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大自然で迷子
しおりを挟む都会とは言い切れないけれど、それなりに利便性の高い街で生まれ育った俺。
今現在の進行形ですが、大自然の真ん中で迷子です。
(いやいや、なんで……? 落ち着け。いや落ち着けって思ってる時点で落ち着いていないけど、とりあえず落ち着こう。そう。とりあえず今日の流れを思い出してみて、何かおかしかったことを洗い出してみよう)
青い空、白い雲、開けた草原に、周りを取り囲む木々……を視界から切り離す為、俺は手持ちのバッグの中からノートとペンを取り出した。
片桐 健翔、十八歳。もうすぐワクドキの大学生! いや、ここまで掘り下げる必要はなかったな。まぁ良いか。このまま行こう。
入学準備も一段落し(悲しいことに実家からの通学だ)、ちょうど新刊が出る日ってことで気分転換に外出した。うん。ここまではいつもの日常だ。
本屋では新刊の他、ノーチェックだった作家さんの気になるご本を購入し、ついでに萌える二人組のやり取りを見て滾り、その熱い思いを――このノートにしたためた。いやもう素敵な二人組だったんだよ。頭半分くらいの身長差でさ、ちっちゃいほうが高い棚に仕舞われた一冊を取りたいのに取れないって時に! 後ろから高身長のほうが! 敢えて! わざわざ! 背後から取ってくれる!! はい、攻め決定!! 最高か。
いや、俺も分別のつく年齢ですからね。そんな素敵なカップル(ではなくただの友達だろうけど)を見ても、その場では騒ぎません。ちょっと肩が震えたり、口元がニヨニヨと動いちゃったりと、少しだけ挙動不審にはなるけどね。その程度です。えぇ。やはりこれはイチ腐男子としてのマナーですからね。
兄貴が居たらアイコンタクトで色々と通じ合えたのに!! と思っても、まぁそれは仕方ない。あっちはあっちで春からの就職に向けてバタバタしてるし。ついでに隠れ腐男子だから、オタク丸出しな俺とはあんまり出掛けないし。寂しい訳じゃない……っていうか、ぱっと見は陽キャだからな。俺としてもちょっと一緒に歩きたくはない。
だってさ、俺より八センチも身長が高いんだぜ? それだけでちょっとイヤじゃん? ついでに言えば結構なイケメン。ザ・日本人な顔立ちの両親から、なんでこんな彫りの深い顔立ちが産まれちゃったの? と疑問に思っちゃうイケメン。(俺は日本人顔なのに!)
そんな兄貴の名前は、片桐 鷲。
鷲が健やかに空を翔けるとか思いついた両親ガッデム!
これがなければ「橋の下で拾ってきたんだろうな」とか冗談言えたのに、完全に意味が繋がってるからね。
(はぁ。なんの話だったっけ……あぁそうそう、そんな兄貴の部屋に新刊を持って行ったんだ。隠れだし、理不尽だし、強いし、デカいし、いつも虐げてくる兄貴なのに俺ってば良い子。それで……)
廊下から見た兄貴の部屋、ドアきっちり閉まってるのに光ってたんだよね。
なぜに? って思うじゃん。なんかイベントとかで光ってるビームみたいだったんだもん。正確にはドアの隙間、目を凝らさないとわからないようなあの隙間からビーム。廊下だって電気点いてるのにさ、そんなん見たらドア開けるよね。
「兄貴!?」
ドアの向こうは真っ白な世界でした。凄いね、光りすぎると影も出来ないんだね。
「健翔、来るなっ!!」
兄貴の声だけが聞こえた。そんな異常事態を見たら、逃げるよりも先に助けなきゃって思ったんだよ。だから兄貴の部屋に足を踏み入れた。見えない中で手を伸ばして、「逃げろ!!」って声が聞こえて――
「にーちゃん!!」
どっかに引っ張られる感じがして、俺の意識は白く塗り潰された……
(ってかさ、これ、完全に兄貴のせいじゃね?)
書き出すまでもなかったわ。うーん。あ、でも逃げろって言われたあたりで光が点滅してたな。その時にうっすら円盤みたいなのが見えた気がする。円盤って言うか……
「魔方陣?」
いやいやそんな、まさかね? とは思うけど、明らかにおかしな光景だったからな。あそこまで光るなんて、兄貴が部屋でイベント用の光源装置を使ってなければあり得ない。そんなの買ってなかった筈だし……もし買っていたとしたら、二十二歳にもなって何してるの? って感じだし。
「……異世界転移、とか?」
背中を嫌な汗が伝った。あり得ないでしょ、と思いつつラノベあるあるじゃんって思う自分もいる。いや、異世界とまではいかないかもしれない。どっかの田舎にワープとか……それもあり得ないんだけどさ。でも異世界よりは可能性が高いという矛盾。
現実逃避したかったのに、結局同じところに戻ってきてしまった。
「まずは兄貴を探す。いや、この場合は助けを待つほうが良いかな……?」
兄貴の心配はしていない。あの人なら急なサバイバル状態になっても死ななそうだもん。二階の窓から誤って落ちた時も擦り傷で済んでいたし。俺の分の運動神経、全部吸い取ったんじゃないかってくらい、運動神経良いんだ。(え? 俺? 俺は運動音痴ですよ!!)
幸いなことに、帰りに寄ったコンビニでお茶は買っていた。ついでにちょっと食べたくなってミニサイズの羊羹も。バッグの中にはこのノートやペンの他、カッターやハサミといった文明の利器も入っている。スマホのバッテリーを持ち歩いていなかったことは痛いが、そもそも電波がないから使えない。電源だけ切ってバッグの奥に仕舞っておこう。ぶっ壊したら母ちゃんに怒られる。
「兄貴の助けを待つ。次点で誰かに助けを求める。よっし、やるぞ、サバイバル!」
とりあえず生き残ることを目標に! 頑張れ、俺!! ……足下、スリッパだけどね!!
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