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出会い
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「さぁ!早くイッておしまいなさい!」
「ひぃぃぃ、おい、そこの君、助けてくれ」
目の前では目を疑う光景が繰り広げられていた。絶世の美女とも言える女が、悪魔的な笑みを浮かべながらひたすら男に拷問をかけて楽しんでいる……
「人に助けを求めるなんてまだ結構余裕があるのね、この豚が!」
「ひぃぃぃ!もうイヤだぁぁ!」
一体どうして僕はこんな所にいるんだろう……しかも三角木馬に乗って……
ついさっきまでは極々、ノーマルな学生だったはずだが。
話は数時間前に遡る。
何事もなく私立W大学の2年生になった僕は雀荘で常連のオッサン達と麻雀を打っていた。
「かぁー、兄ちゃん本当につええなあ、これで何連敗だよ、イカサマしてんじゃねえだろうな」
「でも、特に怪しい動きしてなかったでしょ?」
「うーん、まあな」
当然イカサマをしている。麻雀はそもそも普通に売っていたらよほど力量差がない限りそこまで差はつかないものだ。僕はこういった小狡い手段に関してかなり自信がある。
「じゃ、今日も支払いお願いしますよ」
「次はこてんぱんにしてやるからな」
雀荘をあとにする。昼過ぎか、お腹すいたし食堂にでもいこう。食堂への道すがら次の授業に向かう生徒達とすれ違った。見かけたことのある顔だ。たしか同じ授業を取っていたような。次の授業は……まあいいか。
大学の授業は高校生の頃期待していたようなものではなかったし、試験も直前に対策すればなんとかなる。あまり行く意味を感じなかった。
その結果、大学の近くで遊び呆ける毎日になってしまった。入学当初は首席ともてはやされもしたが今はこのざまである。
食堂でカレーライスを食べていると後ろの方で声がする。
「なあなあさっきの授業、めっちゃ美人な人いなかった?俺次声かけちゃおうかな、ワンちゃんあるんじゃね?」
「あー、でもアイツは先輩が言ってたけどやべえ女だって話だぞ。詳しいことはしらんけど頭イカれてんだとよ。」
「もしかしてメンヘラか?それは勘弁だわ」
「お前前回の彼女も超メンヘラだったもんな、ギャハハ」
「うるせえよ!笑」
全くうるさいやつらだ。仕方ないので席を移動する。
……にしてもそんな美人な人がいるのか、一度見てみたい気もするな。
麻雀で頭を使ったせいか、カレーだけじゃ糖分が足りないな。
よし、食休みしたら甘十屋いくか。
甘十屋というのは大学の近くにある老舗の和菓子屋でおやつ時にはW大学生が居座っている。
看板商品は、アンパンを一口サイズにしたミニアンという商品で、小腹をみたすのにちょうどいい。何よりお値段が良心的だ。僕もほぼ毎日買いに行くほどお気に入りである。
今日はいくつ食べようかな……でもこの時間帯だとあんまり残ってないかな?急ごう。
ところが急いで店に向かうとかなり売れ残っていた。
おお、ラッキー。でもどうしたんだ。最近は残っていることが多かったが今日は特に多いな。
知り合いを見つけたのできいてみるか。
「あ、マサキ、なんか最近随分余ってるよね?」
「おお、真尋、久しぶり。そうだなぁ、周りをよく見てみろよ、女子が一人もいねえだろ?」
たしかに。男子も少ないが。
「なんか有名ティックトッカーのゆらりちゃんがこしあんよりつぶあんの方が太るって話をチラッとしたらしくてな。そんでもってミニアンはつぶあんだろ?みんな、ついつい避けちまうってわけだ。」
「へー、そんなの気にするんだな」
「ま、あくまで推測だけどな」
その時周囲がざわついた。僕もそちらを見やる。
一人の女子生徒がいた。真っ黒な髪を腰まで伸ばしていて、目が大きく、人形のような顔立ちをしている。身長も高くモデルのようだ。
「うわ、野薔薇だ。やべ、」
「ん?知ってるのか?」
「まさか知らないのか?あんなに目立つし、有名だろ。一個上の先輩なんだけど、頭おかしいらしいよ。野薔薇美由妃。」
「へー、大学ほとんど行ってないから知らなかったよ。」
「お前はめちゃくちゃ要領いいからそれでなんとかなるのが凄いよな……まあとにかく、近づくのはやめとけな。俺ももう行くわ、またな」
そう言うと彼は逃げるように去っていった。
周りを見渡すと誰もいなくなっている。
そんなにヤバいやつなのか。なんとなく僕も急いで離れようとした。
だがちょうどその時、僕が食べていたミニアンをみて、彼女が話しかけてきた。
「ねえ、あなたここのミニアン好き?」
「え、あ、はいっ!」
「それにしても今日はかなり空いてるわね、良かった」
嬉しそうにニコッと笑いながら彼女が言う。僕はその笑顔に見とれてしまった。美人で近寄りがたい印象だったが、笑うと子猫のように可愛い。
「よく来るの?」
「はい、結構来ますね。」
「ふーん、そっか、あ、君のミニアン1つ貰ってもいい?」
「ど、どうぞ」
急に近づいてきたので緊張で声が上ずってしまった。……本当にきれいな人だし、なんかいい匂いもする……
「やったぁ!ありがとうね!」
噂の事は気になったが、悪い気はしない。
というかこれだけ可愛いのなら多少性格に難があったって何も問題ない。
「あ、あの先輩はどうして……」
少しでもお近づきになれたらと思い、話しかけようとした時、販売員の人が話しかけてきた。
「あ、野薔薇さん、来てくれましたか」
「ごめんね、ちょっと遅れちゃって。あ、ちょうどいいわ、貴方も聞いてったら」
「へ?あ、はあ。」
僕も?と言う前に椅子に座らされてしまった。
何がなんだかよくわからないが付き合うか。
どうやら、野薔薇に相談を持ちかけているっぽいが。
販売員の人の横には店主らしきお爺さんと30代くらいの男の人が居た。誰だろう?見たことないな。
僕が怪訝な顔をしていたのに気づいて販売員の方が慌てて紹介を始めた。
「あ、失礼しました。こちらはうちの主人兼店主と、若いのが発注と製造をやってる坂上さんです、主にこの三人でお店を回しています。」
「それで?相談というのは?」
「実はですね。最近こしあんが流行りのようじゃないですか。なのでミニアンのあんをこしあんに変えてみたんですよ。ところがあまり売れ行きが良くなくてですね。何か原因が分かれば……と」
販売員は野薔薇の方を見やる。
「うーん?どういうことかしらこれ」
野薔薇はなにやらミニアンを見つめて考え込んでいるようだ。
しかし僕は一連の流れであることに気が付いていた。
「あ、僕売れない原因がわかったかもしれません。さっき知り合いに聞いたのですが、実は最近のミニアンにも粒あんが入っているんですよ。よく見てください。ミニアンに一回切り開かれた後がありますよね?恐らく入れ替えられたのではないでしょうか」
試しにミニアンを割ってみると中にはこしあんと粒あんが詰まっていた。
「え?そんなバカな?」
「これが、最近売れてない原因ですよ。客は粒あんが入っているとわかったので買うのをやめたんじゃないでしょうか」
「でもこれにはもともとこしあんがパンパンに入っていたはずで……その入れ替えて余った分のこしあんはどうなったんでしょうか?かなりの量なので捨てられてたら流石に誰か気づくと思いますが。」
「それはですね、そこのどら焼きを見てください。少し大きいと思いませんか?そうです。あふれた分のこしあんは毎日あそこに加えられていたんですよ。」
「そしてそれができるのは製造担当の坂上さんだけですよね?」
坂上はしばらく俯いていたが急に顔を上げると涙目で語りだした。
「すみませんでした!でもミニアンは代々つぶあんって決まっていたじゃないですか。
それを一時的なものでも、流行に乗ってこしあんにしてほしくなかったんです……僕が好きなのはやっぱりつぶあんのミニアンなんです……」
「坂上君……あなた……」
「お前な……こんな面倒な方法取らずにそうと言えよ、馬鹿なやつだな。」
店長も販売員も坂上のミニアンにかける気持ちに胸を打たれているようだ。
その時野薔薇が口を挟んだ
「事件解決……ということね。では坂上さん、迷惑かけたついでに部室までミニアンを持ってきてもらってもよろしいかしら」
「はい、それくらいさせていただきます」
道中も坂上さんはミニアンにかける思いを語っていた。こんなに熱い思いがあったのか……ならちょっとくらい間違いを犯してしまってもしょうがない気もする。
坂上さんと他愛のない話をしていると野薔薇が立ち止まった。話に夢中になっていて気づかなかったがここはどこだろう?サークル棟にこんな場所あったっけ……
「さあ、どうぞ」
促されるまま部屋に入ると何やら真っ暗だ。
すると後ろで鍵の閉まる音がした。
急に照明がつく。しばらくして目が慣れてくるとなにやら物々しい光景が目に飛び込んできた。ギロチン、三角木馬、ムチ、アイアンメイデン、あれは……なんだ?水車か?ということは他にあるのも全部これ拷問器具か?すごい……この大学にこんな場所があったのか……
「おい、これを解いてくれ!」
いつの間にか坂上さんが四つん這いになって拘束されている。え?何だ?
そして呆気にとられている僕も何故か三角木馬に乗せられて固定された。
「あの……僕は一体?」
「そこは今から始まるパーティの見学席よ」
何を言ってるんだこの人は。パーティ?見学席?何の?
というかじんわりと股が痛い。
ここで話は冒頭に戻る。男は何故か拷問されている。そして何故か僕は三角木馬に乗せられている。何分……いいや何時間経ったのだろう……坂上さんは人が変わったようになっていた。
「あああ~、野薔薇様そこは!そこはダメっ!……ッアアっ!そ、そんな……ここがそんな風になるなんてっ!」
何故か恍惚とした表情を浮かべている。理解できるがしたくはないな。
「いいから、早く吐きなさい。じゃないとこれ辞めちゃうわよ」
「そんな……これだけしておいて辞めるなんて酷いですよ。わかりました。野薔薇様、すべてお話いたします。」
「早く」
「実は発注ミスで粒あんをめちゃくちゃ大量に頼んでしまって……報告すると怒られるし捨てるとバレてしまうので……ミニアンに入れて売っちまえばいいかと考えたんです。
どうせ一口で食べれるし売れるし分からないかなと、それが急に売れなくなるなんて……あんこの割合が変わったくらいで分かるものかと客を舐めていました。」
「?あんこの割合?」
「はい、先程そちらの男の子が言っていたように粒あんが増えて客は買わなくなったのでは?」
すると野薔薇はお腹を抱えて笑いだした。
「はははははっ、あーおっかしい。」
「馬鹿ね。みんなそんなの気づくわけないじゃない。実はね、有名ティックトッカーのエイコちゃんが新しくできた洋菓子店の紹介をしたのよ。だから最近はお客さんが少なかったってわけ。」
そういう事だったのか。ってまた別のティックトッカーが現れたよ。最近の流行りはよくわからないなぁ。
「それにしてもこの下衆が!保身に走ってたてわけね」
「ああ、野薔薇様それ以上はァァァ」
野薔薇がひときわ大きくムチをふる。
彼の声が部屋に響き渡っていた。
なかなか拷問器具から降りたがらなくなってしまった彼を甘十屋に引き渡したあと、彼女は耳元で囁くように話しかけてきた。
「そういえばあなた、名前は?」
「おっ、小野真尋っていいます。」
「ふうん、かわいくていじめたくなる名前してるわね」
「……あの!これ外す、いやおろしてもらえませんか!」
「ちょっとまってね。貴方、うちの拷問サークルに入りなさい」
「拷問!?えっなぜですか?」
そんな怪しげなサークル入りたくない。
「このサークルは私の趣味で人助けみたいなこともやってるのよね。あなたの観察力はきっと私の役に立つわ。だから、入れてあげるって言ってるの」
この人にこれ以上関わったら確実にマズイ。何とか断ろう。
「すみません、魅力的な提案なんですけど、勉強が忙しくてサークルをしている余裕はありません」
「嘘よ、あなた、毎日毎日授業も行かず麻雀でお金賭けているでしょ?」
「えっ…?」
どうしてそれを?
「私を前にして白状しないブタはいないのよ、大学に報告しちゃおうかしらね?」
クソ!あのオッサン達か……!
「はい。というわけで、入会おめでとう。よろしくね、小野真尋君。」
拒否権がない。手を差し伸べてきたのでこちらも手を差し出すとどういうことか手錠をかけられた。驚いて彼女の方を見やるとニコニコと嬉しそうにしている。
順風満帆だった僕の大学生活は一体どうなってしまうのだろう。感覚が無くなってきた己の息子の安否を心配しながらそう思った。
「ひぃぃぃ、おい、そこの君、助けてくれ」
目の前では目を疑う光景が繰り広げられていた。絶世の美女とも言える女が、悪魔的な笑みを浮かべながらひたすら男に拷問をかけて楽しんでいる……
「人に助けを求めるなんてまだ結構余裕があるのね、この豚が!」
「ひぃぃぃ!もうイヤだぁぁ!」
一体どうして僕はこんな所にいるんだろう……しかも三角木馬に乗って……
ついさっきまでは極々、ノーマルな学生だったはずだが。
話は数時間前に遡る。
何事もなく私立W大学の2年生になった僕は雀荘で常連のオッサン達と麻雀を打っていた。
「かぁー、兄ちゃん本当につええなあ、これで何連敗だよ、イカサマしてんじゃねえだろうな」
「でも、特に怪しい動きしてなかったでしょ?」
「うーん、まあな」
当然イカサマをしている。麻雀はそもそも普通に売っていたらよほど力量差がない限りそこまで差はつかないものだ。僕はこういった小狡い手段に関してかなり自信がある。
「じゃ、今日も支払いお願いしますよ」
「次はこてんぱんにしてやるからな」
雀荘をあとにする。昼過ぎか、お腹すいたし食堂にでもいこう。食堂への道すがら次の授業に向かう生徒達とすれ違った。見かけたことのある顔だ。たしか同じ授業を取っていたような。次の授業は……まあいいか。
大学の授業は高校生の頃期待していたようなものではなかったし、試験も直前に対策すればなんとかなる。あまり行く意味を感じなかった。
その結果、大学の近くで遊び呆ける毎日になってしまった。入学当初は首席ともてはやされもしたが今はこのざまである。
食堂でカレーライスを食べていると後ろの方で声がする。
「なあなあさっきの授業、めっちゃ美人な人いなかった?俺次声かけちゃおうかな、ワンちゃんあるんじゃね?」
「あー、でもアイツは先輩が言ってたけどやべえ女だって話だぞ。詳しいことはしらんけど頭イカれてんだとよ。」
「もしかしてメンヘラか?それは勘弁だわ」
「お前前回の彼女も超メンヘラだったもんな、ギャハハ」
「うるせえよ!笑」
全くうるさいやつらだ。仕方ないので席を移動する。
……にしてもそんな美人な人がいるのか、一度見てみたい気もするな。
麻雀で頭を使ったせいか、カレーだけじゃ糖分が足りないな。
よし、食休みしたら甘十屋いくか。
甘十屋というのは大学の近くにある老舗の和菓子屋でおやつ時にはW大学生が居座っている。
看板商品は、アンパンを一口サイズにしたミニアンという商品で、小腹をみたすのにちょうどいい。何よりお値段が良心的だ。僕もほぼ毎日買いに行くほどお気に入りである。
今日はいくつ食べようかな……でもこの時間帯だとあんまり残ってないかな?急ごう。
ところが急いで店に向かうとかなり売れ残っていた。
おお、ラッキー。でもどうしたんだ。最近は残っていることが多かったが今日は特に多いな。
知り合いを見つけたのできいてみるか。
「あ、マサキ、なんか最近随分余ってるよね?」
「おお、真尋、久しぶり。そうだなぁ、周りをよく見てみろよ、女子が一人もいねえだろ?」
たしかに。男子も少ないが。
「なんか有名ティックトッカーのゆらりちゃんがこしあんよりつぶあんの方が太るって話をチラッとしたらしくてな。そんでもってミニアンはつぶあんだろ?みんな、ついつい避けちまうってわけだ。」
「へー、そんなの気にするんだな」
「ま、あくまで推測だけどな」
その時周囲がざわついた。僕もそちらを見やる。
一人の女子生徒がいた。真っ黒な髪を腰まで伸ばしていて、目が大きく、人形のような顔立ちをしている。身長も高くモデルのようだ。
「うわ、野薔薇だ。やべ、」
「ん?知ってるのか?」
「まさか知らないのか?あんなに目立つし、有名だろ。一個上の先輩なんだけど、頭おかしいらしいよ。野薔薇美由妃。」
「へー、大学ほとんど行ってないから知らなかったよ。」
「お前はめちゃくちゃ要領いいからそれでなんとかなるのが凄いよな……まあとにかく、近づくのはやめとけな。俺ももう行くわ、またな」
そう言うと彼は逃げるように去っていった。
周りを見渡すと誰もいなくなっている。
そんなにヤバいやつなのか。なんとなく僕も急いで離れようとした。
だがちょうどその時、僕が食べていたミニアンをみて、彼女が話しかけてきた。
「ねえ、あなたここのミニアン好き?」
「え、あ、はいっ!」
「それにしても今日はかなり空いてるわね、良かった」
嬉しそうにニコッと笑いながら彼女が言う。僕はその笑顔に見とれてしまった。美人で近寄りがたい印象だったが、笑うと子猫のように可愛い。
「よく来るの?」
「はい、結構来ますね。」
「ふーん、そっか、あ、君のミニアン1つ貰ってもいい?」
「ど、どうぞ」
急に近づいてきたので緊張で声が上ずってしまった。……本当にきれいな人だし、なんかいい匂いもする……
「やったぁ!ありがとうね!」
噂の事は気になったが、悪い気はしない。
というかこれだけ可愛いのなら多少性格に難があったって何も問題ない。
「あ、あの先輩はどうして……」
少しでもお近づきになれたらと思い、話しかけようとした時、販売員の人が話しかけてきた。
「あ、野薔薇さん、来てくれましたか」
「ごめんね、ちょっと遅れちゃって。あ、ちょうどいいわ、貴方も聞いてったら」
「へ?あ、はあ。」
僕も?と言う前に椅子に座らされてしまった。
何がなんだかよくわからないが付き合うか。
どうやら、野薔薇に相談を持ちかけているっぽいが。
販売員の人の横には店主らしきお爺さんと30代くらいの男の人が居た。誰だろう?見たことないな。
僕が怪訝な顔をしていたのに気づいて販売員の方が慌てて紹介を始めた。
「あ、失礼しました。こちらはうちの主人兼店主と、若いのが発注と製造をやってる坂上さんです、主にこの三人でお店を回しています。」
「それで?相談というのは?」
「実はですね。最近こしあんが流行りのようじゃないですか。なのでミニアンのあんをこしあんに変えてみたんですよ。ところがあまり売れ行きが良くなくてですね。何か原因が分かれば……と」
販売員は野薔薇の方を見やる。
「うーん?どういうことかしらこれ」
野薔薇はなにやらミニアンを見つめて考え込んでいるようだ。
しかし僕は一連の流れであることに気が付いていた。
「あ、僕売れない原因がわかったかもしれません。さっき知り合いに聞いたのですが、実は最近のミニアンにも粒あんが入っているんですよ。よく見てください。ミニアンに一回切り開かれた後がありますよね?恐らく入れ替えられたのではないでしょうか」
試しにミニアンを割ってみると中にはこしあんと粒あんが詰まっていた。
「え?そんなバカな?」
「これが、最近売れてない原因ですよ。客は粒あんが入っているとわかったので買うのをやめたんじゃないでしょうか」
「でもこれにはもともとこしあんがパンパンに入っていたはずで……その入れ替えて余った分のこしあんはどうなったんでしょうか?かなりの量なので捨てられてたら流石に誰か気づくと思いますが。」
「それはですね、そこのどら焼きを見てください。少し大きいと思いませんか?そうです。あふれた分のこしあんは毎日あそこに加えられていたんですよ。」
「そしてそれができるのは製造担当の坂上さんだけですよね?」
坂上はしばらく俯いていたが急に顔を上げると涙目で語りだした。
「すみませんでした!でもミニアンは代々つぶあんって決まっていたじゃないですか。
それを一時的なものでも、流行に乗ってこしあんにしてほしくなかったんです……僕が好きなのはやっぱりつぶあんのミニアンなんです……」
「坂上君……あなた……」
「お前な……こんな面倒な方法取らずにそうと言えよ、馬鹿なやつだな。」
店長も販売員も坂上のミニアンにかける気持ちに胸を打たれているようだ。
その時野薔薇が口を挟んだ
「事件解決……ということね。では坂上さん、迷惑かけたついでに部室までミニアンを持ってきてもらってもよろしいかしら」
「はい、それくらいさせていただきます」
道中も坂上さんはミニアンにかける思いを語っていた。こんなに熱い思いがあったのか……ならちょっとくらい間違いを犯してしまってもしょうがない気もする。
坂上さんと他愛のない話をしていると野薔薇が立ち止まった。話に夢中になっていて気づかなかったがここはどこだろう?サークル棟にこんな場所あったっけ……
「さあ、どうぞ」
促されるまま部屋に入ると何やら真っ暗だ。
すると後ろで鍵の閉まる音がした。
急に照明がつく。しばらくして目が慣れてくるとなにやら物々しい光景が目に飛び込んできた。ギロチン、三角木馬、ムチ、アイアンメイデン、あれは……なんだ?水車か?ということは他にあるのも全部これ拷問器具か?すごい……この大学にこんな場所があったのか……
「おい、これを解いてくれ!」
いつの間にか坂上さんが四つん這いになって拘束されている。え?何だ?
そして呆気にとられている僕も何故か三角木馬に乗せられて固定された。
「あの……僕は一体?」
「そこは今から始まるパーティの見学席よ」
何を言ってるんだこの人は。パーティ?見学席?何の?
というかじんわりと股が痛い。
ここで話は冒頭に戻る。男は何故か拷問されている。そして何故か僕は三角木馬に乗せられている。何分……いいや何時間経ったのだろう……坂上さんは人が変わったようになっていた。
「あああ~、野薔薇様そこは!そこはダメっ!……ッアアっ!そ、そんな……ここがそんな風になるなんてっ!」
何故か恍惚とした表情を浮かべている。理解できるがしたくはないな。
「いいから、早く吐きなさい。じゃないとこれ辞めちゃうわよ」
「そんな……これだけしておいて辞めるなんて酷いですよ。わかりました。野薔薇様、すべてお話いたします。」
「早く」
「実は発注ミスで粒あんをめちゃくちゃ大量に頼んでしまって……報告すると怒られるし捨てるとバレてしまうので……ミニアンに入れて売っちまえばいいかと考えたんです。
どうせ一口で食べれるし売れるし分からないかなと、それが急に売れなくなるなんて……あんこの割合が変わったくらいで分かるものかと客を舐めていました。」
「?あんこの割合?」
「はい、先程そちらの男の子が言っていたように粒あんが増えて客は買わなくなったのでは?」
すると野薔薇はお腹を抱えて笑いだした。
「はははははっ、あーおっかしい。」
「馬鹿ね。みんなそんなの気づくわけないじゃない。実はね、有名ティックトッカーのエイコちゃんが新しくできた洋菓子店の紹介をしたのよ。だから最近はお客さんが少なかったってわけ。」
そういう事だったのか。ってまた別のティックトッカーが現れたよ。最近の流行りはよくわからないなぁ。
「それにしてもこの下衆が!保身に走ってたてわけね」
「ああ、野薔薇様それ以上はァァァ」
野薔薇がひときわ大きくムチをふる。
彼の声が部屋に響き渡っていた。
なかなか拷問器具から降りたがらなくなってしまった彼を甘十屋に引き渡したあと、彼女は耳元で囁くように話しかけてきた。
「そういえばあなた、名前は?」
「おっ、小野真尋っていいます。」
「ふうん、かわいくていじめたくなる名前してるわね」
「……あの!これ外す、いやおろしてもらえませんか!」
「ちょっとまってね。貴方、うちの拷問サークルに入りなさい」
「拷問!?えっなぜですか?」
そんな怪しげなサークル入りたくない。
「このサークルは私の趣味で人助けみたいなこともやってるのよね。あなたの観察力はきっと私の役に立つわ。だから、入れてあげるって言ってるの」
この人にこれ以上関わったら確実にマズイ。何とか断ろう。
「すみません、魅力的な提案なんですけど、勉強が忙しくてサークルをしている余裕はありません」
「嘘よ、あなた、毎日毎日授業も行かず麻雀でお金賭けているでしょ?」
「えっ…?」
どうしてそれを?
「私を前にして白状しないブタはいないのよ、大学に報告しちゃおうかしらね?」
クソ!あのオッサン達か……!
「はい。というわけで、入会おめでとう。よろしくね、小野真尋君。」
拒否権がない。手を差し伸べてきたのでこちらも手を差し出すとどういうことか手錠をかけられた。驚いて彼女の方を見やるとニコニコと嬉しそうにしている。
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