね…そんな彼ら妖を討伐できる力を持っているのが、術士というものだ」
「術、士…」
放心してしまった。
自分の知らない世界の話をされている。
いや、厳密には知っている世界ではあるけど、その名称を知らなかった。
私達の存在意義を理解していなかった。
ずっと、紛い物の生き物を倒してた。
それが良い事なのか、悪い事なのかも分からず…。
「君は…確か快斗君、と言ったね。君の力を彼女に見せてくれるかい?」
神宮寺さんが快斗さんに顔を向ける。
快斗さんは「俺?別にいいけど…」とズボンのポケットから小さな瓶を取り出し、中身を床にぶちまけた。
中に入っていたのは黒い砂だったようで、快斗さんの足元は真っ黒に染まってしまう。
ああ、立派な絨毯が…!
「うし、いきます」
だけど驚くのも束の間。
快斗さんは砂の上に手を翳して念じると、砂が巻き上げられて快斗さんの手に収まっていく。
それは次第に形を成し、みるみる姿が出来上がっていく。
足元の砂は一粒もなくなって快斗さんの手に現れたのは…――真っ黒な剣だった。
「すごい…」
その姿に驚き、言葉が漏れた。
快斗さんは何食わぬ顔で立っているけれど、それは明らかに自分と違うようで同じな力だ。
「君は今まで何度も妖に襲われてきた…そうなんだろう?その為に力を使ってきた。違うかな?」
神宮寺さんの真っ直ぐな目が自分に向いて、確認するような声をかけられた。
呆気にとられたまま私は言葉を溢すように返事をする。
「そう、です…」
「ならば君はもう立派な術士だ。今までは分からずその力を揮ってきた。だが…ここには君と同じように妖を倒す力を持つ人々が集まっている。君がここに呼ばれた理由はね、その力をこの東京という町の為に揮って欲しいからなんだ」
「私が…術士…。…あの、いいんですか…?」
快斗さんは依然剣を握り締めて立っている。
だけど自分に向く目は、どこか期待に満ちた顔をしている。
「新しい術士、俺は楽しみだし仲間が増えて嬉しいんですけど!」
「あっ…、えっと、その…よ、よろしくお願いします…!」
快斗さんの嬉しそうな声に恥ずかしくなってしまった。
私が術士、大丈夫かなぁ…?
でも仲間とか、他にもそういう人が居るって知れたのは、嬉しかったんだ。
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