あるある設定な異世界に転移しましたが、俺は普通に生きようと思います。

宮野愛理

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複雑な心境

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 よくわからないって顔に出てたのか、「セルトは後で来るから、とりあえず待ってろ」と言われてしまった。了解です。でもカーライルさんの言ってた「そこそこ強い」っていうのはこういうことだったんだね。隊長なら強いでしょ。元って付くのはカーライルさん探しで辞職したとかなのかなぁ……

『あー、複雑。幼なじみと弟が番とか、生々しくてキッツい』
『ねぇ兄貴……聞いても良い? 番って、なに?』
『は? んなもん、お前だってオメガバース読んでたんだからわかんだろ。大体あんな感じだ』
『俺、オメガなの?』

 異世界に転移したと思ったらオメガになっちゃった俺の話に変わっちゃう?
 お尻、濡れちゃうんでしょうか? 三ヶ月に一度の発情期でアンアンってなっちゃうんでしょうか? あれはフィクションだから楽しめるけど、実際に自分がっていうのはちょっと違うんだよなぁ……

『っていうか、セルトさんに〝お前は俺の番だ〟って言われてないし。それに兄貴がレオルカさんなんだったらさ……兄貴はカーライルさんの番なの? ちょろっと過去の事件とか聞いたけどさぁ…………それ聞いてて当事者が実の兄ってのもキツいんだけど』

 しかもカーライルさんと兄貴で、あれやこれやなんでしょ? 番だもん、きっとあれやこれやがあったんでしょ? どっちが上なの?? カーライルさんってあんな生活してても体格が良かったし、やっぱり攻めが王道? となると、この兄が受け? 身分差のある下剋上カプ??
 あ、どうしよう。辛い。妄想でなら萌えられるのに、兄貴に当てはめた途端に萎える。

『エグい妄想すんじゃねぇよ。どう説明すれば良いモンか……まずは番ってことだけど、体臭ってあるだろ? それとは別にフェロモンってのがある。俺ら獣人は鼻が良くて、番が相手ならそのフェロモンを感じ取ることが出来る。……結構特別な匂いがすんだよ』
『へぇ?』

 フェロモンじゃなくても、誰それの匂いっていうのは獣人ならわかるんだって。で、さっきまでの俺はセルトさんの匂いがプンプンしていたから「ここまで匂いを付けるのは番か」ってすぐわかったらしい。他者に匂い付けをするのは番間と、あとは家族間。特に親子間だと、子供が小さいうちは必然的にするお世話で匂いがくっついちゃう。それで迷子防止とかをしている側面もあるんだって……便利だね。

 そして番は、男同士でも女同士でも勿論男女間でも、誰が相手でも結ばれる。だから同性愛も普通にある。基本的に獣人はそこを基準にして考えるから、離婚とか浮気もないらしい。まぁ出会えない人もいるらしいけど……むしろ人が相手だった時のほうが地獄なんだって。

『人ってのはほぼフェロモンが感じ取れないから、番の関係性を理解しない。その状態で相手が既婚者だったらって考えてみ?』
『おわぁ……』

 そこはオメガバースでも通じるところあるね。既婚者で運命の番とか、読んだ読んだ。あれは地獄だろうなぁって思うよ。基本的には近い範囲で見つかるらしいから、獣人は早い段階で番を探すことが多いんだって。でも「番なんていらない」ってこの国を出たのに、旅先で番に出会うなんてこともあるとか……すっごい赤い糸だよね。むしろ呪いっぽい。

『ま、そのあたりはオーヘル神とエールピオス神の領域だからな』
『それ、カーライルさんも言ってたけど、何? 神様なの?』
『風呂に石像があっただろ? 人型のほうがオーヘル神、獅子がエールピオス神だな。まぁそのあたりは追々教えてやるよ』
『ふへぇい』

 勉強嫌いなんだけど、ファンタジー世界の資料と考えれば吸収できるかも。
 なんてことを思ったところで、「お二人とも、私がいることもお忘れなく」とジュードさんが溜息を吐いた。

「非現実的と思っていましたが、確かに……陛下が異なる世界で生活し、そこの彼が弟だというのも理解いたしました」
「そこのじゃなくて健翔だっての。わりぃ、向こうの言葉でがっつり話してたわ」
「お二人だけで会話するには機密性も高く良いと思いますが……不便ですね」
「だな。――つか、セルトはよくその状態で言ってることがわかったな」

 番だからか? と聞かれたけど、理由を話すことは出来ないよね。というか番設定があるんだったらもっとテレパシー的な感じで話がしたかった。まぁでも、そういう俺の心境なんて手に取るようにわかる兄貴に、がっしりと肩を掴まれてしまった訳ですが!!

「健翔……話すよな?」
「私も気になります。君の言語学習においても何かの役に立つかもしれない」
『……』
「けーんーとーぉ??」

 掴まれた肩が痛い。ついでに体重も掛けられ重い。しかもジュードさんまで興味津々って、やっぱり眼鏡キャラだからかな?! そんなことに知的好奇心をくすぐられなくてもいいんですよ!! だって理由は、理由は……

『……ちゅー』
「あ?」
『ちゅーだよ、ちゅー! 唾液の交換なのか体液交換なのかはわからないけど、それすると少しの間会話が出来るようになるの!! ……はぁはぁ、もうやだ』

 実の兄貴にキスの話するの辛い。ジュードさんは「なんと言ったのですか?」って兄貴に確認してるし、その先を聞いていたくなくてソファーに横になって耳を押さえた。聞こえない聞こえない聞こえなーい。
 アデラールさんの前でもチュッチュしてたじゃんって思うよね? でもさ、兄貴に「彼とキスしちゃった」って報告するのはまた違うじゃん?? 兄貴だよ? 耳と尻尾が生えてレオルカなんて言われてるけど、俺の兄貴ですよ?!

『うー……』

 やり場のない気持ちのままソファーに突っ伏して唸っていたら、ダミアンさんが「夕餉の準備が整いました」と教えてくれた。
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