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結婚の挨拶
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明けて翌日。回復薬でも回復しきれない疲労で、お姫様抱っこをされて宿からお屋敷に運ばれるという羞恥プレイ……代わりにリューセントさんはツヤッツヤしていた。キラッキラもしていた。
ついでに、お屋敷ではエルベルトさんがツヤッツヤになっていた。モジャモジャだった髭を全部剃って、髪もハサミを入れてから撫でつけて、服も仕舞ってあったという専用サイズのシャツとズボンで男前度が爆上がりしていた。
でもカティさんが寝込んでいた……のは何故かを聞かないほうが良いんだろう。
リューセントさんが「収まるところに収まったかな」と言っていたから、たぶんまぁ、そういうこと。
それからルクウストさんたちに無事お付き合いが始まったことを報告して、「早速リューセントさんのご実家に行く日程を調整しなきゃね」なんて話になってから問題が一つ発生した。
「だから、アシャンのご両親にもご挨拶は必要だろう? いくら私のところで世話になっていると報告はしていても親御さんとしては不安だろうし、なんといっても祝い事なんだよ??」
「大丈夫です。だって子供が十三人もいるんですよ? 俺が出て行くってなった時も気を付けての一言で終わりでしたし、子供全員の巣立ちや結婚であれこれ出せる余裕なんてないですし。手紙で報告するだけで充分ですよ」
お付き合いの先にある結婚、その前にする両親への挨拶……を、どうするかで意見が割れた。あ、この世界は同性同士でも結婚出来る。出来るからこそそれぞれの家に行って挨拶するなんてイベントもあるんだ。
「その手紙だって、来たばかりの時に送っただけでしょう?」
三ヶ月ちょっとの間に一通しか送っていないこと、気付かれていた。だけど、それだってこの世界の郵便事情を鑑みれば仕方がない――一言でいってしまえば、手紙の紛失が異常に多いから。そして、それに対しての紛失保証もない。追加料金を払う速達のようなサービスはあるけど、どちらかというと誰かの「行く予定があるから持って行こうか?」という善意の提案を待つほうが確実ってオチ。
「だってお金かかるんですもん」
到着した時に「着いたよ」は報告した。あと、リューセントさんのお家でお世話になっていることも伝えてある。返事はなかったけど、それが紛失での未着なのか返信自体がないのかはわからない。そしてそれを確認するすべもない。
だから俺としては〝いつか帰省する時に一気に済ませたほうが無駄がないな〟くらいに考えている。
しかも行くだけで二週間掛かるからね。往復で一ヶ月弱なんて、リューセントさんはそこまで休めないだろう。それもあって、俺としては「うちへの挨拶はいらない」と思っている。両親を呼び寄せようにも弟妹がいるから無理だろうし。
「なら、俺が手紙の一つでも持っていってやろうか?」
そんなことを言い合っていたら、エルベルトさんに提案された。
「え?」
「休み、もうちょいあるし。お前のところってコッレルモ村だろ? 俺一人なら馬で三日もあれば着くぞ?」
馬車で二週間というのも、俺が乗ってきたのは色々な村や町を経由していく巡回バスみたいなやつだったからで、直線距離なら半分くらいの日程になるらしい。そこを単騎で走らせれば三日……いやそれ、エルベルトさんだから出来る話じゃない?
「私も出来ます」
「あ、はい」
二人とも、そもそもの体力や技術が俺とは違い過ぎる。いや俺も馬には乗れるけどね。農耕馬って種類になるけど!
「でも、その……良いんですか? お休み、潰れちゃうことになりますけど」
「今の俺は機嫌が良いからな。その一端はお前も担っているから、気にしないでいい」
よくわからないけど、届けてくれるならありがたい。横に座っているリューセントさんから「私だって出来るのに……休みがあれば……」とブツブツ聞こえるのは無視しておこう。
渡す物は両親宛の手紙。俺が用意出来たのはそれだけだった――しかもそのレターセットはヒルダさんが準備してくれた――けど、他に日持ちのするお菓子なんかをエイラさんが大量に用意してくれた。その荷物の量にエルベルトさんが「あんまり重くすると馬がバテる!」って怒っていた。
そんな流れで「すぐ戻ってくるから待ってろ」と出掛けたエルベルトさんが帰ってきた時、なぜか馬上にもう一人を乗せていた不思議。しかも二人乗りでイメージする〝王子様とお姫様〟みたいな優雅な状態ではなく、ぐったりとエルベルトさんに寄りかかっている。
顔色の悪いその人は、馬がお屋敷の玄関ポーチに止まった途端にずるりと流れ落ちて地面に転がった。
「おしり、いたい。からだいたい。きもちわるい……」
「……なにしてんの、ラジェ兄ちゃん」
うちの長男。コッレルモ村にいるはずの兄が、両手と両足を地面につけてお尻を高くあげていた。これは女豹のポーズってやつ?
「エル兄さん、人を乗せているのにそのままの速度で?」
「死なない程度には抑えたがな。渡すモン渡して帰ろうとしたら、こいつが連れてけって言うから乗せてきた」
また髭モジャになりながらケロリとしているエルベルトさんとの温度差が酷い。
ルクウストさんとティモさんが肩を貸してラジェ兄ちゃんを応接室へと連れて行ってくれたけど、本当になにしに来たんだろう。
エルベルトさんは仕事は終わったとばかりに、自分に割り当てられた部屋へと去って行く。そっとカティさんが向かったから、あれこれのお世話は大丈夫か。
ソファにだらりと横たわったラジェ兄ちゃんは「こんな格好ですみません」と恐縮しているけど、それはそれとしてお尻と太ももが痛すぎて普通に座っていられないらしい。だから馬から降りた時もあの体勢だったんだな。
そこで教えてくれたこと。
俺の送った手紙はちゃんと届いていた。みんなで「良い人に拾ってもらったんだね」なんて話していたら、あらビックリ。両親はまさかの玉の輿の一報をもたらした美丈夫に腰を抜かし、弟妹は見たことのない甘い物に狂喜乱舞で、兄姉はなんでアシャンがと大騒ぎ。めちゃくちゃカオスだった。
ついでに、お屋敷ではエルベルトさんがツヤッツヤになっていた。モジャモジャだった髭を全部剃って、髪もハサミを入れてから撫でつけて、服も仕舞ってあったという専用サイズのシャツとズボンで男前度が爆上がりしていた。
でもカティさんが寝込んでいた……のは何故かを聞かないほうが良いんだろう。
リューセントさんが「収まるところに収まったかな」と言っていたから、たぶんまぁ、そういうこと。
それからルクウストさんたちに無事お付き合いが始まったことを報告して、「早速リューセントさんのご実家に行く日程を調整しなきゃね」なんて話になってから問題が一つ発生した。
「だから、アシャンのご両親にもご挨拶は必要だろう? いくら私のところで世話になっていると報告はしていても親御さんとしては不安だろうし、なんといっても祝い事なんだよ??」
「大丈夫です。だって子供が十三人もいるんですよ? 俺が出て行くってなった時も気を付けての一言で終わりでしたし、子供全員の巣立ちや結婚であれこれ出せる余裕なんてないですし。手紙で報告するだけで充分ですよ」
お付き合いの先にある結婚、その前にする両親への挨拶……を、どうするかで意見が割れた。あ、この世界は同性同士でも結婚出来る。出来るからこそそれぞれの家に行って挨拶するなんてイベントもあるんだ。
「その手紙だって、来たばかりの時に送っただけでしょう?」
三ヶ月ちょっとの間に一通しか送っていないこと、気付かれていた。だけど、それだってこの世界の郵便事情を鑑みれば仕方がない――一言でいってしまえば、手紙の紛失が異常に多いから。そして、それに対しての紛失保証もない。追加料金を払う速達のようなサービスはあるけど、どちらかというと誰かの「行く予定があるから持って行こうか?」という善意の提案を待つほうが確実ってオチ。
「だってお金かかるんですもん」
到着した時に「着いたよ」は報告した。あと、リューセントさんのお家でお世話になっていることも伝えてある。返事はなかったけど、それが紛失での未着なのか返信自体がないのかはわからない。そしてそれを確認するすべもない。
だから俺としては〝いつか帰省する時に一気に済ませたほうが無駄がないな〟くらいに考えている。
しかも行くだけで二週間掛かるからね。往復で一ヶ月弱なんて、リューセントさんはそこまで休めないだろう。それもあって、俺としては「うちへの挨拶はいらない」と思っている。両親を呼び寄せようにも弟妹がいるから無理だろうし。
「なら、俺が手紙の一つでも持っていってやろうか?」
そんなことを言い合っていたら、エルベルトさんに提案された。
「え?」
「休み、もうちょいあるし。お前のところってコッレルモ村だろ? 俺一人なら馬で三日もあれば着くぞ?」
馬車で二週間というのも、俺が乗ってきたのは色々な村や町を経由していく巡回バスみたいなやつだったからで、直線距離なら半分くらいの日程になるらしい。そこを単騎で走らせれば三日……いやそれ、エルベルトさんだから出来る話じゃない?
「私も出来ます」
「あ、はい」
二人とも、そもそもの体力や技術が俺とは違い過ぎる。いや俺も馬には乗れるけどね。農耕馬って種類になるけど!
「でも、その……良いんですか? お休み、潰れちゃうことになりますけど」
「今の俺は機嫌が良いからな。その一端はお前も担っているから、気にしないでいい」
よくわからないけど、届けてくれるならありがたい。横に座っているリューセントさんから「私だって出来るのに……休みがあれば……」とブツブツ聞こえるのは無視しておこう。
渡す物は両親宛の手紙。俺が用意出来たのはそれだけだった――しかもそのレターセットはヒルダさんが準備してくれた――けど、他に日持ちのするお菓子なんかをエイラさんが大量に用意してくれた。その荷物の量にエルベルトさんが「あんまり重くすると馬がバテる!」って怒っていた。
そんな流れで「すぐ戻ってくるから待ってろ」と出掛けたエルベルトさんが帰ってきた時、なぜか馬上にもう一人を乗せていた不思議。しかも二人乗りでイメージする〝王子様とお姫様〟みたいな優雅な状態ではなく、ぐったりとエルベルトさんに寄りかかっている。
顔色の悪いその人は、馬がお屋敷の玄関ポーチに止まった途端にずるりと流れ落ちて地面に転がった。
「おしり、いたい。からだいたい。きもちわるい……」
「……なにしてんの、ラジェ兄ちゃん」
うちの長男。コッレルモ村にいるはずの兄が、両手と両足を地面につけてお尻を高くあげていた。これは女豹のポーズってやつ?
「エル兄さん、人を乗せているのにそのままの速度で?」
「死なない程度には抑えたがな。渡すモン渡して帰ろうとしたら、こいつが連れてけって言うから乗せてきた」
また髭モジャになりながらケロリとしているエルベルトさんとの温度差が酷い。
ルクウストさんとティモさんが肩を貸してラジェ兄ちゃんを応接室へと連れて行ってくれたけど、本当になにしに来たんだろう。
エルベルトさんは仕事は終わったとばかりに、自分に割り当てられた部屋へと去って行く。そっとカティさんが向かったから、あれこれのお世話は大丈夫か。
ソファにだらりと横たわったラジェ兄ちゃんは「こんな格好ですみません」と恐縮しているけど、それはそれとしてお尻と太ももが痛すぎて普通に座っていられないらしい。だから馬から降りた時もあの体勢だったんだな。
そこで教えてくれたこと。
俺の送った手紙はちゃんと届いていた。みんなで「良い人に拾ってもらったんだね」なんて話していたら、あらビックリ。両親はまさかの玉の輿の一報をもたらした美丈夫に腰を抜かし、弟妹は見たことのない甘い物に狂喜乱舞で、兄姉はなんでアシャンがと大騒ぎ。めちゃくちゃカオスだった。
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