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ヤーミルくん早い

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(とは言ったけどぉおおおお……!!)

 マジの爆速でした。
 後ろにセルトさんがいてくれて良かった! レティアちゃんに乗っていた時みたいにマントですっぽり覆われて、背後からもがっしり掴まれて、ちょっと前傾姿勢です。これ、セルトさんは競馬のジョッキー乗りしてるんじゃない? 大丈夫??

 そんな風にセルトさんの下半身を心配しつつ、遠い目的地を目指して……いやほんとに遠いね。地図で見ていた時には気付かなかったこの世界の広さ。トゥリスなんて一瞬で過ぎてたもん。出発した時間が遅かったから、結構早い段階で休憩も挟んだけどね。完全に暗くなる前に一度地面に降りて、フラフラする足腰に笑いつつおトイレとかも済ませてまた飛んで。どっかで兄貴たちと合流出来るかなって思ってたけど、流石にそれはなかった。あ、カリュアースに待機となっていた飛竜は遠目で見えたよ。だから多分、兄貴たちは……

『この下、だろうねぇ』

 なんとか間に合った決起集会だけど、広場で王様が熱弁を奮ってるところに飛来しちゃったみたい。めっちゃ騒いでるんだけど、近付こうとすると矢を射かけられる。とりあえず兄貴たちはまだ見えない。それだけ確認して、一旦矢の届かない範囲へと離れた。

「ケント、矢は俺とヤーミルが避ける。紙は持てるか?」
『なんとか!』
「近付いて、離れて、と繰り返すので近付いた時に撒いてくれ。声は掛ける」

 千五百枚もあるから結構重い。でも落とさないようにお腹に抱えて、言われた通りに体勢を低くする。はっきり言って近付くイコール急発進に急加速だから踏ん張らないと落ちそう。一気に撒いたら集まってる人の一部にしか届かないし、枚数も少なめにして何度も近付きながら色んな方向に撒いたよ。そのたびに飛竜への驚きとかじゃない、違うどよめきが起き始める。

『何か言ってますね』
「降りてこいとか、そんなものだろう」

 王様のところにもね、ビラが落ちていったみたい。うーん。もっと近づければ何を言ってるのか聞こえると思うんだけどね。相変わらず矢が飛んでくるからこれ以上近づけないんだ。でもあんまり飛ばすと、自軍に当たって自滅するよ?

「合図があった。もう少ししたら動きがある。それまでこちらを意識させるぞ」

 俺は気付かなかったけど、地上のほうから〝そのまま引きつけろ〟って指示が出たんだって。セルトさん、よく気付いたね。「あのあたりだ」って指さしてもらってもわかりません。
 指示通りに近付いて離れてってしながら挑発してたら、ようやく兄貴たちの動きが見えた。騒ぐ王様を取り押さえて、被っていたフードを取ってババーンっと……したのかな? 上からだと本当に声が聞こえないから想像でしか出来ないけど、多分「控えおろう」ってした? あ、赤い髪の人が騒ぎ続けてる王様をぶん殴った。もちろん、王様の味方をしてくれそうな人は全員取り押さえてるから助けは来ない。

「カーライルだ。やはりこちらにいたな」
『あ、やっぱりそうなんだ』

 強制的に召集された人たちが「わっ」と歓声を上げたのはここからでも聞こえた。気になるけど、まだセルトさんが降りる動きをしないからもうちょっと見てなきゃ。気になるけど。

[歌ウ]
『ん? 歌うって兄貴が?』

 ジュードさんとセルトさんの予想が的中。多分、ビラの内容を見たんだろうなぁ……まだまだ騒いでいた人たちだけど、兄貴がスッと手を挙げると徐々に静かになる。その後に聞こえ始めたのは旋律だった。え、すごい。こんなに離れているのに聞こえる。

(やばい……)

 なんかね、意味がありそうでなさそうっていうか……歌の意味を考えようとすると途端に割れるように頭が痛くなる。断片的にわかるのは、〝謝罪〟〝祈り〟〝復活〟〝破壊〟? なんか不穏な単語が混じってるのはなんなんだろ。耳を押さえてもゴチャゴチャと入ってくるから、何も考えないように意識しながら後ろのセルトさんに寄りかかった。

「どうした?」
『なんか……イヤーカフしたまんまだからか、情報量が多くて頭が痛くなってきました』

 そういえばこのイヤーカフ、鳥の鳴き声も変換する高性能だった。あ、外したらちょっと楽。前の時も「外しとけ」って言ってたのは、こういうことだったのかな。エッチの後遺症? でセルトさんとは会話出来るんだから外しておけば良かった。

[クククェッケ]
[クケッ、ケッ、クゥ~エ]

 カリュアースで待機してた飛竜たちまで現れて、歌に合わせての大合唱。何言ってるのか全然わかんないけど、これ聞いてたら気絶してたかも。前の時のように虹が出て(でも今回は小さいのが一つだけ)、光が落ちてきた。なぜか見える範囲に複数。兄貴のところが一番大きかったけどこれは前とは違うね。なんだろ。後で兄貴に聞かないと……

 大合唱と光の洪水が収まって、ようやく俺たちは広場に降りることが出来た。
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