50 / 57
オタクの知識もチート能力?
しおりを挟む
ある国に、世界を守る巫女がいました。
彼女には祈りの場で出会った番がいました。
彼は隣国の王でした。
国も、守る物も、全てが違っていてもお互いを尊重し合い、愛し合う二人でした。
しかし二人が年頃となった頃、巫女の国は隣国と仲違いをしてしまいます。
番の王は回避させるよう尽力しましたが、一度起きてしまった戦の炎は消せません。
そしてどんどんと大きくなってしまいます。
「私はこの戦を止めなければなりません」
番は言いました。
「代わりにこれを受け取ってください。別れの挨拶ではありません。いつか、貴方の元へ帰るための約束です」
彼女への愛の証として、身につけていたペンダントを渡します。
「世界のため、私は祈らなければなりません。しかし貴方のためにも、私は祈りましょう。会えることを信じています」
巫女は世界への祈りのため、戦火から逃れることが決定していました。
「愛しい貴方、いつかまた会うために」
「愛しい貴方、今は暫しのお別れです」
戦は数年にも及びました。
最初は二国だけの物でしたが、世界の半数を飲み込む勢いで燃えています。
その中で、番の国は滅びました。
巫女の国も滅びました。
ようやく戦が収まった時には世界の半分が消えてなくなりました。
「消えた世界のためにも祈りましょう」
戦で消えた命のために。
戦で消えた世界のために。
新たに生まれる命のために。
「私の貴方。いつかの約束が果たされずとも……」
巫女は祈り続けます。
番への愛と共に、世界のために祈ります。
そしてまた数年が経った時、消えた世界は戻りました。
「世界は戻っても貴方は戻りませんでした。それでも貴方が勇敢に戦ったことを知っています。愛しい貴方、来世でお会い出来ますように」
巫女の最後の祈りが世界に届いた時、奇跡が起きます。
いついつまでも祈り続けた彼女のための奇跡です。
「私を置いて逝かないでください。私の貴方」
ひときわ目映くペンダントが光った後、巫女の前には番がいました。
そして二人はいつまでも幸せに暮らしました。
(めでたしめでたし――、と)
まぁこれ、子供向けのほうなんだけどね。だって尻尾を切るってグロいじゃん。あ、最後は投げっぱなしですけど大人向けはもうちょっと続きます。うん、大人向けなアレコレですね。あともっと長いし、ちゃんと? 尻尾を切って渡してます。これは概要的なやつなので……お前の頭じゃ考えつかなかったんだろとか言っちゃ駄目だよ。大丈夫、これを元にしてなんだか壮大なお話になってたから! 主にダミアンさんのお陰で!!
(結構売れ行きも良いね~……なんて、暢気に思っていたこともありましたね)
子供向けはオマケとしてペンダントを付けたんです。日本で言うところの〝特装版〟かな? 子供ってそういうオマケ好きじゃん。むしろオマケが本体じゃん。ってことで、小さなペンダントを付けたら……まさかの大人がハマった。っていうか、日本と違ってオマケがオマケにならなかったんだよね。プラスチックなんてないから、金細工になったのも悪かった。ついでに「射幸性を高めるために色違いとかランダムに入れちゃお」なんてしたのも悪かった。
バカ売れしました。
バカ売れし過ぎて、スリダニアからも「うちの話も書いて欲しい」なんて依頼が来たしね。スリダニアの王子様とカリュアースのお姫様をモチーフにしたお話……書いたよ。書いたさ! 大人向けは無しで、最初から子供向けっていうか児童書くらいを目指して書いたよ!! 流石に他国のお二人をモチーフにしてエッチなのは書けませんでした。それはちょっとねぇ……兄貴とカーライルさんってのも個人的にはキツいけど、他国の王族は違った意味でヤバい。
あ、ビラで配ったやつよりも詳細に書いた神話の本も出しました。どうもスリダニアで兄貴が祈った時に落ちた光の場所が、元々は祈りの場所だったみたいなんだよね。祭壇にするか教会にするかはこれから決まるらしいけど、売り上げの一部はその整備にも使われるって。
「ま、これで少しは向こうも落ち着くだろ」
『だと良いねぇ』
祈りが足りなくて干ばつとかが起きてたんだから、今後に期待かな。カリュアースでも神話への見直しはされるみたいで、もっとしっかり祈ろうなんて動きも出てるらしい。良かった良かった。
(良かったと言えば、やっぱりカーライルさんの意識が変わったのが大きかったかな)
ここまで大きな流れになったからね。「逃げ出しようがなかった」なんて言ってたけど、最初から逃げようとすんなって話。ついでに兵士さんの一部で尻尾を切るのが流行っちゃったのは、良かったんだか悪かったんだか……お陰でカーライルさんへ反発してたような勢力が黙ったのは良かったけど。やっぱり兄貴を刺したこと、尾を切り取るなんて非道をしたことは大きなマイナスだったんだよね。兄貴が許していても許せませんって言う層はいた。
(だからって拳で語り合うとは思わなかった……)
セルトさんに「カーライルさんをボコボコにして」とは言いました。それで、確かにボコボコ……っていうかちょっと激しめな訓練になったところまでは理解出来る。そこに兵士の人たちが飛び入り参加して、その流れで反対派も参加して、最終的に「こんだけ強ければやはりレオルカ様を任せても良い」なんて言って和解するとは思わなかった。脳筋だ。脳筋がいる。
帰ってきたティグレさんが一番大暴れしたらしいけどね。スリダニアでは無傷だったのにオーベルシュハルトでボロボロになったから、シーラさんが怒って自分の家なのに入れなかったなんて笑い話も聞きました。
(いろんなこと全部、笑い話になると良いなぁ)
なんて、俺としては思う訳です。全世界の人間や獣人が幸せに……みたいな大それたことは考えられないけど、俺や周りの見える範囲は楽しく健康に過ごして欲しい。うん。
「ケント、どうかしたか? 最近ずっと忙しくしていたのはわかるが、今日くらいは何も考えずに楽しもう」
『ようやくですもんねぇ……』
「そうだな」
彼女には祈りの場で出会った番がいました。
彼は隣国の王でした。
国も、守る物も、全てが違っていてもお互いを尊重し合い、愛し合う二人でした。
しかし二人が年頃となった頃、巫女の国は隣国と仲違いをしてしまいます。
番の王は回避させるよう尽力しましたが、一度起きてしまった戦の炎は消せません。
そしてどんどんと大きくなってしまいます。
「私はこの戦を止めなければなりません」
番は言いました。
「代わりにこれを受け取ってください。別れの挨拶ではありません。いつか、貴方の元へ帰るための約束です」
彼女への愛の証として、身につけていたペンダントを渡します。
「世界のため、私は祈らなければなりません。しかし貴方のためにも、私は祈りましょう。会えることを信じています」
巫女は世界への祈りのため、戦火から逃れることが決定していました。
「愛しい貴方、いつかまた会うために」
「愛しい貴方、今は暫しのお別れです」
戦は数年にも及びました。
最初は二国だけの物でしたが、世界の半数を飲み込む勢いで燃えています。
その中で、番の国は滅びました。
巫女の国も滅びました。
ようやく戦が収まった時には世界の半分が消えてなくなりました。
「消えた世界のためにも祈りましょう」
戦で消えた命のために。
戦で消えた世界のために。
新たに生まれる命のために。
「私の貴方。いつかの約束が果たされずとも……」
巫女は祈り続けます。
番への愛と共に、世界のために祈ります。
そしてまた数年が経った時、消えた世界は戻りました。
「世界は戻っても貴方は戻りませんでした。それでも貴方が勇敢に戦ったことを知っています。愛しい貴方、来世でお会い出来ますように」
巫女の最後の祈りが世界に届いた時、奇跡が起きます。
いついつまでも祈り続けた彼女のための奇跡です。
「私を置いて逝かないでください。私の貴方」
ひときわ目映くペンダントが光った後、巫女の前には番がいました。
そして二人はいつまでも幸せに暮らしました。
(めでたしめでたし――、と)
まぁこれ、子供向けのほうなんだけどね。だって尻尾を切るってグロいじゃん。あ、最後は投げっぱなしですけど大人向けはもうちょっと続きます。うん、大人向けなアレコレですね。あともっと長いし、ちゃんと? 尻尾を切って渡してます。これは概要的なやつなので……お前の頭じゃ考えつかなかったんだろとか言っちゃ駄目だよ。大丈夫、これを元にしてなんだか壮大なお話になってたから! 主にダミアンさんのお陰で!!
(結構売れ行きも良いね~……なんて、暢気に思っていたこともありましたね)
子供向けはオマケとしてペンダントを付けたんです。日本で言うところの〝特装版〟かな? 子供ってそういうオマケ好きじゃん。むしろオマケが本体じゃん。ってことで、小さなペンダントを付けたら……まさかの大人がハマった。っていうか、日本と違ってオマケがオマケにならなかったんだよね。プラスチックなんてないから、金細工になったのも悪かった。ついでに「射幸性を高めるために色違いとかランダムに入れちゃお」なんてしたのも悪かった。
バカ売れしました。
バカ売れし過ぎて、スリダニアからも「うちの話も書いて欲しい」なんて依頼が来たしね。スリダニアの王子様とカリュアースのお姫様をモチーフにしたお話……書いたよ。書いたさ! 大人向けは無しで、最初から子供向けっていうか児童書くらいを目指して書いたよ!! 流石に他国のお二人をモチーフにしてエッチなのは書けませんでした。それはちょっとねぇ……兄貴とカーライルさんってのも個人的にはキツいけど、他国の王族は違った意味でヤバい。
あ、ビラで配ったやつよりも詳細に書いた神話の本も出しました。どうもスリダニアで兄貴が祈った時に落ちた光の場所が、元々は祈りの場所だったみたいなんだよね。祭壇にするか教会にするかはこれから決まるらしいけど、売り上げの一部はその整備にも使われるって。
「ま、これで少しは向こうも落ち着くだろ」
『だと良いねぇ』
祈りが足りなくて干ばつとかが起きてたんだから、今後に期待かな。カリュアースでも神話への見直しはされるみたいで、もっとしっかり祈ろうなんて動きも出てるらしい。良かった良かった。
(良かったと言えば、やっぱりカーライルさんの意識が変わったのが大きかったかな)
ここまで大きな流れになったからね。「逃げ出しようがなかった」なんて言ってたけど、最初から逃げようとすんなって話。ついでに兵士さんの一部で尻尾を切るのが流行っちゃったのは、良かったんだか悪かったんだか……お陰でカーライルさんへ反発してたような勢力が黙ったのは良かったけど。やっぱり兄貴を刺したこと、尾を切り取るなんて非道をしたことは大きなマイナスだったんだよね。兄貴が許していても許せませんって言う層はいた。
(だからって拳で語り合うとは思わなかった……)
セルトさんに「カーライルさんをボコボコにして」とは言いました。それで、確かにボコボコ……っていうかちょっと激しめな訓練になったところまでは理解出来る。そこに兵士の人たちが飛び入り参加して、その流れで反対派も参加して、最終的に「こんだけ強ければやはりレオルカ様を任せても良い」なんて言って和解するとは思わなかった。脳筋だ。脳筋がいる。
帰ってきたティグレさんが一番大暴れしたらしいけどね。スリダニアでは無傷だったのにオーベルシュハルトでボロボロになったから、シーラさんが怒って自分の家なのに入れなかったなんて笑い話も聞きました。
(いろんなこと全部、笑い話になると良いなぁ)
なんて、俺としては思う訳です。全世界の人間や獣人が幸せに……みたいな大それたことは考えられないけど、俺や周りの見える範囲は楽しく健康に過ごして欲しい。うん。
「ケント、どうかしたか? 最近ずっと忙しくしていたのはわかるが、今日くらいは何も考えずに楽しもう」
『ようやくですもんねぇ……』
「そうだな」
12
お気に入りに追加
660
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

【完結】元騎士は相棒の元剣闘士となんでも屋さん営業中
きよひ
BL
ここはドラゴンや魔獣が住み、冒険者や魔術師が職業として存在する世界。
カズユキはある国のある領のある街で「なんでも屋」を営んでいた。
家庭教師に家業の手伝い、貴族の護衛に魔獣退治もなんでもござれ。
そんなある日、相棒のコウが気絶したオッドアイの少年、ミナトを連れて帰ってくる。
この話は、お互い想い合いながらも10年間硬直状態だったふたりが、純真な少年との関わりや事件によって動き出す物語。
※コウ(黒髪長髪/褐色肌/青目/超高身長/無口美形)×カズユキ(金髪短髪/色白/赤目/高身長/美形)←ミナト(赤髪ベリーショート/金と黒のオッドアイ/細身で元気な15歳)
※受けのカズユキは性に奔放な設定のため、攻めのコウ以外との体の関係を仄めかす表現があります。
※同性婚が認められている世界観です。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる