異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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現在過去未来、それぞれの後悔

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 ふわふわと額あたりを撫でる感触に、意識がふっと浮上した。

「チビ――……?」

 こんなことをするのはここ最近ではチビだけだった。
 いや、過去を振り返ってみても付き合っていた彼女が戯れにしてくれた数回の記憶だけで、しかもここまでの安堵を感じたことはない。

「起きた? 陛下じゃなくて申し訳ないわね。少しうなされていたようだったから……」
「……べるぐりった、さま?」

  あぁそうだ。おやつ休憩から再開した刺繍だったけれど、俺が眠気に負けたんだった。あまりにもうつらうつらと舟をこいでいたせいで、ベルグリッタ様とエルメーアから「少し寝てろ」と言われて……

「すみません。俺……本気で寝てたみたいで……」

 まだぼんやりと霞む頭を覚醒させるように、ベルグリッタ様の細い指がピシリと額を売った。音だけは鋭かったが、痛みはない。

「構わないわよ。でも本当に、早くおチビちゃんと仲直りなさい。しようがない子ね、二人とも」

 困ったことに、チビと寝なくなって感じたのが寂しさだけじゃないのだ。
 眠りが浅い。
 ようやく眠れても変な夢を見続けているようで、起きた時の疲労が酷い。
 今のはうたたね、というには本気の熟睡だったが……それだって久しぶりの感覚だった。

「貴方が寝ている間に、私のこれも完成したのよ。久しぶりの大判だったから、思ったよりも時間が掛かったわねぇ」
「……すごい、ですね。俺には刺繍はよくわからなけど、それでも凄いことはわかります」

 あの村では触ることも見ることも出来ないような、本当に真っ白な布一面に、同じく真っ白な糸を使っての刺繍だ。糸の光沢で判断するしか、その縫い取りを見ることは出来ない。。
 ひし形の頂点に竜族のモチーフ、時計回りにして森族、魔族、土族のモチーフが縫い取られている。それら全てを繋ぐように蔦バラの刺繍が絡んでいて、布の四隅にはこれまた吉兆を祈るモチーフが並んでいた。
 はっきりと言おう。
 細かい。ものすごく、細かい。
 布のサイズは大判のバスタオルくらいだが、それ全体をみっちりと刺繍が埋めているとかどういうことだろうか。しかもランダムに見える蔦バラにも決まった方向があるらしく、そうやって縫われているからこそ意味があるんだそうだ。
 エルメーアはそれぞれのモチーフを単体で縫えるようになったらしい。どう頑張っても俺には無理。

「これ、どういう意味があるんですか?」

 ふと気になってそう聞いたがベルグリッタ様は「ふふふ」と意味深に笑うだけで、尚且つその大作を俺に押し付けてきた。ポンと、気軽に。
 手は汚れていない筈だが、真っ白な布に手垢が付いたらと思うとおいそれと触れない。すぐにソファーに座ったままの膝の上に置いてしまったが、これをどうしたら良いのだろう。

「意味は行った先でわかる筈よ。――じゃあ、これのお届けお願いね」

 ニッコリとそう言われて、聞き返す前に視界が真っ白に塗り潰された。
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