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執事、凄い
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その後、カオス状態になった俺たちをまとめ上げたのは執事さんだった。執事。細長い耳がピョインと頭に付いているから、兄貴に「ひつじの執事?」と聞いたら「山羊」ってぶった切られたよ。髪の毛、クルンクルンしてるから羊だと思ったんだけど。その執事さん……名前はダミアンだと名乗って、わざわざ腰を折ってくれた。ご丁寧にどうもありがとうございます。
「陛下のご指示通り、あなた様は湯殿へ向かいましょう。確かにセルトの匂いが強すぎますからね。その後は……お疲れですからお休みになったほうがよろしいかと思うのですが……」
『兄貴に聞きたいことがいっぱいあります!!』
「……まぁ夕餉を取りながらのご歓談でしたらよろしいでしょう」
ピシッとしたダミアンさん、推定年齢……わからない。とりあえずダンディ。そして言葉が通じてないのになんか通じている不思議。これも後で兄貴に聞こう。なんでもアリなのは〝執事だから〟って気もするんだけどね。
その後に連れて行かれたのは大きなお風呂……確かにでっかかった。一人ぼっちで入るのが寂しくなるくらいの広さ。なんか「臭い臭い」って言われるから全身しっかり洗って、お風呂にもしっかり浸かって、ホコホコ状態で出たら見慣れないお洋服が脱衣所に置いてありました。
(着ろってことだと思ったから着たけど……似合ってない気がする)
兄貴が着ていたようなシャツと、ちょっとラフな感じのズボン。襟付きのシャツって制服でしか着たことないよ。あふれ出る七五三ぽさ……パンツも靴下もおニューなのが用意されてて、ちょっと切なくなったよね。折角セルトさんが買ってくれたのにって思うとさ、勿体ないじゃん。後で兄貴に言って買いとってもらお。
「おや、サイズはちょうどよいですね。では行きましょう」
『?!』
長風呂をしたつもりはないけど、脱衣所から出て来たら廊下にダミアンさんがいた。驚いた俺に「ずっとは待っておりませんからお気になさらず」と笑っていたけど、いやそれ口に出してないよね?! え、やっぱり執事ってこういう感じなの?
多少の恐怖を覚えながらてくてくと廊下を歩いていると、ひときわ豪華な扉の前に連れて行かれた。王様がいそうな扉で、それをなんの躊躇もなく開けるダミアンさん凄い。しかも結構重そうな扉なのに、片手で優雅に開けた後に「どうぞ」と言えちゃうところも凄い。
「おー、来たか。茶でも飲むか? ――ダミアン」
「かしこまりました」
『うわっ……めっちゃ偉そう』
「実際に偉いからな」
ロココ調? な装飾が見事なソファーにふんぞり返って座る兄。恭しくお茶を淹れ始めたダミアンさんに「違うんですよ、この人自分でちゃんと出来ますからやらせてください!」って言いたくって仕方ない。だって向こうじゃやってたし、母ちゃんの手伝いとかもしてたもん(俺もちゃんとやってました)。そわそわする俺を無視して「ほら、座れ」とか命令してくるし。
(どこに?)
部屋に入ってきて真っ直ぐに見える場所、そこに置かれた三人掛けみたいなサイズのソファー。そんで、その右隣と向かい側に一人がけのソファーが合わせて三つ。一対二対三になる並びと言えば通じるだろうか。まぁその三のところに兄貴が座ってるんだけど。で、テーブルに対してお誕生日席みたいな一人がけのソファーに誰か座ってた。
(え? 誰??)
さっきの中庭お出迎えの時にいた……ような気もするし、いなかったような気もする。
すんごい色素が薄いの。真っ白な肌に、髪色は薄く緑がかっていて、服装もそれに合わせたようなペールグリーン。それで金縁のモノクルを掛けている。めっちゃ神経質そう……ってごめん、偏見です。
ススス……とその人から離れるようにして、兄貴を盾にする並びで座らせて貰った。おぉ、座面がふかふか。
「なんでわざわざこっちに座るんだよ。狭い。人見知り発動すんな。――ジュード、お前もこいつのこと見過ぎだ馬鹿」
「……はぁ。その子供が害のない存在かどうか、見極めるのも臣下の役目ですからね。セルトは役に立っていないようですし」
「番だってんだから仕方ねぇだろ。――健翔、こいつはジュード。見ての通りお堅い性格してるけど、まぁ怖くはないから安心しろ」
『えぇえ……』
めっちゃジロジロ見られてて、怖くないとか嘘じゃん。兄貴の友達にも「え、これが弟?」って見られてたけどさ……それより鋭い視線がビシビシ来てるよ。もうちょっと兄貴の後ろに隠れとこ。
ダミアンさんが淹れてくれたお茶は紅茶っぽい香りで、渋みもなくて美味しかった。リラックス効果のあるお茶だって。ついでに「少しはお腹に入れて置いたほうが良いでしょう」って焼き菓子も出してくれた。わー! この世界で初めての甘味!!
『おぉ! しっとりクッキー系。しかもなんか……甘酸っぱいの出て来た。美味しい。兄貴、これ何味?』
「あ? あぁカリャか……あっちだと、すぐりだな」
『すぐり……聞いたことあるけど、食べたことないよね』
「誕生日ケーキの上に載ってたちっちゃな赤い実」
『なるほど?』
ちょっとしか載ってないから味とかよくわからなかったやつ。これも小さいクッキーだったから、食べるのは一瞬だった。でもお代わり下さいとは言えないよなぁと思いながらお茶を飲んで、ふと見れば横に兄貴のお皿がある。クッキーは手付かず……じぃっと見ていたら「食えば?」と言われたので、ありがたく!!
「なんというか……警戒しているこちらが馬鹿のようですね」
「だから言ってんだろ? あとこいつ、こんなんでも十八だからな。……なんか向こうにいた時より幼くなってるけど。――おい、夕飯食えなくなるぞ」
『んー……』
しょっぱいのも食べたくなったところで、お茶の残りをグビッと。美味しかったです、ごちそうさまでした。
『あれ? セルトさんは?』
「セルトは今頃、隊のほうに顔を出してるんじゃないか?」
『たい……?』
「あいつはここの……あー…………兵隊さんで、隊長なんだよ」
「正確には王宮近衛兵、護衛隊の元隊長です」
ジュードさんがわざわざ訂正してくれたけど、さっぱりわからない。近衛兵ってことは、あれだよね? 結構エリートだよね? いやでもご両親がいないってカーライルさんが言っていたような気が……それで隊長してるって、凄い人だったんだねセルトさん。
――――――――――
注釈
異世界語→「」
日本語→『』
今後かなり入り乱れると思います。(書いている自分もちょっと混乱…)
発音された部分だけですので、地の文章では「」を使用しています。
「陛下のご指示通り、あなた様は湯殿へ向かいましょう。確かにセルトの匂いが強すぎますからね。その後は……お疲れですからお休みになったほうがよろしいかと思うのですが……」
『兄貴に聞きたいことがいっぱいあります!!』
「……まぁ夕餉を取りながらのご歓談でしたらよろしいでしょう」
ピシッとしたダミアンさん、推定年齢……わからない。とりあえずダンディ。そして言葉が通じてないのになんか通じている不思議。これも後で兄貴に聞こう。なんでもアリなのは〝執事だから〟って気もするんだけどね。
その後に連れて行かれたのは大きなお風呂……確かにでっかかった。一人ぼっちで入るのが寂しくなるくらいの広さ。なんか「臭い臭い」って言われるから全身しっかり洗って、お風呂にもしっかり浸かって、ホコホコ状態で出たら見慣れないお洋服が脱衣所に置いてありました。
(着ろってことだと思ったから着たけど……似合ってない気がする)
兄貴が着ていたようなシャツと、ちょっとラフな感じのズボン。襟付きのシャツって制服でしか着たことないよ。あふれ出る七五三ぽさ……パンツも靴下もおニューなのが用意されてて、ちょっと切なくなったよね。折角セルトさんが買ってくれたのにって思うとさ、勿体ないじゃん。後で兄貴に言って買いとってもらお。
「おや、サイズはちょうどよいですね。では行きましょう」
『?!』
長風呂をしたつもりはないけど、脱衣所から出て来たら廊下にダミアンさんがいた。驚いた俺に「ずっとは待っておりませんからお気になさらず」と笑っていたけど、いやそれ口に出してないよね?! え、やっぱり執事ってこういう感じなの?
多少の恐怖を覚えながらてくてくと廊下を歩いていると、ひときわ豪華な扉の前に連れて行かれた。王様がいそうな扉で、それをなんの躊躇もなく開けるダミアンさん凄い。しかも結構重そうな扉なのに、片手で優雅に開けた後に「どうぞ」と言えちゃうところも凄い。
「おー、来たか。茶でも飲むか? ――ダミアン」
「かしこまりました」
『うわっ……めっちゃ偉そう』
「実際に偉いからな」
ロココ調? な装飾が見事なソファーにふんぞり返って座る兄。恭しくお茶を淹れ始めたダミアンさんに「違うんですよ、この人自分でちゃんと出来ますからやらせてください!」って言いたくって仕方ない。だって向こうじゃやってたし、母ちゃんの手伝いとかもしてたもん(俺もちゃんとやってました)。そわそわする俺を無視して「ほら、座れ」とか命令してくるし。
(どこに?)
部屋に入ってきて真っ直ぐに見える場所、そこに置かれた三人掛けみたいなサイズのソファー。そんで、その右隣と向かい側に一人がけのソファーが合わせて三つ。一対二対三になる並びと言えば通じるだろうか。まぁその三のところに兄貴が座ってるんだけど。で、テーブルに対してお誕生日席みたいな一人がけのソファーに誰か座ってた。
(え? 誰??)
さっきの中庭お出迎えの時にいた……ような気もするし、いなかったような気もする。
すんごい色素が薄いの。真っ白な肌に、髪色は薄く緑がかっていて、服装もそれに合わせたようなペールグリーン。それで金縁のモノクルを掛けている。めっちゃ神経質そう……ってごめん、偏見です。
ススス……とその人から離れるようにして、兄貴を盾にする並びで座らせて貰った。おぉ、座面がふかふか。
「なんでわざわざこっちに座るんだよ。狭い。人見知り発動すんな。――ジュード、お前もこいつのこと見過ぎだ馬鹿」
「……はぁ。その子供が害のない存在かどうか、見極めるのも臣下の役目ですからね。セルトは役に立っていないようですし」
「番だってんだから仕方ねぇだろ。――健翔、こいつはジュード。見ての通りお堅い性格してるけど、まぁ怖くはないから安心しろ」
『えぇえ……』
めっちゃジロジロ見られてて、怖くないとか嘘じゃん。兄貴の友達にも「え、これが弟?」って見られてたけどさ……それより鋭い視線がビシビシ来てるよ。もうちょっと兄貴の後ろに隠れとこ。
ダミアンさんが淹れてくれたお茶は紅茶っぽい香りで、渋みもなくて美味しかった。リラックス効果のあるお茶だって。ついでに「少しはお腹に入れて置いたほうが良いでしょう」って焼き菓子も出してくれた。わー! この世界で初めての甘味!!
『おぉ! しっとりクッキー系。しかもなんか……甘酸っぱいの出て来た。美味しい。兄貴、これ何味?』
「あ? あぁカリャか……あっちだと、すぐりだな」
『すぐり……聞いたことあるけど、食べたことないよね』
「誕生日ケーキの上に載ってたちっちゃな赤い実」
『なるほど?』
ちょっとしか載ってないから味とかよくわからなかったやつ。これも小さいクッキーだったから、食べるのは一瞬だった。でもお代わり下さいとは言えないよなぁと思いながらお茶を飲んで、ふと見れば横に兄貴のお皿がある。クッキーは手付かず……じぃっと見ていたら「食えば?」と言われたので、ありがたく!!
「なんというか……警戒しているこちらが馬鹿のようですね」
「だから言ってんだろ? あとこいつ、こんなんでも十八だからな。……なんか向こうにいた時より幼くなってるけど。――おい、夕飯食えなくなるぞ」
『んー……』
しょっぱいのも食べたくなったところで、お茶の残りをグビッと。美味しかったです、ごちそうさまでした。
『あれ? セルトさんは?』
「セルトは今頃、隊のほうに顔を出してるんじゃないか?」
『たい……?』
「あいつはここの……あー…………兵隊さんで、隊長なんだよ」
「正確には王宮近衛兵、護衛隊の元隊長です」
ジュードさんがわざわざ訂正してくれたけど、さっぱりわからない。近衛兵ってことは、あれだよね? 結構エリートだよね? いやでもご両親がいないってカーライルさんが言っていたような気が……それで隊長してるって、凄い人だったんだねセルトさん。
――――――――――
注釈
異世界語→「」
日本語→『』
今後かなり入り乱れると思います。(書いている自分もちょっと混乱…)
発音された部分だけですので、地の文章では「」を使用しています。
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