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涙腺崩壊
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ルクウストさんを先頭にして、俺と兄ちゃんが並んで廊下を歩く。今日も晴れで、雲一つない快晴が窓の外に広がっていて、鳥が鳴いていて……なんだか不思議な感じだ。だって昨日着いたばっかりなんだよ? しかも俺、ほぼ昼寝してたし。
「もしかして……兄ちゃん、それでいままで?」
「じゃなかったらすぐ帰ってるわ、バカ」
「またバカって言う! ……うぅ、でも、ありがとう」
リューセントさんもだけど、兄ちゃんも俺のことを愛してくれてるじゃんか。あえて指摘はしないけど。
きっと、兄ちゃんが王都に来てすぐに決まったんだと思う。俺が顔合わせについてきてってお願いした時は嫌がってたから、その後かな。昨夜の話からして、こんな流れじゃないと結婚式は参加してもらえなかっただろうし、それもあって兄ちゃんはここまで一緒に来てくれたんだろう。まぁ一言くらい言ってくれても良いじゃんって思うけどさ。
ルクウストさんが「こちらですよ」と一声掛けてくれて、大きなドアが開かれた。そこから先は俺と兄ちゃんとで進むことになる。
大広間は真ん中を突っ切るように色違いの絨毯が敷かれていて、その向こうにリューセントさんたちご家族が並んでいる。俺と兄ちゃんはいつの間にか繋いでいた手をぎゅっと握り合って、一歩を踏み出した。
近くなればなるほど、はっきりと見えてくるウォルズ家の方々のきらびやかさがすごい。みなさん、式典っぽいお洋服がよくお似合いです。
そんな中でもリューセントさんは、惚れた欲目もあるかもしれないけれど別格なわけで……。
「アシャン、もう泣いているの?」
「うぇえ……だ、だってぇ……」
俺の涙腺崩壊。横の兄ちゃんが呆れながら、俺の手をリューセントさんの手へと押し付けた。本当なら自分から相手へと手を差し出さなきゃならないんだけど、ちょっとそこまでの余裕がないです。
エグエグと止まらない涙をリューセントさんがハンカチで押さえてくれる。お互いに礼服だから袖で拭うわけにも、ましてや抱きつくわけにもいかない。でも止まらないんだよ。
だってリューセントさんめっちゃ格好良い! なのに泣いてたら見れないこのジレンマ !! 俺がこの場に立てたことも、隣に兄ちゃんがいることも、そしてウォルズのおうちの方々に歓迎してもらえていることも……全部が全部、奇跡みたいなことだ。
うっかりお酒に酔ったのがきっかけでこんな素敵な人と巡り会ったなんて、村にいた頃の自分に言っても信じないよ。
「リューセントさん、もうこの状態でやるしかないです。――ほら、アシャン。泣いてて良いからすこしじっとしてなさい」
「ふぇ?」
「うんうん、大丈夫だから。――左でしたよね?」
兄ちゃんとリューセントさんが何かやり取りをしているのがぼんやり聞こえた。なんの話? と聞くより先、俺がちょっと動こうとした一拍前に……。
「いぃいいいいったぁああああああ!!」
ブチンっと、左の耳に衝撃が走った。
「……あ、あ、う、あ」
衝撃のあとは熱さ。そして痛み。ジンジンとした熱が耳を中心にして頭全体をグルグルと駆け巡る。そんな状態だからなにかを言うことも出来ない。くちから出てくるのは意味のない音で、今度は違う意味で涙が止まらなくなった。
「ごめんね、アシャン。ちゃんと説明してからと思ったんだけど……」
「こいつには気持ちの準備なんてさせないほうが良いんです。死ぬわけじゃあるまいし」
「アチャン、いじめちゃ、めーよぉ!」
涙でビショビショになったハンカチを冷たく濡らしたハンカチに変えてもらう。
その冷えたハンカチで顔を押さえたまま進行予定を確認すると、本来の予定では到着したところで改めて俺がご両親に挨拶をして、リューセントさんも兄ちゃんに挨拶。そしたらお互いに証をつけるって流れだったらしい。俺が感極まって泣き出しちゃったから、もうそのどさくさに紛れてピアス穴を開けたとか……。
「いや、兄ちゃんのその思い切りは間違ってないんだけどさ」
「だろ?」
「むかつく。……うわ、ぶっさいくな顔」
ハンカチの代わりに渡された手鏡を見たら、それはそれは泣き腫らした顔の俺が映っていた。キラリと光る証のピアスは綺麗だけど。
サファイアブルーの石を中心に蔦がデザインされていて、石が大ぶりなものではない代わりに蔦が上のほうまで伸びている。それが耳たぶの上、軟骨のあたりを包み込むようになっていた。だからピアス穴に当たっているのは石の部分だ。重さがある部分が穴のところにあるから、そこまで違和感はないかもしれない。
俺のはそんな青い石だけど、リューセントさんが付けるのは黄色みのある焦げ茶色の石だ。お互いのイメージカラーってことみたい。蔦のデザインは同じで、手渡されたそれをリューセントさんの右耳に付ける。
お揃いのものを付ける場所に決まりはない。日本のようにお互いに同じ場所につけることもあるし、こうやって左右を逆にすることもある。このデザインだとペアのものを分けて付けているってことにしたかったのかな?
「絵姿は目の腫れが落ち着いてからだね。もう少し冷やしておこうか」
「……そうします」
俺のことを虐めていると誤解された兄ちゃんがルードヴィグくんに足蹴にされている横で、俺とリューセントさんは晴れて結婚と相成った。
「もしかして……兄ちゃん、それでいままで?」
「じゃなかったらすぐ帰ってるわ、バカ」
「またバカって言う! ……うぅ、でも、ありがとう」
リューセントさんもだけど、兄ちゃんも俺のことを愛してくれてるじゃんか。あえて指摘はしないけど。
きっと、兄ちゃんが王都に来てすぐに決まったんだと思う。俺が顔合わせについてきてってお願いした時は嫌がってたから、その後かな。昨夜の話からして、こんな流れじゃないと結婚式は参加してもらえなかっただろうし、それもあって兄ちゃんはここまで一緒に来てくれたんだろう。まぁ一言くらい言ってくれても良いじゃんって思うけどさ。
ルクウストさんが「こちらですよ」と一声掛けてくれて、大きなドアが開かれた。そこから先は俺と兄ちゃんとで進むことになる。
大広間は真ん中を突っ切るように色違いの絨毯が敷かれていて、その向こうにリューセントさんたちご家族が並んでいる。俺と兄ちゃんはいつの間にか繋いでいた手をぎゅっと握り合って、一歩を踏み出した。
近くなればなるほど、はっきりと見えてくるウォルズ家の方々のきらびやかさがすごい。みなさん、式典っぽいお洋服がよくお似合いです。
そんな中でもリューセントさんは、惚れた欲目もあるかもしれないけれど別格なわけで……。
「アシャン、もう泣いているの?」
「うぇえ……だ、だってぇ……」
俺の涙腺崩壊。横の兄ちゃんが呆れながら、俺の手をリューセントさんの手へと押し付けた。本当なら自分から相手へと手を差し出さなきゃならないんだけど、ちょっとそこまでの余裕がないです。
エグエグと止まらない涙をリューセントさんがハンカチで押さえてくれる。お互いに礼服だから袖で拭うわけにも、ましてや抱きつくわけにもいかない。でも止まらないんだよ。
だってリューセントさんめっちゃ格好良い! なのに泣いてたら見れないこのジレンマ !! 俺がこの場に立てたことも、隣に兄ちゃんがいることも、そしてウォルズのおうちの方々に歓迎してもらえていることも……全部が全部、奇跡みたいなことだ。
うっかりお酒に酔ったのがきっかけでこんな素敵な人と巡り会ったなんて、村にいた頃の自分に言っても信じないよ。
「リューセントさん、もうこの状態でやるしかないです。――ほら、アシャン。泣いてて良いからすこしじっとしてなさい」
「ふぇ?」
「うんうん、大丈夫だから。――左でしたよね?」
兄ちゃんとリューセントさんが何かやり取りをしているのがぼんやり聞こえた。なんの話? と聞くより先、俺がちょっと動こうとした一拍前に……。
「いぃいいいいったぁああああああ!!」
ブチンっと、左の耳に衝撃が走った。
「……あ、あ、う、あ」
衝撃のあとは熱さ。そして痛み。ジンジンとした熱が耳を中心にして頭全体をグルグルと駆け巡る。そんな状態だからなにかを言うことも出来ない。くちから出てくるのは意味のない音で、今度は違う意味で涙が止まらなくなった。
「ごめんね、アシャン。ちゃんと説明してからと思ったんだけど……」
「こいつには気持ちの準備なんてさせないほうが良いんです。死ぬわけじゃあるまいし」
「アチャン、いじめちゃ、めーよぉ!」
涙でビショビショになったハンカチを冷たく濡らしたハンカチに変えてもらう。
その冷えたハンカチで顔を押さえたまま進行予定を確認すると、本来の予定では到着したところで改めて俺がご両親に挨拶をして、リューセントさんも兄ちゃんに挨拶。そしたらお互いに証をつけるって流れだったらしい。俺が感極まって泣き出しちゃったから、もうそのどさくさに紛れてピアス穴を開けたとか……。
「いや、兄ちゃんのその思い切りは間違ってないんだけどさ」
「だろ?」
「むかつく。……うわ、ぶっさいくな顔」
ハンカチの代わりに渡された手鏡を見たら、それはそれは泣き腫らした顔の俺が映っていた。キラリと光る証のピアスは綺麗だけど。
サファイアブルーの石を中心に蔦がデザインされていて、石が大ぶりなものではない代わりに蔦が上のほうまで伸びている。それが耳たぶの上、軟骨のあたりを包み込むようになっていた。だからピアス穴に当たっているのは石の部分だ。重さがある部分が穴のところにあるから、そこまで違和感はないかもしれない。
俺のはそんな青い石だけど、リューセントさんが付けるのは黄色みのある焦げ茶色の石だ。お互いのイメージカラーってことみたい。蔦のデザインは同じで、手渡されたそれをリューセントさんの右耳に付ける。
お揃いのものを付ける場所に決まりはない。日本のようにお互いに同じ場所につけることもあるし、こうやって左右を逆にすることもある。このデザインだとペアのものを分けて付けているってことにしたかったのかな?
「絵姿は目の腫れが落ち着いてからだね。もう少し冷やしておこうか」
「……そうします」
俺のことを虐めていると誤解された兄ちゃんがルードヴィグくんに足蹴にされている横で、俺とリューセントさんは晴れて結婚と相成った。
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