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いつかの嘘と、答え合わせ

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 呼吸に合わせて背中をゆっくりと叩いてると、大きく息を吐いたモアの体重がぐっと掛かった。寝たらしい。
 まぁつがいに、王様に、転移に……俺も大変だったが、モアはもっと大変だっただろう。

「寝ましたか?」
「あぁ。……このまま寝かせてあげてくれ」
「承知しました」

 部屋の隅で様子を伺っていたエルメーアにそう聞かれ、モアをもうひと撫でしてからベッドから這い出る。ソフィは本格的に寝ることにしたようだ。俺のいなくなった隙間に陣取って、ふわぁと大きな欠伸をしてから目を閉じた。

「ソフィ、モアのこと頼んだよ。……エルメーア、あの三人はどうした?」
「客室に。陛下が隣の部屋におりますので、まずはそちらにお声がけください。私は引き続きこちらにおります。何かあればベルを鳴らしていただければ伺いますので」

 俺やチビが孤児院に行く時には一緒に来ることがあるから、エルメーアとモアは顔見知りだ。それなら起きた時に俺がいなくても大丈夫だろう。
 チビがいると言われた部屋は廊下を通らずに続き部屋になっていた。ノックはしないでそのまま入る。さっきの部屋もだが、こっちの部屋も家具や内装にあまり覚えがないので俺の使っている離宮とは違う場所なんだろう。

「尚志、大丈夫?」
「ん? ……うん、まぁ。はは、ちょっとはキツかったけど寝て起きたら落ち着いた」

 ここにあの三人がいないってのもあるだろう。それでも心の準備をしてからならそこまで驚かないと思う。

「あいつらがうるさいからさ、一度こっちに連れて来たけど……尚志が望むならあいつらの記憶を消すことは出来る。必要なら村に行って、全員の記憶だって消せる。尚志のことを知らなければ、こうやって会いに来るとかないだろうし。っていうかなんで来たんだ……絶対にシギの馬鹿が原因だろうけど」

 消そうかな、とポツリと言われて慌てたのは俺のほうだ。あの頃のような剣呑な顔つきになっているチビは本当にシギが嫌いなんだな。なまじっか顔が整っているからかなり怖い。子供の時はまだ可愛さのほうが勝っていたが、青年になったチビがすると物騒な表情にしかならん。

「チビ、落ち着け。それに記憶を消すなんて出来ないだろ? 全員を記憶喪失にさせたら生活も出来なくなるし」
「尚志のことだけ綺麗さっぱり記憶から消すんだよ。結構簡単。今までにも出来たけど、そんな簡単に来れる距離じゃないからわざわざする必要もないって思ってただけだし……いい機会だからやろうかな」
「ちょっと散歩しに行こうかな、みたいなノリは止めなさい」

 転移も出来るし、チビにとってはそれくらい気楽に出来ることかもしれない。
 そして、こう言っているということは……今までにもこっそりやってる可能性がある。エルメーアもバイラムも止めるなんてことはしないからな。チビの場合、俺以外のストッパーがいないのが難点だ。

「とりあえず、気になることがあるから話をしてからな。……出来れば、俺のことは覚えていて欲しいし」

 この世界でなんだかんだで生きてこれたのはあの村の人たちと出会えたからだ。もしかしたら今後会うことはないかもしれない。それでも……俺って存在を覚えている人はいて欲しい。

「尚志がそう言うなら……」
「うん。でももし、俺がってことじゃなくチビに迷惑が掛かるならお願いすると思う」

 そこは譲れない。ヴェルクトリ魔王国の王様だからって脅してくるような相手ではないが、チビが不利益を被るのは俺としても無理だ。

「だからそんなに泣きそうな顔をするな」
「してる?」
「してるなぁ。……不安になったか?」

 見つめていると、そのまま距離が近くなって抱きしめられた。チビのほうが大きいから抱き込まれているような体勢になる。
 モアにしていたようにポンポンと背中を叩いてやると、耳元で「はぁ」と溜息を吐かれた。

「ごめんね」

 小さく呟かれた謝罪には何も返すことが出来なかった。


――――――――――
前回の更新から間が空いてしまい申し訳ありません!!
BL大賞、もう終わっちゃうよ!?と自分でもワタワタしております……
完結までは遠い道のりですがマイペースに続いていきますので、これからも読んでくださると嬉しいです!
期間中のポチッと応援もありがとうございます!!
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