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無事に合流

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 手綱があることで格段と良くなったヤーミルくん乗り心地。マントを被って、少しだけ周りを見る余裕も生まれた。
 世界が夕焼け色に染まってて、そういえばこうやってセルトさんと風景を見ることはなかったなーなんて……とりとめもなく考えてしまうのはセルトさんのことだ。

 なんかさ、切ないよね。俺、セルトさんに「なんでこんなところにいたんですか? どっかに向かう最中?」って聞いたことがあるんだよね。その時は「まぁそんなところだ」って言われただけで……言えなかったのか言うつもりがなかったのかはわからない。でも、線引きされてたんだなって思うとさ。
 お兄さんのこととか、レオルカさん? のこととか、俺なんかに話しても意味がないと思われてたのかもしれないけど……愚痴でも良いから聞きたかった、と思うのは烏滸がましいんだろうか。
 俺なんてなんの力もないし、役にも立たないし、セルトさんとレティアちゃんのお荷物でしかなかったのは間違いない。でも――……

「寂しいなぁ……」

 なんて。
 まだ一週間も過ごしていないのに、こんな気持ちになるのが不思議だった。



 着陸時の浮遊感におぇっとなりながら、トゥリス近くの飛行場に到着! セルトさんとアデラールさんも、ちゃんと待っていてくれた。カーライルさんの予感的中ってことで、やっぱりお兄ちゃんって凄いね(うちの兄貴は除く)。

『セルトさーん!!』

 降りるのも相変わらず下手っぴなんだけどなんとか降りることが出来た。ヤーミルくんの邪魔にならないように少し離れて待機していたセルトさんに向かって走って行くと、セルトさんも腕を広げてくれる。これはドーンと行くやつですね! 了解です!!

「っ、止まれ!!」
『うぉ、え、っとぉ……?! いたた…………え? なんですか?』

 あと数メートルってところで、その流れをバチッと無視する停止命令。急に叫ぶから足が縺れちゃったよ。ズベシャっと音がする勢いで倒れ込んでしまった。あ、大丈夫です。運動音痴だけど顔からは着地しませんでした。ちゃんと手は前につきましたよ!!

「ケント……に、会ったのか…………!」

 はて。地面から見上げるセルトさんのお顔がめっちゃ怖いんですけど、これはどういう? あいつって、カーライルさんのこと?? なんというかその顔だけで〝不穏な関係〟ってことがわかるんだけど、どうしよう。どうしたら良い?

「言えっ!!」
『い、った……ちょ、セルトさん、今のまんまじゃお話できないから落ち着いて!!』
「セルト! 落ち着け!!」

 ズカズカっと歩いてきて、そのままの勢いで腕を引っ張り上げられた。めっちゃ痛い。すかさずアデラールさんが後ろから羽交い締めにしてくれて、なんとか腕は取り戻すことが出来たけど……あ、痣になってる。骨が折れてなくて良かった。

「ケントくん、大丈夫か? ――お、おい。セルト!!」
「どこに……向こうの…………なら…………」

 今まで暴力とは無縁で生活していた。セルトさんは優しかったし、兄貴も……まぁちょっと喧嘩とかはしたけど、こんなに力任せじゃなかった。急な豹変に呆然とする俺を無視して、俺が来た方向だけを凝視しているセルトさんは、俺たちのことなんて見ていない。ただただ異様な状態だってことだけわかった。

『セルトさん! ねぇ!!』
「セルト! カーライルに会ったというなら、それこそ状況を確認する必要が――あ、おい!」

 どういうことか聞きたいのに、セルトさんは俺の声を無視してレティアちゃんのいる方へと向かっていく。勢い的にこれから夜になるのにレティアちゃんを走らせそうな雰囲気。駄目だ。そう思ったのは俺だけじゃなくて、アデラールさんもセルトさんを止めようとしている。でもカーライルさんの言った通りに、セルトさんの力が強くてあっという間にもみ合いになってしまった。

『だ、だめ……駄目です、セルトさん』

 多分もみ合っている内に酷いことになる。そう思ったから、怖くてもセルトさんの正面に立った。多分だけど、セルトさんが腕をブンッてしたら俺は死ぬと思う。カチカチと知らず知らずに奥歯が鳴ったけど、「どけ!」って怒鳴られたけど、首を振って必死で自分の唇を指で叩いた。

『セルトさ……聞いて、俺の話、聞いてよ…………お願いだから……』

 これが殺気って言うのかな。わからないけど鳥肌が立って足が震える。泣くつもりはないのに、喉の奥で息が詰まって苦しくて、涙が滲んだ。それでも必死で唇を叩いた。
 話したい。二人でトゥリスに向かう時にしていた合図。気付いて……!

『ひっく……やだ、セルトさん怖いの、ヤダぁ…………うぇっ、にーちゃん。助けて。セルトさん止めて、にーちゃ……』

 いい年してって思うのに、一度兄ちゃんを思い浮かべたら駄目だった。あっという間に涙腺崩壊してボタボタと涙が出てくる。涙もだけど鼻水も出てきて、我慢しようとすればするほど喉がひりついた。怖いのと、恥ずかしいのと、苦しいのと、辛いのとで、もうグチャグチャだった。
 もう殴られてもいいや。そんな気持ちで、セルトさんを真正面から抱きしめる。それが呼び水になったのか、セルトさんの体から力が抜けて、そっと抱き留められた。

『セルトさ……』

 上を向いて見たセルトさんの顔は、少しだけ怒りが落ち着いたようだった。そのまま顔がゆっくりと近づいて――
 
『んちゅっ……ん、ん、…………ひぃっく、んふ……ぁ』
「え、ちょっと。今の流れでなんでキスしてんの、この二人……」

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