上 下
20 / 57

執事、凄い

しおりを挟む
 その後、カオス状態になった俺たちをまとめ上げたのは執事さんだった。執事。細長い耳がピョインと頭に付いているから、兄貴に「ひつじの執事?」と聞いたら「山羊」ってぶった切られたよ。髪の毛、クルンクルンしてるから羊だと思ったんだけど。その執事さん……名前はダミアンだと名乗って、わざわざ腰を折ってくれた。ご丁寧にどうもありがとうございます。

「陛下のご指示通り、あなた様は湯殿へ向かいましょう。確かにセルトの匂いが強すぎますからね。その後は……お疲れですからお休みになったほうがよろしいかと思うのですが……」
『兄貴に聞きたいことがいっぱいあります!!』
「……まぁ夕餉を取りながらのご歓談でしたらよろしいでしょう」

 ピシッとしたダミアンさん、推定年齢……わからない。とりあえずダンディ。そして言葉が通じてないのになんか通じている不思議。これも後で兄貴に聞こう。なんでもアリなのは〝執事だから〟って気もするんだけどね。

 その後に連れて行かれたのは大きなお風呂……確かにでっかかった。一人ぼっちで入るのが寂しくなるくらいの広さ。なんか「臭い臭い」って言われるから全身しっかり洗って、お風呂にもしっかり浸かって、ホコホコ状態で出たら見慣れないお洋服が脱衣所に置いてありました。

(着ろってことだと思ったから着たけど……似合ってない気がする)

 兄貴が着ていたようなシャツと、ちょっとラフな感じのズボン。襟付きのシャツって制服でしか着たことないよ。あふれ出る七五三ぽさ……パンツも靴下もおニューなのが用意されてて、ちょっと切なくなったよね。折角セルトさんが買ってくれたのにって思うとさ、勿体ないじゃん。後で兄貴に言って買いとってもらお。

「おや、サイズはちょうどよいですね。では行きましょう」
『?!』

 長風呂をしたつもりはないけど、脱衣所から出て来たら廊下にダミアンさんがいた。驚いた俺に「ずっとは待っておりませんからお気になさらず」と笑っていたけど、いやそれ口に出してないよね?! え、やっぱり執事ってこういう感じなの?
 多少の恐怖を覚えながらてくてくと廊下を歩いていると、ひときわ豪華な扉の前に連れて行かれた。王様がいそうな扉で、それをなんの躊躇もなく開けるダミアンさん凄い。しかも結構重そうな扉なのに、片手で優雅に開けた後に「どうぞ」と言えちゃうところも凄い。

「おー、来たか。茶でも飲むか? ――ダミアン」
「かしこまりました」
『うわっ……めっちゃ偉そう』
「実際に偉いからな」

 ロココ調? な装飾が見事なソファーにふんぞり返って座る兄。恭しくお茶を淹れ始めたダミアンさんに「違うんですよ、この人自分でちゃんと出来ますからやらせてください!」って言いたくって仕方ない。だって向こうじゃやってたし、母ちゃんの手伝いとかもしてたもん(俺もちゃんとやってました)。そわそわする俺を無視して「ほら、座れ」とか命令してくるし。

(どこに?)

 部屋に入ってきて真っ直ぐに見える場所、そこに置かれた三人掛けみたいなサイズのソファー。そんで、その右隣と向かい側に一人がけのソファーが合わせて三つ。一対二対三になる並びと言えば通じるだろうか。まぁその三のところに兄貴が座ってるんだけど。で、テーブルに対してお誕生日席みたいな一人がけのソファーに誰か座ってた。

(え? 誰??)

 さっきの中庭お出迎えの時にいた……ような気もするし、いなかったような気もする。
 すんごい色素が薄いの。真っ白な肌に、髪色は薄く緑がかっていて、服装もそれに合わせたようなペールグリーン。それで金縁のモノクルを掛けている。めっちゃ神経質そう……ってごめん、偏見です。

 ススス……とその人から離れるようにして、兄貴を盾にする並びで座らせて貰った。おぉ、座面がふかふか。

「なんでわざわざこっちに座るんだよ。狭い。人見知り発動すんな。――ジュード、お前もこいつのこと見過ぎだ馬鹿」
「……はぁ。その子供が害のない存在かどうか、見極めるのも臣下の役目ですからね。セルトは役に立っていないようですし」
「番だってんだから仕方ねぇだろ。――健翔、こいつはジュード。見ての通りお堅い性格してるけど、まぁ怖くはないから安心しろ」
『えぇえ……』

 めっちゃジロジロ見られてて、怖くないとか嘘じゃん。兄貴の友達にも「え、これが弟?」って見られてたけどさ……それより鋭い視線がビシビシ来てるよ。もうちょっと兄貴の後ろに隠れとこ。
 ダミアンさんが淹れてくれたお茶は紅茶っぽい香りで、渋みもなくて美味しかった。リラックス効果のあるお茶だって。ついでに「少しはお腹に入れて置いたほうが良いでしょう」って焼き菓子も出してくれた。わー! この世界で初めての甘味!!

『おぉ! しっとりクッキー系。しかもなんか……甘酸っぱいの出て来た。美味しい。兄貴、これ何味?』
「あ? あぁカリャか……あっちだと、すぐりだな」
『すぐり……聞いたことあるけど、食べたことないよね』
「誕生日ケーキの上に載ってたちっちゃな赤い実」
『なるほど?』

 ちょっとしか載ってないから味とかよくわからなかったやつ。これも小さいクッキーだったから、食べるのは一瞬だった。でもお代わり下さいとは言えないよなぁと思いながらお茶を飲んで、ふと見れば横に兄貴のお皿がある。クッキーは手付かず……じぃっと見ていたら「食えば?」と言われたので、ありがたく!!

「なんというか……警戒しているこちらが馬鹿のようですね」
「だから言ってんだろ? あとこいつ、こんなんでも十八だからな。……なんか向こうにいた時より幼くなってるけど。――おい、夕飯食えなくなるぞ」
『んー……』

 しょっぱいのも食べたくなったところで、お茶の残りをグビッと。美味しかったです、ごちそうさまでした。

『あれ? セルトさんは?』
「セルトは今頃、隊のほうに顔を出してるんじゃないか?」
『たい……?』
「あいつはここの……あー…………兵隊さんで、隊長なんだよ」
「正確には王宮近衛兵、護衛隊の元隊長です」

 ジュードさんがわざわざ訂正してくれたけど、さっぱりわからない。近衛兵ってことは、あれだよね? 結構エリートだよね? いやでもご両親がいないってカーライルさんが言っていたような気が……それで隊長してるって、凄い人だったんだねセルトさん。


――――――――――
注釈
異世界語→「」
日本語→『』

今後かなり入り乱れると思います。(書いている自分もちょっと混乱…)
発音された部分だけですので、地の文章では「」を使用しています。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

兄が届けてくれたのは

くすのき伶
BL
海の見える宿にやってきたハル(29)。そこでタカ(31)という男と出会います。タカは、ある目的があってこの地にやってきました。 話が進むにつれ分かってくるハルとタカの意外な共通点、そしてハルの兄が届けてくれたもの。それは、決して良いものだけではありませんでした。 ハルの過去や兄の過去、複雑な人間関係や感情が良くも悪くも絡み合います。 ハルのいまの苦しみに影響を与えていること、そしてハルの兄が遺したものとタカに見せたもの。 ハルは知らなかった真実を次々と知り、そしてハルとタカは互いに苦しみもがきます。己の複雑な感情に押しつぶされそうにもなります。 でも、そこには確かな愛がちゃんと存在しています。 ----------- シリアスで重めの人間ドラマですが、霊能など不思議な要素も含まれます。メインの2人はともに社会人です。 BLとしていますが、前半はラブ要素ゼロです。この先も現時点ではキスや抱擁はあっても過激な描写を描く予定はありません。家族や女性(元カノ)も登場します。 人間の複雑な関係や心情を書きたいと思ってます。 ここまで読んでくださりありがとうございます。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

恋愛騎士物語4~孤独な騎士のヴァージンロード~

凪瀬夜霧
BL
「綺麗な息子が欲しいわ」という母の無茶ブリで騎士団に入る事になったランバート。 ジェームダルの戦争を終え国内へと戻ったランバートとファウストは蜜月かと思いきや、そう簡単にはいかない。 ランバートに起こる異変? 更にはシュトライザー公爵とファウストの閉じた記憶の行方やいかに。 勿論現在進行形の恋人達にも動きが! ドタバタ騎士団の事件や日常、恋愛をお楽しみください。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

処理中です...