61 / 80
現在過去未来、それぞれの後悔
②
しおりを挟むとはいえ、だ。
そこから数日経っても毎朝の吐き戻しは終わらなかった。自分でも憔悴していってるのは自覚しているし困ってもいるが、問題はチビである。
今までだって同じベッドで寝ていたが、輪を掛けてベッタリとくっつくようになってしまった。横向きで寝ている俺を抱え込むようにして、ついでに俺の腹に腕が回るようにして……申し訳ないが胃を刺激しないで欲しい。
それが毎朝のゲロに繋がっている……ように考えた俺は、少しの間は別々に寝ると宣言したんだ。
まぁ少しは親離れをして欲しいという親心もある。エルメーアには「意味がない、むしろ迷惑」と言われてしまったが、どういう意味かは教えてくれなかった。
「アッハハハハハ――――……なに、それ、そんな……寝、寝ゲロが原因で……そんな、ひど……くくっ」
目の前で大笑いをし、ついでに引きつけまで起こしかけている二十代後半に見える女性は、なんと前王の奥様。妃殿下。お妃様。
立場に見合うような見た目の〝おしとやか美人〟なのに、今はただただ残念なことになっている。こっちのほうが素らしいので、中身は〝豪放磊落〟ってことなんだろうな。
「ベルグリッタ様。――――……笑いすぎです」
本当に。
寡婦という不遇の立場を覆す勢いで笑い続けているベルグリッタ様と出会ったのは夏の終わり。
早いものでもう二ヶ月くらい前か。
相も変わらずに絡んでくるお嬢様ズ、そしてそんな女性陣に追随したのか男どもからも絡まれるようになった頃だ。
そいつらを避け続けている内に離宮エリアの外れのほうまで歩いてしまった俺が、偶然この離宮を見つけたのが始まり。
離宮エリアは本当に広い。居住地にしてるところからほぼ動き回らない自分のせいでもあるが、こんな外れに人が住んでるだなんてエルメーアも知らなかった。
いや、話としては聞いていたらしいが、その当人に会うこともなく住んでる場所も知らないためにホラだと思っていたらしい。
まぁ確かに、こんな外れに前王の奥さんがいるなんて思わないだろう。
しかもこの離宮、他の離宮に比べてコンパクトというかこじんまりとしているというか……本人は「実家のなくなった居候なんだから、このくらいがちょうど良いのよ」と笑っていたが、実家残っているからな。もっと言えばそれなりに影響力のある人だし。
前王が逝去した後も実家に帰りたくなくて、バイラムを脅してここを間借りするようになったらしい。
良い離宮なんだけどなぁ。青いとんがり屋根が特徴的で、部屋数も少なくて、その部屋も日本人が許容できる広さで……ぶっちゃけ自分の離宮よりも落ち着く。
少々家具や壁紙が乙女チックだが、女性の部屋だとすれば許容範囲。
ベルグリッタ様は裏表のない人だし、離宮の雰囲気も良いし、気付けば頻繁に訪れていた。
「まさかそんな理由で一緒に寝るのを駄目って言うなんて、驚きよぉ。おチビちゃんも可哀想に……あぁ、この場合はバイラムあたりが大変かもしれないわね」
そう言いつつコロコロと笑っているんだから、本当に可哀想だとは思っていないに違いない。
バイラムよりも八十歳ほど上らしく、魔族としてはかなり高齢の筈だ。見た目じゃわからないけど。
なのであのダンディなバイラムですら、ベルグリッタ様にかかれば子供扱いだ。チビなんて赤子扱い。一応、対面している時は「陛下」や「クロムディオ様」と呼んでいるので、チビ呼びは俺相手の時限定だけど。
「でも貴方……夢見がどんどん酷くなっているんじゃない? 隈、濃くなってるわよ」
ここと自分の目の下をトントンと叩きながら、ベルグリッタ様が呆れながらそう言った。
「そう、なんですけどね……」
かと言って、同じベッドで寝るのを解禁するのも違う気がする。今まであったぬくもりがなくなって、少しだけ寂しく思っているとか……親の矜持として気付かれたくはない。
まぁ寝る場所を分けようと宣言した際に、少々喧嘩別れっぽくなったのも原因の一つなんだけどな。
「夢見のほうはもうすぐなんとかなる筈よ。……だから、早く仲直りしなさいね」
ベルグリッタ様の〝母〟を感じる微笑みに、俺は何も言い返せずに頷いた。母なんて、身近にいた存在ではないので……もしかしたら俺の願望かも知れないけれど。
0
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる