あるある設定な異世界に転移しましたが、俺は普通に生きようと思います。

宮野愛理

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魔法のイヤーカフ

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 お店へのせめてものお返しにと、セルトさんがパンツ(下着のほう)を何枚か買ってくれました! やったね! これで洗い替えが出来たよ!!
 今穿いてるパンツ……これは捨て、かな。考えないようにしてたけど何日穿いてる? って考えると、なんか色々と染み込んでる気がするよね。しかも靴下のフィーバーっぷりを考えると、おいそれとこのパンツも外に出せない。買ってくれたパンツが伸び縮みのないトランクスタイプだったし……俺が今穿いてるの、化繊のボクサータイプだもん。オーパーツ過ぎる。

 ――あむっ。

 異世界のパンツ事情を考えながら、セルトさんが買ってくれたオヤツをパクリ。買い物の後はそのまま宿屋に帰る筈が、俺のお腹がね……鳴ってしまいましてですね……ただ今、途中で見掛けた屋台併設のベンチでオヤツタイムです。

(だって森と違って町は良い匂いがそこら中からするんだよ! お腹も減るってもんですよ!!)

 いや本当に、「大丈夫です我慢出来ますから」って断ったんだけどさ。あれよあれよと言う間にセルトさんがお店の人とやり取りしてて、出来たてアツアツなクレープみたいなやつが手元に……その時に駄目押しで、もう一度お腹が鳴りました。恥ずかしい。

(これは普通に美味しいけど……)

 真ん中に棒が挟んであって甘じょっぱいソースが掛かっているから、クレープというよりも片手で持てるお好み焼きのほうが近いかもしれない。セルトさんのほうは、それに何かフレーク状のものが掛かっている。チラチラ見ていたら「食べるか?」とばかりに差し出されたので、一口だけパクッと……

「かっら……!!」

 このポリポリ食感なフレーク、多分唐辛子とかそういうやつ!! 小さめの一口にして良かった!!
 一緒に買って貰ったお茶で流し込んで、口を開けてヒーヒー冷ましていたらセルトさんに笑われてしまった。(一瞬で無表情に戻っちゃったけど)
 セルトさんのやつも美味しいは美味しいんだよ。でもちょっと、ピリ辛じゃないレベルの辛さだったから俺には無理。甘じょっぱいほうをまた食べて、ようやくホッとする。異世界転移あるあるのマヨネーズとか、これに掛けたら美味しそうだな~と思うけど面倒くさいことになるのもあるあるなんだよねぇ……

 なんてやり取りをしていたら、通りから俺たちのベンチに向かってくる人がいた。

『スェルト、?U⊴≒⋢≡s⊘⊂∴、⊦∯≍⊏U≒∢≃』

 うーん。何を話しているのかさっぱりわからない。でも名前を言ってきたってことは知り合いかな。獣人さんだし。あれ? 〝スェルト〟ってそうだよね? ネイティブ発音だと〝セルト〟ではない? 〝トマト〟と〝トゥメェイトォ〟な違いだろうか。
 また新たな謎が増えてしまった。このチューで発動する翻訳機能って実際どうなってるんだろう。セルトさん側でどう聞こえてるのか知りたい。通じてるから変なことを話したりはしてないと……思いたいんだけど。

『∵⊳i⋚<⊿≓≭DbK%∰&≎⊡+⋘≭≥』
『≓⋸⊽∋W、⋄≪⊊∴⊷』
『∺⋠≂≚≶⋈&>K⊾∫⊅⊔7⊔y⋂vm⊧……∢∋''≢』

 そんな俺を尻目に、なんだか二人の会話は深刻そうだ。しかもめっちゃ小声。残っていたお茶をチビチビと飲みながら空気に徹していたら、セルトさんが何かを受け取って俺に見せてきた。

「なに、これ?」

 コロンとした見た目の金属が二つ。首を傾げているとセルトさんが一つを手に取って、片耳に引っかけた。多分、ピアス穴が開いてなくても使える装飾品――イヤーカフってやつ? それを俺に向けて見せてくるってことは、付けろということだろうか。

「あ、両方つけるの? セルトさんとの通信用って訳じゃないんだ……」

 さっきセルトさんが試しで付けてた分も装着して、両耳がその分重くなる。場所的には軟骨のところ。だからやっぱり、イヤーカフで合ってるのかな?

「どうだ、聞こえるか?」
『おぉ! 凄い!! 聞こえます聞こえます!!』
「んー……多分だけど、聞こえてるのかな?」
「ケント、マルかバツかで答えてくれ。聞こえてるか?」

 指先でマルを作ると、二人がホッとした。

(これ……向こうの話がわかるようになるだけで、こっちの言葉は通じないんだ?!)

 全員分あればやり取りが出来たのかもしれないのに、今あるのは一組のみ。まぁジェスチャーでやり取りは出来るし、向こうの言葉が聞こえるだけでも格段にやり取りはしやすいんだけどさ。今まではセルトさんだけだったから大丈夫だったけど、こうやって他の人と話しているのまでは汲み取れないからね。

「はじめまして。僕はアデラールだよ。色々と話したいことがあるから、ここからちょっと移動してもらっても良いかな?」

 もう一度マルっとジェスチャーすると、セルトさんがゴミを受け取ってくれて屋台に返してくれた。そのままアデラールさんを先頭にして歩き出す。あ、俺はちゃんとセルトさんと手を繋いでいます。
 そんな俺たちを振り返りながら歩いているのがアデラールさん。よそ見してると危ないよ? と思うのに、ひょいひょいと人を避けて歩いている。器用だな。

 尻尾と耳の形状からして、ネズミ系かな。フサフサじゃなくてツルッとした細長い尻尾、それに丸っこい小さな耳。体もセルトさんと比べると小柄で、俺と身長が近いかも。いやでも捲った袖から見える腕は結構ムキムキ……だと?! なんてこと!!


――――――――――

カギカッコが逆転しているのは仕様です。
ここからは日本語が『』、異世界言語が「」となります。
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