22 / 28
兄ちゃんからの忠告
しおりを挟む
最後に、シーファンが荒れると言われて俺は首を傾げた。
「シーファンって、あのシーファン? いじめっ子の?」
「いじめっ子で体がデカくて村のガキ大将で、隣の家でお前と同い年のシーファンだ」
さすがにもういじめられはしないけど、小さい時はよく小突かれてた。アザになるとかはなかったし、ちょっとよろけるくらいだったけどね。
「お前が王都に行くって言った時、一番に反対したのは?」
「シーファン」
両親も兄弟も、誰も心配しなかったし反対しなかったんだけど……幼なじみのシーファンだけが大反対した。だから日付とか言わずに、成人してすぐに出て来たんだよ。
「……あいつがお前のこと、ずぅっと前から好きだったことには気付いていたか?」
「はぁ? いやいや、ないない。だって男同士だよ??」
そんな返答は「お前とリューセントさんも男同士だろうが」と冷静に突っこまれてしまった。でもシーファンは結構な人数と遊んでたんだよ。俺、それもしっかり知ってるんだ。リューセントさんも、イーアのあれこれがなければ今もまだ遊んでたかもしれないけどさ。
「いや、その前に結婚してたかもだなぁ……」
「なんの話だよ」
「こっちの話。……でもさぁ、シーファンが俺のこと好きだなんてあり得ないでしょ」
嫌われてるって言われたほうが納得なくらい、俺とシーファンは没交渉だった。昔は普通に遊んでたんだ。でもいつの間にかいじめてくるようになって、それならそれで別に遊ばなくても良いかな~と思って……そのあたりから畑仕事を手伝うようにもなったしさ。そんなこんなで何年も会話なんてろくにしてなかった。
だからぽろっと「俺、王都に出稼ぎに行く」って話した時にびっくりしたんだ。
「あんなに反対するなら言わなきゃ良かった」
「なんで反対したのか考えてみろよ。もしくは、自分とシーファンで考えないで……例えばユシィとスウェンとか」
その二人は今年八歳になる妹と、その男友達だ。スウェンがちょっかいを出して、ユシィを泣かせるから困りもの。あー、そう考えるとエルベルトさんとカティさんの関係にも近い。
八歳と同じメンタルなエルベルトさんってヤバ……あれ?
「泣きはしなかったけど、近いことはされてるね?」
「ちっさい頃は泣いてたよ。途中からシーファンを避けることで対処してたけどな」
つまりシーファンのあれこれは、俺の気を惹くためにやっていたことだってこと?
「大反対してる中で、あいつなんか言ってなかったか?」
「え? えーっと……〝そんなに稼ぎたいなら、俺が代わりに稼いでやる〟だったっけ?」
俺だって男だ、なしてお前に稼いでもらわないとならんのだ、と啖呵を切ったんだよな。あいつが稼いだ金をうちに入れる意味がわからん。だって家族じゃないし。
「遠回しに、自分が家族になってやるって言われてたことに気付いてるか?」
気付くわけ、なくない? 無茶言わないでよって話じゃない??
「まぁそれはシーファンの自業自得な部分が大きいから、気にしなくても良いけどな。 ……でもご領主さまに対してはちょっと対処しきれん。俺たちからしたら貴族さまだし。それについてもリューセントさんに相談したが、ひとまずお前が帰ってこないことが一番の親孝行だと思ってくれ」
まさかの理由だった。結婚と同時に実家と絶縁なんて……でも兄ちゃんの言ってることもわかる。わかってしまう。
「代わりに、専用の鳥を用意してくれることになった。だから手紙のやり取りは出来る。完全に縁が切れるわけじゃないし、どうしても苦しくて無理になったら帰ってきて構わない」
「……それがなんで、俺がエッチに積極的になる話になるのさ」
手紙の紛失を気にせずにやり取り出来るのは嬉しい。伝書鳩みたいなやつだと思うけど、都会と違って田舎のほうは猛禽類が山ほどいる。そういうのに対処出来るのは同じ猛禽類だから、たぶんお値段も結構すると思う。
でも点と点が繋がらない。そのお値段分、サービスしなさいみたいな話じゃないと思うけど。
「リューセントさんの家系が唯一を大事にするって話は俺も聞いた。だから安心してる部分もある。でもそれだって絶対じゃないだろう? それに……これは俺の体験談になるけど、〝嫌だ〟と言われ続けるのはちょっとキツいもんがあるんだよ。たまになら体調が悪いのかなと思えるけど、お前の場合は毎回じゃないか?」
なんかそれ、聞いたことがあるかも。エッチを拒否られることが自分への否定に感じてしまうとかなんとか。
すぐに駆けつけることが出来ない状況の中で、出来れば俺とリューセントさんは円満に仲良く過ごして欲しいっていう兄心からの忠告だった。ついでに言うと、俺たちを見ていて「なんやかんや逃げまくるのはアシャンだろう」と確信したらしい。
「俺だって、リューセントさんのことはちゃんと好きだもん」
「その〝好き〟をちゃんと伝えて、ちゃんと受け取ってもらえないと、俺みたいに嫁さんに逃げられるんだよ。バーカ」
俺から見たら、兄ちゃんはお嫁さんをちゃんと大事にしていた。でもそれを、お嫁さん側がどう感じていたかはわからない。物足りないって思ってたのかもしれないし、逆にしんどく感じていたのかもしれない。
「拗れる時なんて、ほんと些細なことで拗れるんだ。そうならないように努力しなさい」
「……はぁい」
ちょっと思ってもみなかった兄ちゃんからの話にグルグルしてしまって、「今日で最後」を言い訳に兄ちゃんのほうのベッドに潜り込んだ。そんな俺に対して「まだ殺されたくねぇんだけど」と言いながら一緒に寝てくれた兄ちゃん。
その腕の中で、ほんの少しだけ泣かせてもらった。
「シーファンって、あのシーファン? いじめっ子の?」
「いじめっ子で体がデカくて村のガキ大将で、隣の家でお前と同い年のシーファンだ」
さすがにもういじめられはしないけど、小さい時はよく小突かれてた。アザになるとかはなかったし、ちょっとよろけるくらいだったけどね。
「お前が王都に行くって言った時、一番に反対したのは?」
「シーファン」
両親も兄弟も、誰も心配しなかったし反対しなかったんだけど……幼なじみのシーファンだけが大反対した。だから日付とか言わずに、成人してすぐに出て来たんだよ。
「……あいつがお前のこと、ずぅっと前から好きだったことには気付いていたか?」
「はぁ? いやいや、ないない。だって男同士だよ??」
そんな返答は「お前とリューセントさんも男同士だろうが」と冷静に突っこまれてしまった。でもシーファンは結構な人数と遊んでたんだよ。俺、それもしっかり知ってるんだ。リューセントさんも、イーアのあれこれがなければ今もまだ遊んでたかもしれないけどさ。
「いや、その前に結婚してたかもだなぁ……」
「なんの話だよ」
「こっちの話。……でもさぁ、シーファンが俺のこと好きだなんてあり得ないでしょ」
嫌われてるって言われたほうが納得なくらい、俺とシーファンは没交渉だった。昔は普通に遊んでたんだ。でもいつの間にかいじめてくるようになって、それならそれで別に遊ばなくても良いかな~と思って……そのあたりから畑仕事を手伝うようにもなったしさ。そんなこんなで何年も会話なんてろくにしてなかった。
だからぽろっと「俺、王都に出稼ぎに行く」って話した時にびっくりしたんだ。
「あんなに反対するなら言わなきゃ良かった」
「なんで反対したのか考えてみろよ。もしくは、自分とシーファンで考えないで……例えばユシィとスウェンとか」
その二人は今年八歳になる妹と、その男友達だ。スウェンがちょっかいを出して、ユシィを泣かせるから困りもの。あー、そう考えるとエルベルトさんとカティさんの関係にも近い。
八歳と同じメンタルなエルベルトさんってヤバ……あれ?
「泣きはしなかったけど、近いことはされてるね?」
「ちっさい頃は泣いてたよ。途中からシーファンを避けることで対処してたけどな」
つまりシーファンのあれこれは、俺の気を惹くためにやっていたことだってこと?
「大反対してる中で、あいつなんか言ってなかったか?」
「え? えーっと……〝そんなに稼ぎたいなら、俺が代わりに稼いでやる〟だったっけ?」
俺だって男だ、なしてお前に稼いでもらわないとならんのだ、と啖呵を切ったんだよな。あいつが稼いだ金をうちに入れる意味がわからん。だって家族じゃないし。
「遠回しに、自分が家族になってやるって言われてたことに気付いてるか?」
気付くわけ、なくない? 無茶言わないでよって話じゃない??
「まぁそれはシーファンの自業自得な部分が大きいから、気にしなくても良いけどな。 ……でもご領主さまに対してはちょっと対処しきれん。俺たちからしたら貴族さまだし。それについてもリューセントさんに相談したが、ひとまずお前が帰ってこないことが一番の親孝行だと思ってくれ」
まさかの理由だった。結婚と同時に実家と絶縁なんて……でも兄ちゃんの言ってることもわかる。わかってしまう。
「代わりに、専用の鳥を用意してくれることになった。だから手紙のやり取りは出来る。完全に縁が切れるわけじゃないし、どうしても苦しくて無理になったら帰ってきて構わない」
「……それがなんで、俺がエッチに積極的になる話になるのさ」
手紙の紛失を気にせずにやり取り出来るのは嬉しい。伝書鳩みたいなやつだと思うけど、都会と違って田舎のほうは猛禽類が山ほどいる。そういうのに対処出来るのは同じ猛禽類だから、たぶんお値段も結構すると思う。
でも点と点が繋がらない。そのお値段分、サービスしなさいみたいな話じゃないと思うけど。
「リューセントさんの家系が唯一を大事にするって話は俺も聞いた。だから安心してる部分もある。でもそれだって絶対じゃないだろう? それに……これは俺の体験談になるけど、〝嫌だ〟と言われ続けるのはちょっとキツいもんがあるんだよ。たまになら体調が悪いのかなと思えるけど、お前の場合は毎回じゃないか?」
なんかそれ、聞いたことがあるかも。エッチを拒否られることが自分への否定に感じてしまうとかなんとか。
すぐに駆けつけることが出来ない状況の中で、出来れば俺とリューセントさんは円満に仲良く過ごして欲しいっていう兄心からの忠告だった。ついでに言うと、俺たちを見ていて「なんやかんや逃げまくるのはアシャンだろう」と確信したらしい。
「俺だって、リューセントさんのことはちゃんと好きだもん」
「その〝好き〟をちゃんと伝えて、ちゃんと受け取ってもらえないと、俺みたいに嫁さんに逃げられるんだよ。バーカ」
俺から見たら、兄ちゃんはお嫁さんをちゃんと大事にしていた。でもそれを、お嫁さん側がどう感じていたかはわからない。物足りないって思ってたのかもしれないし、逆にしんどく感じていたのかもしれない。
「拗れる時なんて、ほんと些細なことで拗れるんだ。そうならないように努力しなさい」
「……はぁい」
ちょっと思ってもみなかった兄ちゃんからの話にグルグルしてしまって、「今日で最後」を言い訳に兄ちゃんのほうのベッドに潜り込んだ。そんな俺に対して「まだ殺されたくねぇんだけど」と言いながら一緒に寝てくれた兄ちゃん。
その腕の中で、ほんの少しだけ泣かせてもらった。
29
――匿名での感想や絵文字も受付中です――
wavebox
wavebox
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
ちょっとおかしい幼馴染
すずかけあおい
BL
タイトル通りですが、ちょっとおかしい幼馴染攻めを書きたかったのと、攻めに受けを「ちゃん」付けで呼んで欲しくて書いた話です。
攻めが受け大好きで、受けも攻めが好きです。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

いつかコントローラーを投げ出して
せんぷう
BL
オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。
世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。
バランサー。
アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。
これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。
裏社会のトップにして最強のアルファ攻め
×
最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け
※オメガバース特殊設定、追加性別有り
.

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった
無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。
そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。
チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】オーロラ魔法士と第3王子
N2O
BL
全16話
※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。
※2023.11.18 文章を整えました。
辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。
「なんで、僕?」
一人狼第3王子×黒髪美人魔法士
設定はふんわりです。
小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。
嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。
感想聞かせていただけると大変嬉しいです。
表紙絵
⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる