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勃起不全?!
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そして王都に来て二日目の昼過ぎ。
俺は豪邸の前で途方に暮れていた。
「どうしたんだい? 私の一人暮らしだから、何も気にすることはないよ?」
その豪邸の持ち主はなんてことないように隣で笑っているけど、田舎者に無茶を言わないで欲しい。
うちの村の村長屋敷よりも広く、高く、豪華なそれは、なるほど確かに周りの住宅と比べたら小ぶりだろう。というかこの家の周りが凄すぎる。なんであんなに庭が広いの。そこ、うちの畑よりも広いのに植わってるのは芝生とかもったいなさ過ぎる。門も立派だし、生け垣だって綺麗に刈ってあって隙がない。
キョロキョロと見渡して王都のすごさ――いや貴族のすごさかもしれない――にめまいを感じていると、俺の様子に痺れを切らしたのかリューセントさんがドアについてるノッカーを叩いた。
「ん?」
一人暮らしのはずなのに、なぜ? と見ていると家の内側からドアが開いた。そこから顔を出したのはビシッと黒服を着こなした老紳士……。
「おかえりなさいませ、リューセントさま」
「あぁ、ただいま。昨夜は急な外泊で悪かったね」
「たまにはよいことですよ。こちらにご連絡をいただいていますし、お気になさらず。 ……おや? そちらは」
老紳士が俺を見て首を傾げたのを見て、思い切り頭を下げた。いやだってこんな田舎者丸出しが、ジェントルマンなおじいさんを不躾に見るなんて出来ないだろう。内心あわあわとしていると、そんな俺の肩に手が置かれた。
「ルクウスト、こちらはアシャン。私の運命だ」
「は!?」
突飛な紹介に思わず顔を上げて叫んだ。
運命――この世界、ぶっちゃけて言えば性別問わずにフリーセックス推奨なんだけど、その中で自分にとって特別な相手を〝運命〟と呼ぶ。将来の結婚相手だとか、生涯を共にする相手だとか、まぁそういう意味になる。なるからこそ、俺の口からは「は !?」なんて声が出た。
いやだって、昨日出会ったばかりでセックスはしたけどそれだけ……だよ?
「これはこれは……アシャンさま、ルクウストと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「いや、ちょっと待ってください。え? 運命?」
「あぁそうだよ。一目ぼれ……端的に言ってしまうと、きみ相手でしか私は勃起しない」
「はぁあああ!?」
驚く俺を置いてけぼりにして、それを聞いたルクウストさんは「それはそれは」と喜色満面。ついでに、皺の刻まれた目尻にあふれ出た涙をそっとハンカチで拭っている。
自分の主人の勃起事情とか普通は聞きたくないと思うけど、従者だからこそ知っているのかもしれない。そしてこのフリーセックス異世界では、勃起不全は前世の日本よりも 辛い問題なのかもしれない。
「それに――ルクウスト、アシャンはあの子にそっくりじゃないか?」
「えぇ確かに。驚きましたが、大変に可愛らしい方でございますね」
「だろう?」
勃起したから運命の相手って、とっても嫌なシンデレラストーリーだと思う。
思わず遠い目で現実逃避をしてしまったけど、その間に肩を抱かれて外装に見合った内装のロビーに通された。
天井が高い。何十本も蝋燭を立ててクリスタルを並べたような豪華なシャンデリアはないけれど、両サイドの壁には等間隔で蝋燭が並んでいる。これ全部に火を点したら深夜でも歩くのに困らないだろう。
壁の色は灰色がかった青。床はたぶん大理石……だと思う。うちの床も石だったけど、それは河原の石を並べたような土間だったから規模が違う。村長の家だってこんな風に切り出した石を並べてなかったし。
壁には絵画が掛かっていて、どこだかはわからない山と湖が描かれている。俺には芸術はわからないけど、透明感のある青が素敵な絵だった。
それら全てを背景に背負っても負けていないリューセントさん。俺とは世界が違い過ぎる。
「は! 逃げるの忘れた!!」
「アシャン……逃げるの?」
ぽろりとこぼれた言葉を聞いて、俺の肩を抱いている手に力を込めないでください。痛い。
半泣きで見上げると「逃げないよね?」と念を押されたので、無言で頷いておいた。逃げようにも土地勘はないし、仕事を探すところからスタートだし、手持ちのお金は心もとないし……だから宿を出る時に「うちに来るかい?」と聞かれてうっかり「是」と答えてしまったんだ。
それで連れてこられたのがこれ。家名持ちの貴族とはいえ三男坊だから気にしないでと言われたのに、その基準が俺の基準と違い過ぎる。
「あぁ、アシャンの部屋は私の部屋の隣にしてくれ。確か続き間になっていたよね?」
「いや! あの、本当に! お気になさらず!!」
「そうだ。今度の長期休みには私の実家に行こうね。アシャンのご実家にはいつご挨拶に行こうかな」
にこにこと決めていくリューセントさんを止める手立てが見つからない。ルクウストさんも止めないし、ここには俺の味方がいない。どうしようかとグルグル考えていると、玄関に繋がる廊下からパンッパンッと大きな音が響いた。
「?」
「ほらほら、そんなところで大事な話をしてないで! 旦那様もお帰りになられたんなら皆に声を掛けてくださいな。じゃないと次の仕事が出来ません!」
「あぁ、そうだな。確かに。――ありがとう、エイラ」
どういたしましてっと胸を張るのは、ちょっとこう……えーっと……年齢はうちの母さんくらいだけど、横幅が違い過ぎると言ったら失礼だろうか。日本でいう肝っ玉母さんっぽい女の人だった。
俺は豪邸の前で途方に暮れていた。
「どうしたんだい? 私の一人暮らしだから、何も気にすることはないよ?」
その豪邸の持ち主はなんてことないように隣で笑っているけど、田舎者に無茶を言わないで欲しい。
うちの村の村長屋敷よりも広く、高く、豪華なそれは、なるほど確かに周りの住宅と比べたら小ぶりだろう。というかこの家の周りが凄すぎる。なんであんなに庭が広いの。そこ、うちの畑よりも広いのに植わってるのは芝生とかもったいなさ過ぎる。門も立派だし、生け垣だって綺麗に刈ってあって隙がない。
キョロキョロと見渡して王都のすごさ――いや貴族のすごさかもしれない――にめまいを感じていると、俺の様子に痺れを切らしたのかリューセントさんがドアについてるノッカーを叩いた。
「ん?」
一人暮らしのはずなのに、なぜ? と見ていると家の内側からドアが開いた。そこから顔を出したのはビシッと黒服を着こなした老紳士……。
「おかえりなさいませ、リューセントさま」
「あぁ、ただいま。昨夜は急な外泊で悪かったね」
「たまにはよいことですよ。こちらにご連絡をいただいていますし、お気になさらず。 ……おや? そちらは」
老紳士が俺を見て首を傾げたのを見て、思い切り頭を下げた。いやだってこんな田舎者丸出しが、ジェントルマンなおじいさんを不躾に見るなんて出来ないだろう。内心あわあわとしていると、そんな俺の肩に手が置かれた。
「ルクウスト、こちらはアシャン。私の運命だ」
「は!?」
突飛な紹介に思わず顔を上げて叫んだ。
運命――この世界、ぶっちゃけて言えば性別問わずにフリーセックス推奨なんだけど、その中で自分にとって特別な相手を〝運命〟と呼ぶ。将来の結婚相手だとか、生涯を共にする相手だとか、まぁそういう意味になる。なるからこそ、俺の口からは「は !?」なんて声が出た。
いやだって、昨日出会ったばかりでセックスはしたけどそれだけ……だよ?
「これはこれは……アシャンさま、ルクウストと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「いや、ちょっと待ってください。え? 運命?」
「あぁそうだよ。一目ぼれ……端的に言ってしまうと、きみ相手でしか私は勃起しない」
「はぁあああ!?」
驚く俺を置いてけぼりにして、それを聞いたルクウストさんは「それはそれは」と喜色満面。ついでに、皺の刻まれた目尻にあふれ出た涙をそっとハンカチで拭っている。
自分の主人の勃起事情とか普通は聞きたくないと思うけど、従者だからこそ知っているのかもしれない。そしてこのフリーセックス異世界では、勃起不全は前世の日本よりも 辛い問題なのかもしれない。
「それに――ルクウスト、アシャンはあの子にそっくりじゃないか?」
「えぇ確かに。驚きましたが、大変に可愛らしい方でございますね」
「だろう?」
勃起したから運命の相手って、とっても嫌なシンデレラストーリーだと思う。
思わず遠い目で現実逃避をしてしまったけど、その間に肩を抱かれて外装に見合った内装のロビーに通された。
天井が高い。何十本も蝋燭を立ててクリスタルを並べたような豪華なシャンデリアはないけれど、両サイドの壁には等間隔で蝋燭が並んでいる。これ全部に火を点したら深夜でも歩くのに困らないだろう。
壁の色は灰色がかった青。床はたぶん大理石……だと思う。うちの床も石だったけど、それは河原の石を並べたような土間だったから規模が違う。村長の家だってこんな風に切り出した石を並べてなかったし。
壁には絵画が掛かっていて、どこだかはわからない山と湖が描かれている。俺には芸術はわからないけど、透明感のある青が素敵な絵だった。
それら全てを背景に背負っても負けていないリューセントさん。俺とは世界が違い過ぎる。
「は! 逃げるの忘れた!!」
「アシャン……逃げるの?」
ぽろりとこぼれた言葉を聞いて、俺の肩を抱いている手に力を込めないでください。痛い。
半泣きで見上げると「逃げないよね?」と念を押されたので、無言で頷いておいた。逃げようにも土地勘はないし、仕事を探すところからスタートだし、手持ちのお金は心もとないし……だから宿を出る時に「うちに来るかい?」と聞かれてうっかり「是」と答えてしまったんだ。
それで連れてこられたのがこれ。家名持ちの貴族とはいえ三男坊だから気にしないでと言われたのに、その基準が俺の基準と違い過ぎる。
「あぁ、アシャンの部屋は私の部屋の隣にしてくれ。確か続き間になっていたよね?」
「いや! あの、本当に! お気になさらず!!」
「そうだ。今度の長期休みには私の実家に行こうね。アシャンのご実家にはいつご挨拶に行こうかな」
にこにこと決めていくリューセントさんを止める手立てが見つからない。ルクウストさんも止めないし、ここには俺の味方がいない。どうしようかとグルグル考えていると、玄関に繋がる廊下からパンッパンッと大きな音が響いた。
「?」
「ほらほら、そんなところで大事な話をしてないで! 旦那様もお帰りになられたんなら皆に声を掛けてくださいな。じゃないと次の仕事が出来ません!」
「あぁ、そうだな。確かに。――ありがとう、エイラ」
どういたしましてっと胸を張るのは、ちょっとこう……えーっと……年齢はうちの母さんくらいだけど、横幅が違い過ぎると言ったら失礼だろうか。日本でいう肝っ玉母さんっぽい女の人だった。
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