一夜の過ち……え? 違う?

宮野愛理

文字の大きさ
上 下
3 / 28

勃起不全?!

しおりを挟む
 そして王都に来て二日目の昼過ぎ。
 俺は豪邸の前で途方に暮れていた。

「どうしたんだい? 私の一人暮らしだから、何も気にすることはないよ?」

 その豪邸の持ち主はなんてことないように隣で笑っているけど、田舎者に無茶を言わないで欲しい。
 うちの村の村長屋敷よりも広く、高く、豪華なそれは、なるほど確かに周りの住宅と比べたら小ぶりだろう。というかこの家の周りが凄すぎる。なんであんなに庭が広いの。そこ、うちの畑よりも広いのに植わってるのは芝生とかもったいなさ過ぎる。門も立派だし、生け垣だって綺麗に刈ってあって隙がない。
 キョロキョロと見渡して王都のすごさ――いや貴族のすごさかもしれない――にめまいを感じていると、俺の様子に痺れを切らしたのかリューセントさんがドアについてるノッカーを叩いた。

「ん?」

 一人暮らしのはずなのに、なぜ? と見ていると家の内側からドアが開いた。そこから顔を出したのはビシッと黒服を着こなした老紳士……。

「おかえりなさいませ、リューセントさま」
「あぁ、ただいま。昨夜は急な外泊で悪かったね」
「たまにはよいことですよ。こちらにご連絡をいただいていますし、お気になさらず。 ……おや? そちらは」

 老紳士が俺を見て首を傾げたのを見て、思い切り頭を下げた。いやだってこんな田舎者丸出しが、ジェントルマンなおじいさんを不躾に見るなんて出来ないだろう。内心あわあわとしていると、そんな俺の肩に手が置かれた。

「ルクウスト、こちらはアシャン。私の運命だ」
「は!?」

 突飛な紹介に思わず顔を上げて叫んだ。
 運命――この世界、ぶっちゃけて言えば性別問わずにフリーセックス推奨なんだけど、その中で自分にとって特別な相手を〝運命〟と呼ぶ。将来の結婚相手だとか、生涯を共にする相手だとか、まぁそういう意味になる。なるからこそ、俺の口からは「は !?」なんて声が出た。
 いやだって、昨日出会ったばかりでセックスはしたけどそれだけ……だよ?

「これはこれは……アシャンさま、ルクウストと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「いや、ちょっと待ってください。え? 運命?」
「あぁそうだよ。一目ぼれ……端的に言ってしまうと、きみ相手でしか私は勃起しない」
「はぁあああ!?」

 驚く俺を置いてけぼりにして、それを聞いたルクウストさんは「それはそれは」と喜色満面。ついでに、皺の刻まれた目尻にあふれ出た涙をそっとハンカチで拭っている。
 自分の主人の勃起事情とか普通は聞きたくないと思うけど、従者だからこそ知っているのかもしれない。そしてこのフリーセックス異世界では、勃起不全は前世の日本よりも つらい問題なのかもしれない。

「それに――ルクウスト、アシャンはあの子にそっくりじゃないか?」
「えぇ確かに。驚きましたが、大変に可愛らしい方でございますね」
「だろう?」

 勃起したから運命の相手って、とっても嫌なシンデレラストーリーだと思う。
 思わず遠い目で現実逃避をしてしまったけど、その間に肩を抱かれて外装に見合った内装のロビーに通された。
 天井が高い。何十本も蝋燭を立ててクリスタルを並べたような豪華なシャンデリアはないけれど、両サイドの壁には等間隔で蝋燭が並んでいる。これ全部に火を点したら深夜でも歩くのに困らないだろう。
 壁の色は灰色がかった青。床はたぶん大理石……だと思う。うちの床も石だったけど、それは河原の石を並べたような土間だったから規模が違う。村長の家だってこんな風に切り出した石を並べてなかったし。
 壁には絵画が掛かっていて、どこだかはわからない山と湖が描かれている。俺には芸術はわからないけど、透明感のある青が素敵な絵だった。
 それら全てを背景に背負っても負けていないリューセントさん。俺とは世界が違い過ぎる。

「は! 逃げるの忘れた!!」
「アシャン……逃げるの?」

 ぽろりとこぼれた言葉を聞いて、俺の肩を抱いている手に力を込めないでください。痛い。
 半泣きで見上げると「逃げないよね?」と念を押されたので、無言で頷いておいた。逃げようにも土地勘はないし、仕事を探すところからスタートだし、手持ちのお金は心もとないし……だから宿を出る時に「うちに来るかい?」と聞かれてうっかり「是」と答えてしまったんだ。
 それで連れてこられたのがこれ。家名持ちの貴族とはいえ三男坊だから気にしないでと言われたのに、その基準が俺の基準田舎と違い過ぎる。

「あぁ、アシャンの部屋は私の部屋の隣にしてくれ。確か続き間になっていたよね?」
「いや! あの、本当に! お気になさらず!!」
「そうだ。今度の長期休みには私の実家に行こうね。アシャンのご実家にはいつご挨拶に行こうかな」

 にこにこと決めていくリューセントさんを止める手立てが見つからない。ルクウストさんも止めないし、ここには俺の味方がいない。どうしようかとグルグル考えていると、玄関に繋がる廊下からパンッパンッと大きな音が響いた。

「?」
「ほらほら、そんなところで大事な話をしてないで! 旦那様もお帰りになられたんなら皆に声を掛けてくださいな。じゃないと次の仕事が出来ません!」
「あぁ、そうだな。確かに。――ありがとう、エイラ」

 どういたしましてっと胸を張るのは、ちょっとこう……えーっと……年齢はうちの母さんくらいだけど、横幅が違い過ぎると言ったら失礼だろうか。日本でいう肝っ玉母さんっぽい女の人だった。
しおりを挟む
――匿名での感想や絵文字も受付中です――
wavebox
感想 0

あなたにおすすめの小説

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。 落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。 異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。 そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──

ちょっとおかしい幼馴染

すずかけあおい
BL
タイトル通りですが、ちょっとおかしい幼馴染攻めを書きたかったのと、攻めに受けを「ちゃん」付けで呼んで欲しくて書いた話です。 攻めが受け大好きで、受けも攻めが好きです。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】オーロラ魔法士と第3王子

N2O
BL
全16話 ※2022.2.18 完結しました。ありがとうございました。 ※2023.11.18 文章を整えました。 辺境伯爵家次男のリーシュ・ギデオン(16)が、突然第3王子のラファド・ミファエル(18)の専属魔法士に任命された。 「なんで、僕?」 一人狼第3王子×黒髪美人魔法士 設定はふんわりです。 小説を書くのは初めてなので、何卒ご容赦ください。 嫌な人が出てこない、ふわふわハッピーエンドを書きたくて始めました。 感想聞かせていただけると大変嬉しいです。 表紙絵 ⇨ キラクニ 様 X(@kirakunibl)

処理中です...