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いつかの嘘と、答え合わせ

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「あ……」

 駄目だ、と思った。これは駄目だ。年齢が延びたという本当の意味を俺は理解していなかった。
 最近は子供という日々の成長がタケノコのような存在と、魔族や森族といった十年単位で顔かたちの変わらない存在に挟まれていて気付いていなかった。微々たるものでも、三年もあれば大人だって変わるんだ。

「オンラ……」

  クラリとした意識をつなぎ止めたのは、俺の服を握りしめたモアの存在だった。何かに怯えるように、俺の後ろに半分隠れている。
 何か、声を掛けてあげなければ……そう思うのに喉がひりついて声が出ない。どうしよう、どうすれば良い。

「尚志!!」

 来客のことを知らされたんだろう。裏庭から走り出してきたチビの姿を見て、なぜだかわからないが泣きそうになる。

「大丈夫? 息、ちゃんと吸って? 尚志?」
「チ、ビ……」
「うん。大丈夫だから。……ちょっとだけ、おやすみして良いよ」

 ふわっと風が吹いたなと思った途端に、ゆっくりとまぶたが落ちて行く。「大丈夫」と言ってくれるチビにもたれかかるようにして、そのまま意識が遠のいた。

 ***

 何か温かな物が顔の近くで動いてる。それに手を伸ばしたんだが、つれなくパシリと叩かれた。

「……あれ?」
「オンラ、起きた? 大丈夫?」

 叩いたのはソフィの長い尻尾だったらしい。痛くはないし、むしろちょっとだけ気持ちが良かった。声を掛けてくれたモアはベッド横の椅子にちんまりと座って、俺のことをじっと見ている。

「モアのほうが大丈夫じゃなさそうだな。……ここ、お城か?」
「うん。チビ兄ちゃんって王様だったんだね」
「そうだよ。モア、こっちおいで」

 上掛けを持ち上げてポンポンとベッドを叩けば、少しだけ迷った後にもぞもぞとベッドに昇ってくる。出会った頃のモアは寂しがり屋で、よく俺にひっついていたことを思い出した。ソフィとモアの体温を感じて俺も少しホッとする。

「あのね……あの、さっきの人の中に…………私のつがいがいたの。オンラがねちゃってから、チビ兄ちゃ……じゃなかった。王様が帰るって言って……そしたらあの人たちもついてくって…………」
「うん」
「お城にてんい? して、そしたらチビ兄ちゃんが王様になって……オンラが起きるまで、いっしょにいなさいって……」
「そっか」

 腕枕をした体勢で、モアがポツポツと話し始めた内容をそのまま聞く。
 多分、俺が寝てしまったのはチビの魔法だろう。安眠とかそういうやつだと思われる。そして、そんな状態になればシギあたりがついていくと騒ぐのも予想出来た。
 ただモアの番というのが誰なのか。

「番って、そんなにすぐわかるものなのか?」
「……わかっちゃった。どうしよう。オンラ、私、どうしたらいい?」

 俺の胸に縋り付くモアは、小さく震えていた。
 親に捨てられた時のことなんて覚えていないほうが良い。しかし、モアはそれなりに大きかったから全部を覚えてしまっている。そのせいで孤児院で生活し始めてからも周りと一線を引いていた。
 俺に対しては比較的早くから懐いてくれたように思うが、それでも口数は少なかった。今の達者な口調なんて、あの時の俺が聞いたら「嘘だろ?」と言うくらいには。

「お父さんとお母さんみたいになるの、やだ」

 レネさんが根気よく聞き出した内容の又聞きだが、モアの両親は番同士であったらしい。そこまでは別に良いんだが子供が出来てからもお互いが第一で、端的に言えばモアはネグレクトをされていた。周囲の人間がそれに気付いて両親に忠告をしたらしいんだが、ならばとわざわざヴェルクトリ魔王国まで来てモアを捨てたんだ。

「ならないよ。なりたくないって思っていれば、ならない。それに、番だからって結婚しなきゃいけないって訳じゃないんだろう?」
「わかんない。……でも、離れるのはいや」

 一緒にいたい。離れるのは嫌だ。でも怖い。……中々に難しい問題だ。
 俺がそう思っていると、ソフィがにゃあんと一声鳴いて移動してからモアの顔を舐め始める。モフモフが俺の顔に当たっているんだが、モアを慰めているソフィに何かを言うことは出来ない。
 そんな二人の邪魔をしないように、そっとモアとソフィを撫でた。
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