あるある設定な異世界に転移しましたが、俺は普通に生きようと思います。

創世神話

　＊　
　
　初め、世界は無だった。
　無に風が吹いた。
　風が吹くと音が生まれ、音が生まれると大地が生まれた。
　そして大地が生まれると、海が生まれた。
　そこに二柱の神が降り立った。
　人の姿をしたオーヘル神。
　獅子の姿をしたエールピオス神。
　二柱はその世界を愛し、互いを愛し、やがて子供たちが産まれた。
　最初に産まれた獣人は世界を支える役割を持った。
　次に産まれた子供は人だった。その次は獣。
　それぞれがそれぞれの力で兄を支え合うようになると、二柱はやがて空へと還っていった。

　＊

「そして、二柱はいつでも君たちを見守っているから行いには注意せよ……という教えに繋がる訳です。降り立った場所は君が飛竜に乗って飛び越えたあの山だとされていますね。だから聖域なんですよ」
「向こうの感覚だと荒唐無稽だけどな。とはいえ、全くの嘘でもないんだよなぁ……うちの王家が死に戻りを含めて直系を絶やさないのは事実だし、同性同士でも子供が出来るから」
『え？！　あ、神様が男と雄だから？　……男同士はどうにか出来るかも知れないけど、女の人同士も？　子供の作り方が違う？　コウノトリが運んでくるとか？？』

　ほら、BLでさ。怪しい薬を飲んだり埋め込んだりすると男同士でもベイビー産まれるじゃん。あれ、女の人だと入れるモノなくない？　って少し不思議だったんだよね。

「子供の作り方はセックス一択だよ。ただ、同性同士だとあることをしてからセックスすれば良いだけ。薬じゃないけどな」
「なぜ子作りの話になっているのかわかりませんが……そちらの世界では男女間でしか産まれないのですか？」
「同性同士は無理だなぁ。昔っからそういう恋愛は禁忌とされてたし。最近はそうでもなくなってきたけど、子供は無理」
「まぁそれは……こちらの世界でもあるところにはありますけれどね」

　オーベルシュハルトに近い国々は古くからの教えを守っているけど、離れていくとちょっと変わってくるんだって。同性愛はおかしいとか、獣人は不浄な生き物だとか……人族至上主義って感じかなぁ。ガッチガチの貴族主義だったり血統主義だったりもするらしい。男女間ではない恋愛についてもガチガチに縛られるし、そういう国では神様の姿や性別も変わってるらしいよ。獅子のエールピオス神は、人の姿の女神様になるんだってさ。

『ここも王政じゃん』
「お飾りのな。ぶっちゃけ王という血と器さえあれば良いから、後は城下で住んでるやつらと変わらん」
「……それに関しては異を唱えたいですが、まぁ私も宰相位ですけどたまたまですから」

  番で相手を見つけちゃうから、血統主義になりようがないんだってさ。こっちの世界での兄貴のお父さん（前王様だけど）、他国へ訪問した時に下働きのお母さんを見初めたっていうしね。しかも年の差が三十歳以上あったみたい。ドラマチックだね。いや、その後にお母さんが五歳の時に亡くなってしまうなんてドラマはいらないんだけどさ。お父さんも十七歳の時に死んじゃったらしいし……

「年齢も年齢だったし、番が死んで十二年生きたんだから充分だろ」
「陛下は番が見つかるのが早かったですから、そこは前王も安心なされた筈ですが……まさかこうなるとは…………」
「しゃーねぇだろ。あいつにも理由があったんだ。多分な」

　兄貴が七歳、カーライルさんは九歳の時に出会って、お互いすぐに番とわかったらしい。フェロモンとかを理解したのは二次成長期を迎えてからみたいだけど。えーっと、カーライルさん、兄貴、セルトさんで二歳ずつ離れているのか。ジュードさんは三人より上で、二十八歳。

「これであれが死んでくれたら、私にも好機はありますかねぇ」
『へ？！』
「こいつ、カーライルと出会わなかったら決まってた許嫁。――笑えない冗談言ってんじゃねぇよ。俺はあいつしか選ばない」
「あながち冗談でもないんですけどね」

（あぁあああ……！　なにその滾る設定！！　でも兄貴がって考えると複雑ぅううう！！）

　一応、番って存在が大前提にあるから「見つからなかったらね」って感じだったらしいけど。ジュードさんのこの感じとしては結構乗り気だったりしたのかなぁ……あれ？　今もそれ言ってるってことは、ジュードさんに番っていないのかな？？

「君が私の番になりますか？」

　だからなんでダミアンさんもジュードさんも、こっちの考えてることわかるんでしょうか。色気たっぷりな小首傾げで聞かれたけど、めっちゃ怖い。いやなんかさ、マジで蛇に睨まれた蛙って気持ち。蛙になったことないけど……怖すぎて兄貴の尻尾をぎゅっと握りしめたら「いてぇ！」って怒られた。怒るならジュードさんを怒って！　怖い！！

「失礼いたしま………………あの、陛下？　何をなさっておいでなのですか？」
「あー、面倒くせぇタイミングで来やがった」
『セルトさぁあああああん！！』

　兄貴に怒られたタイミングで、ようやく用事を済ませたセルトさんが部屋に入ってきた。なんでか兄貴に怒ってるみたいだけど、怒る相手が違うよ。いたいけな青年をもてあそぶジュードさんを怒って！　兄貴の尻尾を放り投げて、セルトさんへダイブ。ちゃんと抱きしめてくれる安心感。体幹凄い、やっぱりお父さん。

『うぅう……お父さぁん、兄ちゃんとジュードさんが苛めるぅう……』
「ぶっはぁ！　あっはははははははは……！！」
「あの、陛下？　ケントは今なんと？」

　俺の〝父ちゃん〟呼びに兄貴が爆笑した。「うちの親父こんなじゃねぇだろ」って言ってるけど、イメージだよイメージ。通訳された後、なぜかセルトさんが絶句して、ジュードさんは哀れみの目でこっちを見ていた。なんでよ。