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現在過去未来、それぞれの後悔
⑬
しおりを挟む話の流れでなんとなく把握をしていたが、天井に穴を開けた男はアーディトリア竜皇国の皇帝だった。まさか、そんな大物が許嫁候補とか……説明されたイルリオナちゃんが卒倒しそうになっていた。
ちらりと聞こえてきた準成人の姿についてはこっそりファディーノさんに説明された。ベルグリッタ様に捨てられたのが原因で、成長が止まってしまったらしい。一応それもハウシャン皇帝には説明するらしいが……センシティブな内容だから、あまり本人には言わないようにとも言われた。
俺としては心の中で〝ちゃん〟付けで呼んでいた女の子が、二百歳を超えていたのが恐れ多いような申し訳ないような……。
「好きに呼んで良い。私は親父殿と母上としか殆ど交流していないから……」
ハウシャン皇帝から一時的に離れるために、あの森に引き籠もっていたんだから仕方ない。ファディーノさん関連で森族に会うことはあったらしいが、それだって交流を深めるまでは出来なかったんだろう。
お言葉に甘えてイルリオナちゃんと呼ばせてもらったけれど、はにかむ彼女にほのぼのとしていたら何故かチビに脇腹を抓られた。
葬儀は、ベルグリッタ様とシャンテさんの合同となった。
あの時のバタバタが落ち着いて、あれ? そういえば……と探したところ、ベルグリッタ様の離宮の小さな椅子に腰掛けて、シャンテさんは息を引き取っていたんだ。
ファディーノさん曰く、もうずいぶんと前にシャンテさんの寿命は尽きていたそうだ。それでも生きていたのは、ベルグリッタ様が行なった術のせいだった。
アーディトリア竜皇国に伝わる秘術で、〝不別離の誓い〟というらしい。竜族は長命な種族だが婚姻相手はその人生の中でたった一人。しかも同種族や同年代で見つかることは少ない。そういった時に使われる術で、術者の寿命に相手の寿命を紐付かせる。術者が死ぬと、掛けられた相手も死ぬ……代わりに術者が死なない限りは生き続けることになる。
「一応、相手の同意を得てってのが大前提だね。それがなければ掛けられない術だし」
基本的にはアーディトリア竜皇国から門外不出の術らしく、ベルグリッタ様が知っていたのはファディーノさんの蔵書から知り得たと思われた。森族は知識欲が豊富らしいが、ファディーノさんはその中でも群を抜くそうで……その術も個人での研究用に控えていたとのこと。
「なんだかなぁ……」
そこまでする忠義や忠誠は、現代日本で過ごしていたら遠い感覚だ。同意の上とはいえ、それを相手に伝えるのだって覚悟がいる。ベルグリッタ様とシャンテさんのどちらが言い出したことかはわからない。その気持ちも永遠にわからないままだ。
しかしベルグリッタ様が前王逝去の後も王宮に留まった理由はわかった。俺の……いや、どちらかと言えばこれも前王の関連か?
ずっと見ていた変な夢は前王の執念から発生していたらしい。日本風に言えば祟っていた、というのが近い。ベルグリッタ様はそれに気付いていて、ずっとこの王宮で押さえ込んでいたんだそうだ。逝去から二十年も。
「それを考えると、良かったのかもしれないけど」
ベルグリッタ様が一人きりじゃなくて……。
俺が夢を見るようになったのは、そんなベルグリッタ様の力が弱まったせいだろうとファディーノさんが予想していた。最終的には最後の力でもって怨霊を道連れにして死ぬつもりだったようで……ギリギリ間に合ったから、ベルグリッタ様はちゃんと天に昇ったと教えてくれた。
チビも気付いてはいたらしい。というかむしろ積極的に消滅させようとまでしていたそうで、それは止めてくれと他ならぬベルグリッタ様に言われて様子見をしていたと言われた。結局ファディーノさんが滅してしまったから、彼女が無理をした意味があったのだろうか。
前王のせいで不遇な境遇になったのに、ベルグリッタ様は何を考えて……?
「尚志、まだいろいろ考えてるの?」
葬儀が無事に終わって早三日。あのゴタゴタがあってからは七日が経った。
ずっと思考が堂々巡りをしている。
「なんでだか添い寝が復活してるし……」
「尚志も俺もよく眠れる。Win-Winでしょ?」
ニコリと笑うチビだが、重大な事実を俺に隠していた。
「まだ納得はしてないんだが」
納得をしていなくても、もう組み込まれてしまっているから仕方が無い。それはわかっている。わかっているが、考えてしまうのだ。
「だって、尚志と離れたくなかったんだもん」
「同意が必要って話はどこにいった」
「あれ、言葉にして〝はい〟〝いいえ〟じゃなくても良いんだよ。それに近いことを考えてくれれば効力は発揮するから……竜族も知らないことだけど」
皆でいろいろと話している時に、俺の寿命がえらく伸びていることが判明した。いやファディーノさんやハウシャン皇帝は一目で気付いていたらしいが……ともかく、俺は人の寿命から外されているらしい。
原因はチビ。
この世界で産まれた時に俺と〝不別離の誓い〟を勝手に結んでいた。そりゃ確かに、この子がいるんなら死ねないなぁなんてことを考えた覚えがある。でも、まさかそれが、その誓いの同意に当たるだなんて……。
「お前、それもあって村への里帰りを許可してくれないのか?」
「……」
「そういうことなんだな。……はぁ」
元々から童顔の自覚はあった。三十を超えても、服装によっては二十代に見えることもわかってた。その頃から顔が変わっていないとか……。
「なってみたかったな、ロマンスグレー」
ショックを受けているのがその程度のことなのだから、思った以上に受け入れてしまっているのかもしれない。
――――――――――
感想で質問いただいた尚志の年齢ですが、あちらでお答えした見た目年齢とちょっと変更いたしました。
設定上では「宿した時」と思っていたのに、でもあの時はただの脂肪だと思っていたからな??と設定をコネコネし直しました💦
異世界転移をした時の年齢(三十二歳)(でも童顔)です!
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