78 / 80
いつかの嘘と、答え合わせ
⑤
しおりを挟む呼吸に合わせて背中をゆっくりと叩いてると、大きく息を吐いたモアの体重がぐっと掛かった。寝たらしい。
まぁ番に、王様に、転移に……俺も大変だったが、モアはもっと大変だっただろう。
「寝ましたか?」
「あぁ。……このまま寝かせてあげてくれ」
「承知しました」
部屋の隅で様子を伺っていたエルメーアにそう聞かれ、モアをもうひと撫でしてからベッドから這い出る。ソフィは本格的に寝ることにしたようだ。俺のいなくなった隙間に陣取って、ふわぁと大きな欠伸をしてから目を閉じた。
「ソフィ、モアのこと頼んだよ。……エルメーア、あの三人はどうした?」
「客室に。陛下が隣の部屋におりますので、まずはそちらにお声がけください。私は引き続きこちらにおります。何かあればベルを鳴らしていただければ伺いますので」
俺やチビが孤児院に行く時には一緒に来ることがあるから、エルメーアとモアは顔見知りだ。それなら起きた時に俺がいなくても大丈夫だろう。
チビがいると言われた部屋は廊下を通らずに続き部屋になっていた。ノックはしないでそのまま入る。さっきの部屋もだが、こっちの部屋も家具や内装にあまり覚えがないので俺の使っている離宮とは違う場所なんだろう。
「尚志、大丈夫?」
「ん? ……うん、まぁ。はは、ちょっとはキツかったけど寝て起きたら落ち着いた」
ここにあの三人がいないってのもあるだろう。それでも心の準備をしてからならそこまで驚かないと思う。
「あいつらがうるさいからさ、一度こっちに連れて来たけど……尚志が望むならあいつらの記憶を消すことは出来る。必要なら村に行って、全員の記憶だって消せる。尚志のことを知らなければ、こうやって会いに来るとかないだろうし。っていうかなんで来たんだ……絶対にシギの馬鹿が原因だろうけど」
消そうかな、とポツリと言われて慌てたのは俺のほうだ。あの頃のような剣呑な顔つきになっているチビは本当にシギが嫌いなんだな。なまじっか顔が整っているからかなり怖い。子供の時はまだ可愛さのほうが勝っていたが、青年になったチビがすると物騒な表情にしかならん。
「チビ、落ち着け。それに記憶を消すなんて出来ないだろ? 全員を記憶喪失にさせたら生活も出来なくなるし」
「尚志のことだけ綺麗さっぱり記憶から消すんだよ。結構簡単。今までにも出来たけど、そんな簡単に来れる距離じゃないからわざわざする必要もないって思ってただけだし……いい機会だからやろうかな」
「ちょっと散歩しに行こうかな、みたいなノリは止めなさい」
転移も出来るし、チビにとってはそれくらい気楽に出来ることかもしれない。
そして、こう言っているということは……今までにもこっそりやってる可能性がある。エルメーアもバイラムも止めるなんてことはしないからな。チビの場合、俺以外のストッパーがいないのが難点だ。
「とりあえず、気になることがあるから話をしてからな。……出来れば、俺のことは覚えていて欲しいし」
この世界でなんだかんだで生きてこれたのはあの村の人たちと出会えたからだ。もしかしたら今後会うことはないかもしれない。それでも……俺って存在を覚えている人はいて欲しい。
「尚志がそう言うなら……」
「うん。でももし、俺がってことじゃなくチビに迷惑が掛かるならお願いすると思う」
そこは譲れない。ヴェルクトリ魔王国の王様だからって脅してくるような相手ではないが、チビが不利益を被るのは俺としても無理だ。
「だからそんなに泣きそうな顔をするな」
「してる?」
「してるなぁ。……不安になったか?」
見つめていると、そのまま距離が近くなって抱きしめられた。チビのほうが大きいから抱き込まれているような体勢になる。
モアにしていたようにポンポンと背中を叩いてやると、耳元で「はぁ」と溜息を吐かれた。
「ごめんね」
小さく呟かれた謝罪には何も返すことが出来なかった。
――――――――――
前回の更新から間が空いてしまい申し訳ありません!!
BL大賞、もう終わっちゃうよ!?と自分でもワタワタしております……
完結までは遠い道のりですがマイペースに続いていきますので、これからも読んでくださると嬉しいです!
期間中のポチッと応援もありがとうございます!!
0
お気に入りに追加
561
あなたにおすすめの小説
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる