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チビの正体と自分の役割
④
しおりを挟む飲めない俺を尻目に、あいつらはホロ酔い程度で早々に帰っていった。
シギだけだと「もうちょっとー」とか言ってダラダラ帰りたがらないのだが、今回はデーメルが「小さいお子さんがいらっしゃるのですよ!」と引っ張って行った。
デーメルがいると楽だな。
因みに、泊まりは許したことがない。時計がないので細かい時間はわからないが、ある程度の時間を過ぎるとチビが暴力に訴えて追い払うからである。
普段も容赦がないが、そういう時は本当の急所を狙う。――つまり、股間。室内なら大体座っているか寝転がっているかなので、小さいチビでも余裕で足蹴に出来る。
見ているこちらも痛い。
自分の誕生日は何も変わらなかったが、子供の誕生日は何かが違う気がして不思議だった。
そう思いながらいつものストレッチをしていれば、チビがモゾモゾと起き出してくる。
「おはよう、チビ。そして誕生日おめでとう」
朝イチのトイレを済ませた後、寝癖の付いた髪を撫で付けながらそう言うと相変わらずの無表情で頷いた。
それに思わず笑ってしまう。俺がどう思おうと、チビとしては何も変わらないのかもしれない。
「お前が、これからも元気に育ってくれることを願うよ。――ってことで、今日からパンツだぞ。……どうだ? 苦しくないか?」
紐で縛るタイプなので締め付け過ぎなければ問題はない筈だが、あまりに緩いと落ちてしまう。様子を見ながら穿かせてみたが、問題ないらしい。
心なしか得意げに見える。……ただパンツを穿いただけなのだが。
「他の洋服は……来年までには縫えるようになるつもりだ。だから、今日はこのワンピースな」
シンプルなワンピース。しかし子供用のコレですら満足に縫えなかった。始めたのが遅い自分のせいでもある。
マリッサが塗ってくれたいつものワンピースの裾に、チビの瞳の色に合わせた紫の糸で刺繍を入れた。
成長を願う蔦と葉の刺繍――だったけれど、葉っぱをロザ婆さんがやってくれたので、蔦とのバランスがおかしい。蔦なのか並縫いなのか、微妙なところだ。
それでも、その刺繍を撫でて少しだけ目を細めたチビは、気の所為でも何でもなく嬉しそうだった。
「今日は仕事がないからな。村長のところに顔を出した後は、お前のやりたいことをやろう。まぁ……子供らに絡まれてそれどころじゃないかもしれないけど」
そんなことを言ってしまったせいだろうか。
村長の家から出た途端に子供たちに囲まれてしまった。
五歳の誕生日を迎えた子供は村長に挨拶をしに行く決まりがあるので、そりゃあ待つのも簡単だ。しかも村長宅の隣には、あの公民館があるのだ。
わざわざその扉を開けっ放しにして、俺達が出てくるのを覗いていたらしい。中からは爺さん婆さんが手を振っていた。
「ちび、たんじょびおめっと!」
「おめでと!」
「オンラ、今日は私たちも川に行きたい!」
「泥あそびしよ! チビ!」
「おだんご作ろっ! ツヤツヤなやつ!」
わらわらと好き勝手に話す子供たちだが、その引率が俺だけと言うのは無理だ。
「ラウ爺、シギ、手伝ってくれ……」
「そうじゃな。――ほれほれ、川はお前さんたちにゃまだ早い。うちから盥を出すから、ここの井戸で遊ぶぞぉ。泥遊びもここで出来るからな」
「オンラ、お前の家からも盥を持ってくるよ。チビと一緒にここで待っててくれ。他に何か必要なモンはあるか?」
シギにそう聞かれたが特に無いと答えて、子供たちに向き合った。
それぞれがワクワクとした顔を隠していないが、その中でチビだけは「仕方ないから付き合うか」みたいな表情だ。
遊び始めれば何かしらで楽しんでいるのに、そこに至るまでは相変わらずクールである。
「おっし。じゃぁ皆、あっちで服脱いでこい! じーちゃんとばーちゃんに手伝って貰えよ!」
俺の掛け声に「キャー」とか「ギャー」なんて叫び声を上げて、子供たちは公民館へと走っていった。
幸い公民館には着替えも置かれている。勿論パンツの替えもあるが、このテンションだと大惨事になりそうだ。
――……チビのパンツだけは綺麗なままを死守しよう。
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