異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

文字の大きさ
上 下
76 / 80
いつかの嘘と、答え合わせ

しおりを挟む

 あれから酷い目に遭った。
 転移先はご丁寧にベッドの上で、そのまま胸を揉みに揉みまくられ、抱きつかれ、嗅がれ、抱き枕よろしくの体勢で寝ることになり――それが三日続いた。日中はチビも仕事だから免除だったが、夜になったら毎日だ。
 もうおっぱいが恋しいと泣くような年齢じゃないだろう。
 しかし、今回の分院に関して一番の功労者はチビなのだ。俺は案を出しただけ。チビとしても気にはなっていたらしく、今なら他のことも落ち着いてるしやっちゃおうと言ってくれた。最高権力者だし、言うのもやるのも簡単……ではない。どちらかというと周りとの調整のほうが忙しそうだった。
 文句だけ言う奴というのはどこにでもいるもので、そういう者たちからすれば国営の孤児院なんて無用の長物。むしろ潰せってなモンだ。俺の意見を採用したことで「愛人の政治への越権行為」とも言われた。いや、愛人って……どこの誰の話なんだか。
 そんな奴らとの調整やら防波堤やらなんやらかんやら、やってくれたのはチビである。そこを考えると抱き枕もしょうがないかと……思う俺に呆れていたのはエルメーアだった。

「はー……癒やされる」

 モチモチぷにぷに。指の間から溢れるようなお肉と肌つやのコラボレーションは、最高の一言に限る。

「もーぉ、や! だめ!」
「そういうなよーレクス、もうちょっとだけ……」
「だぁあめ!!」

 指先にぷりっとした感触を残して、さっきまでイヤイヤながら腕に収まってくれていたレクスが逃げてしまった。確かにちょっと触りすぎたとは思うが、俺だって癒やされたいんだ。若いエキスが欲しい。チビだって若いのに、俺から何かを吸い取っている気がする。

「オンラ、やりすぎよ。みんなにげちゃってるじゃない」
「あぁ、モア。……ちょっとここに座らないか?」
「レディになんてことをいうの! おとめのやわはだは、安くないのよ? いくらオンラでもゆるされないわ」

 そうだと同意するかのように、モアの腕の中で飼い猫のソフィが「にゃあ」と鳴いた。
 モアは猫の獣族だ。だからかわからないが、ソフィとも通じ合っているような雰囲気がある。口が達者で、今言った〝乙女の柔肌〟なんて言葉どこで覚えてきたんだ。

「まだ三日だけど、住んでみてどうだ?」
「もんだいないわ。……といいたいけど、レクスたちはおちつかないみたいだった。でも私は、いまのおうちがすきよ」

 言いながらふわりと笑ってくれて、おべっかなんかじゃない本音だとわかる。そう言ってくれると揉まれた甲斐もあったみたいな気持ちになるな。
 そのままこの三日の間に起きた色々を教えて貰っていると、通りのほうから「オンラーぁ、どこー?」と俺を呼ぶ声がした。

「チビが呼んでるのかな?」
「チビ兄ちゃんなら、まだうらにわで走ってたわよ。もうちょっとかけっこが続くんじゃないかしら?」

 二人で首を傾げながら孤児院の門まで歩いて行けば、お遣いに出掛けていた年かさの少年が俺に向かって手を挙げる。

「この人たち、オンラーシって人を探してるんだって。それってオンラのことだろ?」

 門から覗き込むようにこちらを見る男たちに、見覚えがあった。

「坊主、案内ありがとな! あいつで合ってるわ! ――しっかしオンラ! お前変わらなさすぎだろ!!」
「お久しぶりです。オンラさん」
「ご無沙汰しております」

 シギ、レオニダス、デーメル……それぞれが別れた時よりも年を重ねた姿で立っていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

あなたへの道

秋月真鳥
BL
人間よりも長い時を生きる妖精種の朱雀(すざく)は、山でひっそりと暮らしている。 両親を大黒熊に殺された赤ん坊、青慈(せいじ)を拾った日から、朱雀の生活は変わっていく。 育っていく青慈と、生活に加わる女性たち。 そこに赤ん坊の紫音(しおん)も加わった。 青慈は勇者、紫音は聖女と判明して、朱雀は魔王から二人を守るために努力する。 これは、小さな青慈が朱雀の心を掴むまでの、あなたへの道。 魔王は軽く倒しつつ……。 ※一章で魔王は倒します。 ※三章から恋愛パートです。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

処理中です...