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現在過去未来、それぞれの後悔

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 連れて行かれたのは滝の近くに建てられた家だった。小屋というには大きく、屋敷というには小さい……俺やチビが暮らしていたあの家よりは大きいくらいか。建てられた場所といい、なんとも落ち着く感じだった。

「あれ? でも、なんか滝の音が遠い……?」
「あぁうるさいからね。家の中は遮音の魔法をかけてあるんだ」

 日本なら遮音性の高い素材でどうこうするのに、さすが魔族に次ぐ魔力を持つ森族……常時展開なんて大変そうなことをなんでもないように言い切るのが凄い。
 しかし、その人が被っていたフードを脱いだ途端に違う驚きが口から漏れた。

「え? 耳……」

 森族はエルフというチビの説明通り、ヴェルクトリ魔王国で出会ったのは耳が長い人だった。こう、人の耳の上側が伸びている感じだ。耳の場所に違いはない。

「あぁ、これね。森族なんだけど、僕は森族と獣族の子供なんだよね。姿は獣族なんだけど、寿命と魔力だけは森族って感じかな」

 それが希有なことだとはわかった。寿命が大きく違う種族同士は、基本的に子が出来ないとされている。例えば、森族と魔族では子が出来る。土族と人族でも子は出来る。しかし長命な森族や竜族と短命な人族や獣族では、寿命が違い過ぎるので子は出来ないと教わった。

「どこにでも抜け道はあるんだよね。キツネの耳はよく聞こえるから便利だよ。まぁ聞こえ過ぎるから遮音してるんだけどさ」

 頭頂部でピルピルと動いている耳は、本人の言う通りキツネのそれだ。ついでにこっちもと見せられたのはキツネの尻尾……言われなければ腰に巻いたアクセサリーの一種にも見えるが、左右に揺れるように動いているから確実に違う。

「そのあたりを説明しても良いんだけど、ひとまず順番に片付けようか。きみ、随分とおかしなものが憑いているしね」

 ついている、と言いながら肩を叩かれた。なぜだかそれで、体がフッと軽くなった気がする。

「え? ついてる、ってまさかそういう……?」
「中々な大きさのやつかな。それもあって、ベルグリッタはきみを飛ばしたんだろうねぇ」
「……あの女の話なら、聞かない。あとは親父殿が好きにしたら良い」

 渋々といった雰囲気をずっと出していたイルくんだが、ベルグリッタ様の名前が出た途端に顔が明らかに変わった。嫌悪感や憎しみとも取れる表情だ。

「そうも言ってられないんだよ。えーっと、きみの届け物を受け取っても良いかな? それ、イル宛ての荷物だから」
「私は! っ……知らない! いらない!!」

 なんというか、このまま素直に聞いていてもいいのか悩むような……込み入った話に目が泳いでしまう。
 一応、そんな俺も気に掛けてくれて「ごめんね」と言ってくれるけれど、それすらも嫌だったらしくイルくんは居間から出て行ってしまった。

「……はぁ。あの子は、本当に…………ひとまず、僕が代わりに受け取るよ」
「あ、じゃあ……どうぞ」

 しっかりと畳んでおいた白布がテーブルに広げられる。その刺繍を見る視線は、イルくんとは逆に何かを懐かしむようなそんな感じだった。

「うん。相変わらず……見事な腕前だね。届けてくれてありがとう。えーっと……あ、そういえば自己紹介もしていなかったな。僕はファディーノ。さっきの子はイルリオナ、僕とベルグリッタの娘だよ」
「え!?」

 イルくんではなくイルちゃん……だった。いやその前に、ベルグリッタ様の子供!?

「もう年頃なのに、いまだにあんな格好でね……って、もしかして何も聞いていない?」
「えぇ。はい……全く……」

 ベルグリッタ、あの子も相変わらずだねぇと笑っているけど、俺としては笑い事じゃなかった。
 何も知らずに飛ばされて、イルリオナちゃんに不審者として矢を射かけられ……お駄賃がもう食べてしまったクッキーだけじゃ割に合わない。

「じゃあとりあえず、順番に説明していこうか。あぁその前に、長くなりそうだからお茶でも淹れよう。――僕としても気になるからね。異界からの渡り人くん、隠し事はなしだよ」

 そう笑うファディーノさんの笑顔に、なぜだか背筋がぞくっとした。
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