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チビの正体と自分の役割
②
しおりを挟む子供たちが元気に川遊びをしている頃――……俺は女の園に紛れ込んでいた。
「プフッ、何度見てもオンラーシが繕い物をしてる姿はおっかしいわ!」
「ねー! こんなおっきな体を縮こまらせてさ!」
「ほらぁそんな風にすると体が痛くなるわよ。……あ、縫い目が荒い。ここから解いた方が良いわ」
「……これじゃ駄目か?」
「繰り返した分だけ成長するんだから、頑張んなさいな」
「はい……」
縫い物、繕い物、手芸、裁縫……どんな呼び方でも良いが、そう言った〝針仕事〟は村の女性陣の仕事である。
そして自慢じゃないが、俺は家庭科の授業以来その手のものはやったことがない。
ボタンの付け直しなんかは、職場のおばちゃんがやってくれるのに甘えていた。
こちらに来てからもマリッサを始めとする〝親切なお母さんたち〟が助けてくれたので、それに甘えていたのだ。
パンツも上着も、お母さん作である。俺のお母さんではないけれど。もっと言えば、俺はそのお母さんと歳が変わらないけれど……
ただ、それに甘え続けるのも終わりにしようと一念発起――……したから今、ここに紛れ込んでいる。
理由はもうすぐ五歳になるチビの為だ。
こちらでも五歳の誕生日は特別な意味を持つ。
死にやすい〈神の子〉から丈夫な〈人の子〉になるお祝いで、「これからも元気に大きくなるように」と願いを込めた贈り物を用意する。
俺が用意するのは〈下着〉。
誕生日プレゼントがパンツと言うのは申し訳ないが、新しい布を使ったパンツは贈り物としてポピュラーなのだ。
何故かと言えば、下着の類は古着を解いた布で作るからである。
それもあって、子供たちは遅くても五歳でパンツデビューをする。まぁそれ以降も継続して穿くかどうかは、アランのように個人差があるけど。
「それで? オンラーシはどれを選ぶんだい?」
「ん? どれって、何がだ?」
「シギ、商人、後は……まぁ他の、ハッキリと言ってこないのも含めてさ。伴侶はどうするんだい?」
「はぁ!? ……ッテェ! ――ちょ、変なことを言うなよ、マリッサ!」
「はい、ここやり直しね。でもオンラ、皆も気になってるのよ?」
「そうそう。うちの亭主だって気にしてるんだから!」
俺がプチプチと針を進める横で、慣れた女性陣はサッサカ縫っている。そして手の動きに負けない勢いで口も動かしている。
話している内容は井戸端会議と変わらないが、男子禁制の屋内なので内容が過激になることも多い。
作物の収穫の話をしていたかと思えば、次の瞬間には旦那のセックスがねちっこくて困る話とか……俺と言う異分子がいても気にしないし、むしろ意見を求められる。
「亭主って……それ手伝いの人間が減ると困るってだけだろう」
「いやぁね、ちゃんとオンラの幸せも考えてるわよ」
「そう思うなら、俺が男のところへ嫁に行くって部分から訂正してくれ。――俺は嫁さんが欲しいんだ!」
「えぇえ?」
「……わかってるよ、この村じゃ無理なのは」
「いや、うん……無理じゃないと思うわよ? アンナとか、オンラのお嫁さんになるって言ってるし」
「そのアンナは十歳だけどな!?」
小さな子供の言う「私、お父さんのお嫁さんになる!」みたいなモンだ。それをアンナが言い始めたせいで、俺は父親のカールに目の敵にされている。
そんなカールからすれば、俺がどっかに婿入り? 嫁入り? するのは歓迎されるかもしれない。
「良いじゃないか。付き合ってみて、それで無理ならお別れすれば」
「そうそう。シギも商人も、とりあえず冬まではいるんでしょ? その間にちょっとお試ししとけば良いのよ」
「お試し……?」
「その時はうちでチビを預かるからね!」
「うちも! あの子は手が掛からないから、二~三日は大丈夫よ!」
つまり抱くにしろ抱かれるにしろ、試してみろと。
「……マリッサ」
どうにかしてくれと助けを求めたが、纏め役のマリッサは「モテる男は大変だね」と笑っていた。
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