異世界転移と同時に赤ん坊を産んだ俺の話

宮野愛理

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この世界は皆噂好き

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 ここで暮らすにあたって、エルメーアにもチビにも、なんならバイラムにも耳がタコになるくらい言われたことがある。

 ――魔族の見た目と年齢を同一視するな。

 寿命が四百年ほどある魔族は、人族とは違った成長をする。
 生まれ落ちてから暫く……十代半ばから三十手前くらいまでは人族と同じように成長する。
 成長の止まった年齢が本人の気力・体力・魔力の最高状態で、それからは十年に一つ歳を取るくらいしか老化しない。
 体力や魔力が完全に衰え始めると、見た目のほうも加速度的に衰えるそうだ。
 五十代に見えたバイラムも実際の年齢は四百歳近い。「まだまだ元気ですよ」と笑っていたが、これからどう変わるかは本人にもわからないだろう。
 先の話は置いておいて、問題は〈見た目と実年齢の差が激しい〉と言うこと。

 更に困るのが、姿変えの魔法だ。

 髪や瞳の色を変えることは勿論のこと、見た目の年齢操作――つまり、若者にも年寄りにもなれる。
 実際の年齢や性別と著しく違う姿は魔力の消耗も激しく、日常的にはあまりしないと言われたがそれも〝絶対〟ではない。
 特に女性は〝美しさ〟として若々しい姿でいたいと願い、多少の無理はするらしい。

 そういうものなのかな。
 いつも横にいるエルメーアに姿変えしてるか聞いてみたら「どちらだと思います?」と逆に聞いてくるし、俺は何を信じれば良いのか。

 そしてもう一つ難しいのが、この国での俺の地位。
 チビは頂点なのは間違いないのだが、その次に来るのは俺だ。……なんて恐ろしい。

 いや、国王の親なら向こうでは〈上皇〉とか〈先帝〉と言われるし、偉いのは間違いないと思う。
 でも「それが貴方です」と言われて、「はい、わかりました」と言える一般人はいるだろうか。わかった上で偉そうな態度は取れるだろうか。


 なんでそんなことを改めて考えていたかと言うと、歩いている通路の先にキラキラしいお嬢様方が見えたからだ。

「あら。ヒサシ様、こちらにいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「この先は訓練場しかありませんわよ」
「嫌だわ。陛下のご寵愛を受ける方にしては、お考えが足りないのではないかしら?」

 チビの正妻の座を狙うお嬢様三人衆。
 あらあらまぁまぁオホホホホ――と目配せしながら笑い合う姿は華やかなのに、どこか冷え冷えとしている。
 今のところ対象者は俺だが、彼女たちの誰か一人が〝ご寵愛〟となれば一転して攻撃先を変えるのだろう。

「ごきげんよう。クレマリイ様、ニアミーナ様、コルドレア様――……散策のつもりが道を間違えてしまったようです。未だに不慣れなものでして」

 あんまりにも絡まれるから、名前と顔を覚えてしまった。
 本当はその訓練場に用事があるのだが、それをそのまま言えば「どなたとのお約束なの?」と絡まれることは必須である。
 まさかこんな風にネチネチ言われる立場になるなんて、人生とはわからないものだ。

「まぁ……今までお住まいだったところに比べれば、ここは複雑かもしれませんねぇ」
「お辛ければ、私たちからも陛下にご進言いたしますわよ」
「やはり慣れた場所の方が住みやすいですものね。私たちには残念ながらわかりませんけれど……」

 あぁ、うん。これは「さっさと田舎に帰れ」って言いたいんだよな。
 十代後半から二十代半ばの若者に四十のオッサンが絡まれる図は傍から見ればオヤジ狩りのようだが、実年齢は俺が一番若いと言う摩訶不思議。

 こういう時の対処方法を教わっているが、上手く出来た試しがない。
 ペコペコしないようにするのが精一杯。
 男相手はまだマシだが、女性――と言うか、見た目が女の子と言うのは苦手だ。どうしても見た目に引き摺られてしまう。
 強気にもなれない。
 下手にも出れない。
 斜め後ろにいるエルメーアの怒気を感じながら、ただ無心で時間が過ぎるのを待つ俺に救世主ヒーローが現れるのはそれから暫く経ってからだった。
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