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見つけた糸口
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俺からやりたい、続けたいって言った勉強だけど、やっぱり身が入っていないと言われてその後はお休みになってしまった。一応、自習って感じ。ささっと簡単に書き写してもらった地図(兄貴たちのルートも書いてくれた)と、創世神話の子供向け絵本を貸してくれた。文字も覚えなさいってことだね。子供向けと言いつつイラストは写実的で、装丁も立派。それもそのはず、この王家に古くから伝わっている絵本……そんな大事な物を貸さないでください。
(でも城下で売られてるのもこういうテイストらしいんだよね)
装丁はもっと簡素で糸綴じも丸見えだけど、イラストとかはそのまま。ちょっと豪華になると表紙がついて糸綴じも隠れてたり……識字率は悪くないのに、製本に関しては「読めれば良いじゃん」らしい。いや、そうなんだけどさ。表紙があったほうが長く保つよ?
(んー……)
俺もそんなに絵が上手い訳じゃないけど、向こうで見ていた絵本のイメージがあるからちょっと違和感。いや〝もったいない〟って気持ちかな。もっと可愛らしい絵柄なら、子供も読みやすいんじゃないかなぁ……と、思って久しぶりにバッグを引っ張り出してきた。
(じゃじゃーん! 懐かしの、ネタ帳とペン!)
こっちの文字はうにょんうにょんしてて書くのが大変なのでスルーして、それっぽい流れだけを絵におこしてみよう。無はどうしよう、やっぱり真っ黒に塗り潰して……次は風で……音、音は音符? こっちの音符って形が分からないから向こうので良いか。
ふんふーんと鼻歌交じりに、お行儀悪いけどベッドにゴロゴロしながら落書きを楽しむ。
「何をしてるんだ?」
『あきゃーーーーもがっ?!』
「ふ、くく……ケント、あの時と同じ反応だな」
楽しみ過ぎた。いつの間にか部屋に入っていたセルトさんに声を掛けられて、図らずもトゥリスの宿屋と同じやり取りになっていた。セルトさんに笑われて、俺もあの時を思い出して自然と笑ってしまう。
『んふふ……セルトさん、お疲れ様です』
「随分と集中していたけど何を……あぁ、創世神話か?」
『はい、そう……あ、ん……ちゅ、ん、ん、ふぁ』
部屋に二人きりだから、合図の前に問答無用でチューされちゃった。寝っ転がってるから襲われてるみたい。俺の顔の両脇にセルトさんの腕が置かれて、上から覆い被さられて念入りにキスされてる。そっか、これももう終わりなんだな……と思うとなんだか胸がギュッとなって、自分からもセルトさんの首に腕を回して舌を差し入れた。
『んふ……ふぁ、あ……』
番とか、未だによくわからないけど……キスでこんなに気持ちよくなれるのって、多分セルトさんが最初で最後。そんな気がする。
ちゅっと音を立てながら唇が離れていくと、その間にヨダレの糸が……会話するだけなのに念入りにしすぎたかも。その糸を親指で押さえるようにしてぬぐってくれたセルトさんはやばい。イケメン。
「……よく書けている。この記号はなんだ?」
『これは音です。向こうではこういう音符って記号を使って音階を書いているんです』
「へぇ。こちらでは……こういう記号だな」
ノートの端に書いてくれた記号はすぐに書けそうな形だったので、音符を消してその記号を書いてみた。全体を確認したら「合ってる」と言ってもらえたから大きな解釈違いはなさそう。デフォルメしたオーヘル神とエールピオス神も、変じゃないって。
「すごいな。これだと子供が喜びそうだ」
『本当ですか? 良かった。ここの絵本を貸してもらったんですけど、ちょっと格式が高くて……』
「俺たちはこれで慣れているが、こういった絵だと更に親しみやすいかもしれない」
『おぉ!』
(ん? これって、もしかするともしかする……かも??)
もちろん、セルトさんだけじゃなくてジュードさんやダミアンさんにも確認が必要だけど、これを良い感じに色を塗って……いや色塗りまですると手間が掛かるか。この世界の印刷技術がどの程度かにもよるし。
『紙ってどんな種類がありますか? この紙よりもっとペラペラで良いんですけど』
簡易の地図を書いてもらった紙、ちょっと高そうなんだよね。これよりもっと薄い、コピー用紙みたいな紙で良いんだ。聞いてみたらそういうのもあるとのこと。兵士の人たちが普段使っているのは、もっとざらざらしてて茶色っぽい紙だって言われて「それ!」と思わず声を出した。
(その紙に……となると、えーっと……)
必要なのは絵心のある人と大量の紙。あ、あとは文字を書く人も必要かもしれない。ただこれを全部説明するには、言語の壁がある。キスし続ければ言葉が通じるけど、それだとジュードさんたちに説明する時に恥ずかしいし……
『セルトさん、この後のご予定は?』
「空いている……というか、もう夕飯の時間だぞ?」
『あ、呼びに来てくれたんですね。ふむ……じゃあご飯食べてお風呂に入ったら、この部屋に来て下さい!』
「え?」
兄貴たちとは一日ズレちゃうけど……あ、決起集会が何時くらいか聞くの忘れた。でも早朝からってことはないだろうし、暴れ馬(じゃなくて竜?)のヤーミルくんに飛ばしてもらってなんとか……
(なるように頑張る!!)
鼻息をフンと出しながら燃える俺の隣で、セルトさんはなぜか顔を赤くしていた。
(でも城下で売られてるのもこういうテイストらしいんだよね)
装丁はもっと簡素で糸綴じも丸見えだけど、イラストとかはそのまま。ちょっと豪華になると表紙がついて糸綴じも隠れてたり……識字率は悪くないのに、製本に関しては「読めれば良いじゃん」らしい。いや、そうなんだけどさ。表紙があったほうが長く保つよ?
(んー……)
俺もそんなに絵が上手い訳じゃないけど、向こうで見ていた絵本のイメージがあるからちょっと違和感。いや〝もったいない〟って気持ちかな。もっと可愛らしい絵柄なら、子供も読みやすいんじゃないかなぁ……と、思って久しぶりにバッグを引っ張り出してきた。
(じゃじゃーん! 懐かしの、ネタ帳とペン!)
こっちの文字はうにょんうにょんしてて書くのが大変なのでスルーして、それっぽい流れだけを絵におこしてみよう。無はどうしよう、やっぱり真っ黒に塗り潰して……次は風で……音、音は音符? こっちの音符って形が分からないから向こうので良いか。
ふんふーんと鼻歌交じりに、お行儀悪いけどベッドにゴロゴロしながら落書きを楽しむ。
「何をしてるんだ?」
『あきゃーーーーもがっ?!』
「ふ、くく……ケント、あの時と同じ反応だな」
楽しみ過ぎた。いつの間にか部屋に入っていたセルトさんに声を掛けられて、図らずもトゥリスの宿屋と同じやり取りになっていた。セルトさんに笑われて、俺もあの時を思い出して自然と笑ってしまう。
『んふふ……セルトさん、お疲れ様です』
「随分と集中していたけど何を……あぁ、創世神話か?」
『はい、そう……あ、ん……ちゅ、ん、ん、ふぁ』
部屋に二人きりだから、合図の前に問答無用でチューされちゃった。寝っ転がってるから襲われてるみたい。俺の顔の両脇にセルトさんの腕が置かれて、上から覆い被さられて念入りにキスされてる。そっか、これももう終わりなんだな……と思うとなんだか胸がギュッとなって、自分からもセルトさんの首に腕を回して舌を差し入れた。
『んふ……ふぁ、あ……』
番とか、未だによくわからないけど……キスでこんなに気持ちよくなれるのって、多分セルトさんが最初で最後。そんな気がする。
ちゅっと音を立てながら唇が離れていくと、その間にヨダレの糸が……会話するだけなのに念入りにしすぎたかも。その糸を親指で押さえるようにしてぬぐってくれたセルトさんはやばい。イケメン。
「……よく書けている。この記号はなんだ?」
『これは音です。向こうではこういう音符って記号を使って音階を書いているんです』
「へぇ。こちらでは……こういう記号だな」
ノートの端に書いてくれた記号はすぐに書けそうな形だったので、音符を消してその記号を書いてみた。全体を確認したら「合ってる」と言ってもらえたから大きな解釈違いはなさそう。デフォルメしたオーヘル神とエールピオス神も、変じゃないって。
「すごいな。これだと子供が喜びそうだ」
『本当ですか? 良かった。ここの絵本を貸してもらったんですけど、ちょっと格式が高くて……』
「俺たちはこれで慣れているが、こういった絵だと更に親しみやすいかもしれない」
『おぉ!』
(ん? これって、もしかするともしかする……かも??)
もちろん、セルトさんだけじゃなくてジュードさんやダミアンさんにも確認が必要だけど、これを良い感じに色を塗って……いや色塗りまですると手間が掛かるか。この世界の印刷技術がどの程度かにもよるし。
『紙ってどんな種類がありますか? この紙よりもっとペラペラで良いんですけど』
簡易の地図を書いてもらった紙、ちょっと高そうなんだよね。これよりもっと薄い、コピー用紙みたいな紙で良いんだ。聞いてみたらそういうのもあるとのこと。兵士の人たちが普段使っているのは、もっとざらざらしてて茶色っぽい紙だって言われて「それ!」と思わず声を出した。
(その紙に……となると、えーっと……)
必要なのは絵心のある人と大量の紙。あ、あとは文字を書く人も必要かもしれない。ただこれを全部説明するには、言語の壁がある。キスし続ければ言葉が通じるけど、それだとジュードさんたちに説明する時に恥ずかしいし……
『セルトさん、この後のご予定は?』
「空いている……というか、もう夕飯の時間だぞ?」
『あ、呼びに来てくれたんですね。ふむ……じゃあご飯食べてお風呂に入ったら、この部屋に来て下さい!』
「え?」
兄貴たちとは一日ズレちゃうけど……あ、決起集会が何時くらいか聞くの忘れた。でも早朝からってことはないだろうし、暴れ馬(じゃなくて竜?)のヤーミルくんに飛ばしてもらってなんとか……
(なるように頑張る!!)
鼻息をフンと出しながら燃える俺の隣で、セルトさんはなぜか顔を赤くしていた。
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