一夜の過ち……え? 違う?

宮野愛理

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連れ去り?

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 俺の手を引いて歩いてくれたのはクレインさん。年齢は二つ上で二十歳、恋人は男女問わずで募集中……いや、その情報は必要? と思ったけど言わないでおいた。

「もうね! この仕事ってモテるはずなんだけど、うちの隊長が良い男過ぎて俺たちはかすみまくってるの!!」

 それを言われてしまうと「そうかもなぁ」と思ってしまった。いや、クレインさんはとても親近感のある顔立ちで、年上の人から可愛がられるタイプに見えるし問題ないと思うんだけど。

「おや、クレイン。迷子かい?」
「俺じゃなくってこの子がね! もう流石に道は覚えたから!!」

 うん、可愛がってはもらえてるね。年上――というには語弊があるくらい上の世代――から。この人も十八での上京組で、とはいえ俺と違って地元で試験を受けての騎士隊警備部入りらしい。だから最初は道が全くわからなかったみたい。そういう人は年に何人もいてピカピカの制服と相まってすぐわかるということで、気のいいおじいちゃんおばあちゃんに色々と世話を焼いてもらうんだって。
 リューセントさんのせいでモテるモテない以前に、そういう姿を見られてるから対象外にされているのでは? とは思ってもくちに出してはいけないんだろうな。
 たぶん、あと五年もすればモテるようになると思う。男は黙って背中で語る的なやつで。

「あ、アシャンくん。ここに名前書いて」
「入室帳……すみません、この現住所ってどうしたらいいですか?」
「そこは隊長の家の……うん、俺が書くね」

 あそこの住所、知らないんですって顔をしたらクレインさんが書いてくれた。ありがとうございます。
 ルクウストさんに文字の書き方を習っていて良かった。こういう時に書けなくても代筆はしてもらえるだろうし問題はないだろうけど、隊長職にいる人の関係者が……となると評価に響く可能性もある。ここでの俺の一挙手一投足が、リューセントさんの面子に関わるんだ。
 だからキョロキョロしたい気持ちを必死で押さえ込む。でも、そうやってまたクレインさんについて行こうとした俺の腕を、後ろから引き留める人がいた。
 振り返って仰ぎ見ればこれまたでっかい男の人。さっき会ったリューセントさんのお兄さんくらい大きい。
 そんな人が俺を見下ろし、ニッカリと笑った。

「面倒な書類仕事でも、たまには事務局まで来てみるモンだな。クレイン、こいつは俺が預かる。リューセントは外回りだから、戻ってきたら俺のとこまで来いと伝えろ」
「はいっ!」

 クレインさん、さっきまでの気の良い兄ちゃんぷりが消し飛んでる。ビシッと敬礼してるところからして、このデカい人は偉い人らしい。
 さっき入室帳を渡した事務員さんが「部隊長、いじめちゃ駄目ですよ」と言っているので、かなり偉い人かもしれない。そんな人が俺の腕をグイグイと引っ張っていくから、ついて行くのに必死だ。身長差からの足の長さを考慮してくれ! 振り向いてクレインさんを見てみたら、くちの動きで「がんばって」と言ってくれたのが印象的だった。
 もうキョロキョロなんてする余裕はなく、あっち行ってこっちの角を曲がってとめまぐるしく変わる風景に道順なんて覚えられない。このまま「じゃ、ここで」なんて置いていかれたら……と少し不安になってきたところで、重厚なドアが見えてきた。

「おーぅ、帰ったぞー!」

 それをまた豪快に開け放つ偉い人。
 部屋の中で書類を睨んでいた人がこっちを見て目を見開いていた。でもそのビックリした顔が一瞬でキリッとした鋭さを取り戻して、「ジルフィス! なに小さい子を連れ回しているんですか!!」と怒鳴った。

「リコ、そう怒るなよ」
「怒られたくないなら軽率な行動は控えてください !! あなたはもうここの部隊を率いる立場なんですよ !? ――えっと、ごめんね。この人怖い人じゃないからね、どこから来たの? 迷子かな?」

 優しく言ってくれるけど立ち上がった視線は俺よりちょっと低い。顔立ちも幼くて、こっちの世界でだとファチクスという動物に似ている。日本風に言うとウサギとかリスとか、そういう小動物だ。

「ジルフィス、説明!」
「事務局でリューセントのとこの隊員が案内してたんだよ。入室帳にもあいつの名前が書かれてたし、面白そうだったから連れてきた」
「ほんっとに、あなたって人は。――お茶を用意するから、とりあえず座って。大丈夫、リューセントはちゃんと迎えに来てくれるから、心配しなくていいからね?」

 部屋に備え付けられた応接ソファーを勧めてくれて、ついでに頭をなでなでしてくれたけど……この人たち、俺のことをいくつだと思っているんだろう。
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