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現在過去未来、それぞれの後悔
⑤
しおりを挟む水の中のような浮遊感、グッと体に掛かる圧。白い光といい、これは何度か体験した転移魔法だ。
ベルグリッタ様がどこへ俺を飛ばそうとしているのかはわからない。しかし、このうねりに抵抗しないほうが良いことは知っている。そのまま重力を感じるまで目を閉じて、ようやく開いた時には知らない場所だった。
座ったまんま、地面に降りることが出来て良かった。中途半端に高い位置だと尻から落ちることになったし、受け取った布に汚れをつけていたかもしれない。
「さて。……どうしたもんかな」
口に出しても現状は変わらないが、わかっていても出したい時がある。
見渡す限りの森だ。山かもしれない。地面の舗装はされておらず、獣道も見える範囲には見つからない。草木の植生は俺がいたあの村とも違う。
届け物と言っていたから、ここで誰かに会えるのだろう。その相手が向かってくるのか、俺が探し出さなきゃならないのかはわからない。
もうちょっと詳細を教えて欲しかったな、ベルグリッタ様。
「よっこらせ……、っと」
一声出してから立ち上がった。
知らない場所でウロチョロするのはよくないが、ここで待っていても会える可能性は低い。それなら道を探してしまうほうが良い。探し人? に会えなくても、誰かには会えるだろう。
まぁそのまんま獣と出会う可能性もあるから、少しばかり大きな音をわざと立てながら移動する。
数分歩けば、道はなくともどこかから水音が聞こえた。
「ふむ?」
水の近くには生活がある。それはあの村で知った情報だ。
何かを育てるにも、生活するにも、川なり滝なりの近くが良い。実際あの村の近くには川が通っていたし、井戸を利用する以外にも川から用水路を引いたりもしていた。水、運ぶの大変だしな。
耳を澄ませて音の方向を探る。あっちかな、と当たりをつけて歩き出そうとして……ふと違和感を感じた。
と、同時に目の前を何かが飛んでいった。
「うん??」
飛んでいった方向を見ても、何が飛んできていたのかはわからなかった。
逆方向、つまり飛んできた方向を見たら子供がいた。
「貴様、ここが禁足地と知りながら転移してきたのか!!」
「……えーっと?」
真っ赤な髪を一つに結んで、目をキリリとつり上げた……男の子、だよな? 初めて会った時のアランやヨアンくらいの年齢だ。
そんな子に、弓矢を向けられている俺。
「もしかして、さっき目の前を飛んでいったのって……」
矢だったのかもしれん。あの時、立ち止まって良かった。
「答えろ!!」
答えるも何も、矢が目の前を飛んでいった恐怖を時間差で感じて、背筋が凍っているオッサンに無茶を言わないで欲しい。
「……とりあえず、弓矢を向けないでくれないか? 見ての通り、俺は人族でこの通り丸腰だ。逃げも隠れもしない」
しない、というか出来ない。下手に騒いで殺されたら嫌だし、この布が汚れてしまうのも嫌だ。
「あ、そうだ。この布を届けに来たんだった。届け先はきみかな?」
「知るか!!」
相変わらず怒っているけど、弓を向けるのは止めてくれた。「なんなんだお前は」と言われたが、そう言われても困る。自己紹介をしようにも、俺の立場って大々的に言うのは憚られる内容なんだよな……ヴェルクトリ魔王国の城下町でも内緒にしているし。
チビも姿変えの魔法でお忍びしてるくらいだからなぁ。
「最初の質問に答えろ。お前は、ここが禁足地と知っていたのか」
「そもそも禁足地がどこだか知らない……かな」
世界地図の勉強でも出てきていない。
そして、禁足地らしいのにこの子がいるのも不思議だ。俺のイメージだと決まった人間以外は立ち入っちゃいけない場所……となると、この子は許されている子なんだろうか。
そう考えると、お届け先はこの子だと思うんだが……本人は知らないと言っている。
「ここ、他にも誰かいるのかな?」
「はぁ?」
「いや……見たところ、きみ一人と言うのはおかしいし。どなたか保護者の方がいらっしゃるのかな? と思った……んだけど……」
話せば話すほど、さらに鋭い視線を向けられてしまう。
「お前に話す必要はない。早く立ち去れ」
「イル、そう邪険にするものではないよ。――やぁお客人、こんな辺鄙なところまでよく来たね。僕は歓迎するよ。そして……うちの子がすまないね」
そう声を掛けてきたのはどこからか転移をしてきた……男? フードを被っていてハッキリとはわからないが、〝うちの子〟という割には年齢がそう違わないような気がする、中性的な人だった。声は低いがハスキーボイスと言われたら……いやでも……。
「なんだか変なところで悩んでそうだから先に言っておくけど、僕は男でこの子の父親。人族から見たら若く見えると思うけど、これでも千年近く生きていてね。まぁ森族ってことなんだけど……森族を見るのは初めてかい?」
俺の悩みを的確に言い当てたその人は、「まぁこんなところで立ち話もなんだし、僕たちの家においで」と笑いながら言った。
隣で息子さんがものすごく睨んでいますが、良いんですか?
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