一夜の過ち……え? 違う?

宮野愛理

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兄ちゃんからの忠告

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 最後に、シーファンが荒れると言われて俺は首を傾げた。

「シーファンって、あのシーファン? いじめっ子の?」
「いじめっ子で体がデカくて村のガキ大将で、隣の家でお前と同い年のシーファンだ」

 さすがにもういじめられはしないけど、小さい時はよく小突かれてた。アザになるとかはなかったし、ちょっとよろけるくらいだったけどね。

「お前が王都に行くって言った時、一番に反対したのは?」
「シーファン」

 両親も兄弟も、誰も心配しなかったし反対しなかったんだけど……幼なじみのシーファンだけが大反対した。だから日付とか言わずに、成人してすぐに出て来たんだよ。

「……あいつがお前のこと、ずぅっと前から好きだったことには気付いていたか?」
「はぁ? いやいや、ないない。だって男同士だよ??」

 そんな返答は「お前とリューセントさんも男同士だろうが」と冷静に突っこまれてしまった。でもシーファンは結構な人数と遊んでたんだよ。俺、それもしっかり知ってるんだ。リューセントさんも、イーアのあれこれがなければ今もまだ遊んでたかもしれないけどさ。

「いや、その前に結婚してたかもだなぁ……」
「なんの話だよ」
「こっちの話。……でもさぁ、シーファンが俺のこと好きだなんてあり得ないでしょ」

 嫌われてるって言われたほうが納得なくらい、俺とシーファンは没交渉だった。昔は普通に遊んでたんだ。でもいつの間にかいじめてくるようになって、それならそれで別に遊ばなくても良いかな~と思って……そのあたりから畑仕事を手伝うようにもなったしさ。そんなこんなで何年も会話なんてろくにしてなかった。
 だからぽろっと「俺、王都に出稼ぎに行く」って話した時にびっくりしたんだ。

「あんなに反対するなら言わなきゃ良かった」
「なんで反対したのか考えてみろよ。もしくは、自分とシーファンで考えないで……例えばユシィとスウェンとか」

 その二人は今年八歳になる妹と、その男友達だ。スウェンがちょっかいを出して、ユシィを泣かせるから困りもの。あー、そう考えるとエルベルトさんとカティさんの関係にも近い。
 八歳と同じメンタルなエルベルトさんってヤバ……あれ?

「泣きはしなかったけど、近いことはされてるね?」
「ちっさい頃は泣いてたよ。途中からシーファンを避けることで対処してたけどな」

 つまりシーファンのあれこれは、俺の気を惹くためにやっていたことだってこと?

「大反対してる中で、あいつなんか言ってなかったか?」
「え? えーっと……〝そんなに稼ぎたいなら、俺が代わりに稼いでやる〟だったっけ?」

 俺だって男だ、なしてお前に稼いでもらわないとならんのだ、と啖呵を切ったんだよな。あいつが稼いだ金をうちに入れる意味がわからん。だって家族じゃないし。

「遠回しに、自分が家族になってやるって言われてたことに気付いてるか?」

 気付くわけ、なくない? 無茶言わないでよって話じゃない??

「まぁそれはシーファンの自業自得な部分が大きいから、気にしなくても良いけどな。 ……でもご領主さまに対してはちょっと対処しきれん。俺たちからしたら貴族さまだし。それについてもリューセントさんに相談したが、ひとまずお前が帰ってこないことが一番の親孝行だと思ってくれ」

 まさかの理由だった。結婚と同時に実家と絶縁なんて……でも兄ちゃんの言ってることもわかる。わかってしまう。

「代わりに、専用の鳥を用意してくれることになった。だから手紙のやり取りは出来る。完全に縁が切れるわけじゃないし、どうしても苦しくて無理になったら帰ってきて構わない」
「……それがなんで、俺がエッチに積極的になる話になるのさ」

 手紙の紛失を気にせずにやり取り出来るのは嬉しい。伝書鳩みたいなやつだと思うけど、都会と違って田舎のほうは猛禽類が山ほどいる。そういうのに対処出来るのは同じ猛禽類だから、たぶんお値段も結構すると思う。
 でも点と点が繋がらない。そのお値段分、サービスしなさいみたいな話じゃないと思うけど。

「リューセントさんの家系が唯一を大事にするって話は俺も聞いた。だから安心してる部分もある。でもそれだって絶対じゃないだろう? それに……これは俺の体験談になるけど、〝嫌だ〟と言われ続けるのはちょっとキツいもんがあるんだよ。たまになら体調が悪いのかなと思えるけど、お前の場合は毎回じゃないか?」

 なんかそれ、聞いたことがあるかも。エッチを拒否られることが自分への否定に感じてしまうとかなんとか。
 すぐに駆けつけることが出来ない状況の中で、出来れば俺とリューセントさんは円満に仲良く過ごして欲しいっていう兄心からの忠告だった。ついでに言うと、俺たちを見ていて「なんやかんや逃げまくるのはアシャンだろう」と確信したらしい。

「俺だって、リューセントさんのことはちゃんと好きだもん」
「その〝好き〟をちゃんと伝えて、ちゃんと受け取ってもらえないと、俺みたいに嫁さんに逃げられるんだよ。バーカ」

 俺から見たら、兄ちゃんはお嫁さんをちゃんと大事にしていた。でもそれを、お嫁さん側がどう感じていたかはわからない。物足りないって思ってたのかもしれないし、逆にしんどく感じていたのかもしれない。

「拗れる時なんて、ほんと些細なことで拗れるんだ。そうならないように努力しなさい」
「……はぁい」

 ちょっと思ってもみなかった兄ちゃんからの話にグルグルしてしまって、「今日で最後」を言い訳に兄ちゃんのほうのベッドに潜り込んだ。そんな俺に対して「まだ殺されたくねぇんだけど」と言いながら一緒に寝てくれた兄ちゃん。
 その腕の中で、ほんの少しだけ泣かせてもらった。
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