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偉そうな王様と邂逅

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「おはよう、ケントくん。よく眠れたかい?」
『おはようございます、アデラールさん。……えぇ、まぁ眠れましたよ。目は腫れてますけども』

 気持ちを切り替えて寝るぞ! と思ったら、セルトさんの尻尾効果で爆睡してました。アデラールさんは朝から元気ですね。セルトさんは……

「セルト、鞍を載せるのを手伝って」
「わかった」

 いつも通りです。寝る前の姿勢から変わってなかったんだけど、ほんとに寝てたのかな。俺は横抱きの状態から尻尾抱き枕にしつつ地面に寝かされてました。動かされた記憶がないから、熟睡した段階で降ろしてくれたんだろうなぁ。
 昨夜のことを考えるとションボリしちゃうけど、とりあえずはヤーミルくんに乗って、目指せオーベルシュハルト! でもさ、そういえばさ……どのくらいの時間で着くんだろう。馬で十日弱ってことだけど、飛竜だとどの程度なのか聞いてないや。

『セルトさん、セルトさん』
「どうした、ケント。――何かあったか?」
「ねぇ、二人とも……理由はわかるんだけど、目の前でそうポンポンとキスしないでくれない?」
 
 確かにアデラールさんの前でも開き直ってチューしてるな。ごめんなさい。そのお陰でちゃんと確認が出来た訳なんだけど、飛竜だとまさかの「だいたい今から出て夕方だな。ヤーミルだともう少し早い」でした。えーっと? 今は朝日がしっかり出たくらい。それで夕方より前ってことは、八時間前後?? 馬で十日くらい掛かるのに?!
 よくよく聞いてみると、ここから見える大きな山(余談だけど、俺がヤーミルくんに連れ去られた時はその山から真逆の方向で進んでたみたい)を馬で迂回するか、飛竜で飛び越えるかで時間が大きく変わるんだって。馬でも山越えすれば良いじゃんって思うけど、この山なんと神聖な山らしく基本的に人が入っちゃ駄目なんだそうな。飛竜は元々この山育ちで、むしろ他の地域には生息出来ないから飛び越えてもセーフ……らしい。

『ヤーミルくん、そんな繊細な生き物だったの?』
[オウチ、帰ル!]
『おうちじゃなくて、ちゃんとオーベルシュハルトに辿り着いてね……』

 ヤーミルくん、好き勝手飛ぶ気満々です。ここはセルトさんの腕前に任せよう。
 一応ね、神聖地ってことだけどお昼休憩で降りることは出来るんだって。おトイレも、その時にして良いと言われてホッとしました。駄目だったとしても我慢はするけど、半日はちょっと膀胱が危険だからさ!!


 そんな感じで空の旅を開始した訳だけど、鞍があるって安心感あるねぇ……ほんと、昨日の俺はよく落ちなかったよ。後ろにセルトさんが乗ってくれてるから、上昇の時以外は風景を見てられるし。こういう感じだったらまた乗っても楽しいかも。

「見えてきたぞ。あれがオーベルシュハルトだ」
『おぉ!!』

 多分お城かな? それが山を背にする感じで建っていて、そこから山裾にかけて扇形に城下町が広がっていた。グルッと石の塀が並んでいて入り口は一つしかない。もしそこから入ったなら、城下町の向こうにお城が見えるんだろうなぁ……俺たちは許可を貰っているからお城の中庭に直接入っちゃうけど。どっかのタイミングで入り口から見た全体も見せてもらいたい……多分、どっかのテーマパークみたいに見える気がするんだよね。

『健翔!!』
『え?』

 バサバサっと音をさせて中庭に降り立った俺たちを出迎えてくれた人たち。その中から、なぜか俺の名前を呼ばれた。キョロキョロと見渡していると『ここだ!』ってまた日本語が……

『にーちゃん?!』

 聞こえた方向に、兄ちゃんがいた。でも仮装してた。耳、生えてる。尻尾も生えてて、ハロウィンですか? な格好だった。しかも髪の毛伸びてるし!! 就活で短めにしたのに、今は肩より長くなってる。服装はシンプルなシャツに黒いパンツだったけど……え? その尻尾どうやってくっつけてるの??

「ケント、降りるぞ。――陛下、ただいま戻りました。ヤーミルの騎乗許可ありがとうございます」
『へいか……え? 陛下って、王様? レオルカさん??』
 
  カーライルさんの恋人で、二年前に殺されていて、最近戻ってきた王様のレオルカさんが……仮装した片桐鷲かたぎりしゅうだなんて思いもよらなかったんですけど。しかもめっちゃ偉そう。元から偉そうだったけど、更に偉そう。

「構わん。火急だからな。――しっかしケント、お前くっせぇ!!」
『えぇええ?!』

 ここは(やるかどうかは別として)、「にーちゃぁん!」「健翔ー!!」っていう感動のシーンじゃないの? なんで到着して早々に「くせぇ」って言われなきゃならないの?? いやでも、これで兄貴ってことが確定したよ。このノリはうちの兄貴だよ。間違いない。
 そんな俺のしょっぱい気持ちを余所に、ズドドド……という足音を鳴らしてヤーミルくんが[会イタカッタ!]って兄貴に顔をすり寄せてる。だからやっぱり、レオルカさんなんだよ……な?

「とりあえず健翔は風呂! でっけぇのあっから行ってこい! ――そんで、セルト。お前、俺に何か言うことがあるだろ?」
「……」
『あ、ちょ……兄貴!!』

 無言のセルトさんが、荷物として持っていた袋を兄貴に捧げ渡した。止めようとした俺の制止なんてスルッと無視されて、兄貴が無言で袋の中身を確認する……と、そのままでっかい溜息を吐いた。

「ま、そんなこったろうと思ったさ。つか、こっちじゃねぇんだよ。セルト……てめぇ俺の弟に何してんだあぁん?」

 本当はね、一瞬……ほんの一瞬だけ兄貴の目に涙が張ったんだ。でも溜息一つで終わらせた。なんというか〝為政者〟って感じる姿だった。まぁ元々兄貴は弱音って吐かないタイプだったけど。でも自分の気持ちをギュッて蓋したの、周りの人も気付いたんじゃないかな。

『っていうか、なんでセルトさんを蹴ってるのさ!!』
「あ? 一応大事な弟、傷モンにされたら怒りたくもなるだろうが!!」
「おとうと? いや陛下、その……未遂です、ので……」
『そうだよ俺まだ童貞処女…………って、何言わせるんだよにーちゃんの馬鹿!!』

 日本語がわかるの兄貴だけで良かった。
 なんでデッカい声でそんなこと言わなきゃならないんだよぉ!!
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