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春はここでも恋の季節?
⑪
しおりを挟む俺の呟きは、あの日のリトが言った「ウ○コ出る」のように広間に響き渡った。
シギは「気付いてなかったのか……」と絶望し、ラウ爺は「だろうと思った!」と爆笑している。
居た堪れない。
シギに対して「よくこの村に来るよなぁ、暇人なのか?」とは思っていた。
隣村から来る人間はいても、それは村長に用事があったりこちらに嫁いだ家族の様子を見る為だったりする訳で、定期的に同じ人間が来ることはない。
何かあれば行商人に小包や言伝を託し、相手へ送ってもらうことが殆どだ。
「さて、オンラ。……金を持っていて将来性もある若い男と、金はまぁまぁ持っていて将来性は殆どなく長年片思いを拗らせていた男、どっちを選ぶ?」
ラウ爺がニヤニヤとしながら出してきたこの二択に、シギからは「ひでぇ!」と声が上がった。
「俺の細工物だって、結構評判良いんだぜ!?」
「そりゃお前さんの腕は確かだがな。何年も何年も本人に伝えずにウジウジしてた男の評価なんてそんなモンじゃ」
「言ってました! ちゃんと好きって伝えてましたぁ!!」
「いや、子供らの言う〝好き〟と同じように聞いてたけど……」
そのくらい軽い〝好き〟だった。
友達として~とか、冗談で~とか、その程度にしか思っていなかった。
「オンラは鈍すぎるんだよ! 今までだってオンラに言い寄る男がいたのに、全然気付いてなかっただろう?! まぁそういうのは全部チビが排除してたけど!」
「それにめげずに残ったのがシギじゃな。目に余るのはワシからも遠ざけるようにしていたが……そういう意味ではこいつは骨がある。結婚するにあたってはプラスじゃな。……ヘタレなのは間違いないが」
確かに、今までで「こいつ、ちょっと距離が近いな」と思う相手はいた。
いつの間にかいなくなっていたので気にしていなかったが……そう言えば、そんな時に限ってチビがむずがったりして離れることが出来たのだ。
たまにしつこい相手もいたが、そういう時は村の人間が何かと遠ざけてくれていた。
あれはそういう相手だったからなのか。
チビの顔を見ながら「そうだったのか?」と聞くと、コクリと頷かれる。
知らない内に守られていたらしい。
「ありがとう、ラウ爺。――チビも、ありがとな。これからも……ん……んん?」
情けない親だけどよろしく、そう言おうとしたらチビの唇が俺の唇にくっついた。
チビからスキンシップをしてくることは珍しい。
思わず感動してしまって咄嗟に動くことが出来なかった。そのままチビの小さな口が開いて俺の下唇に噛みつき、まるで授乳の時のように吸い付かれる。
「チ、チビ…そこは……んん、いひゃい…………ちょっ、ぅむ」
乳首もだが、そこはお前のオモチャじゃない。
自分の子供に手を上げる訳にもいかず、言葉だけでなんとかしようとするがままならず。何か言おうとすると噛みつかれ、チュウゥゥゥ――と音がするように吸われてしまう。
これ、唇が腫れそうで困るんだが。……そして痛い。
「ん、んー……――ぅ、ぷはッ……チビ、思いっきり吸うな。痛い」
漸く離されたが、まだ唇が吸われている気がするくらい濃密なキスだった。
何度も噛まれた唇を指でなぞる。
ジンジンしているが、血は出ていないようだ。後で気をつけるように言い聞かせよう。
「チビ! おまっ……無表情の癖にドヤ顔するんじゃねぇ! 羨ましい!!」
俺の腕に抱かれたままのチビを指さして、シギがまたしても叫ぶ。
無表情なドヤ顔とはどういう顔なんだろうか。
そして……何故急にこんなキスをされたのだろうか。
――本当に。
早く言葉を喋るようになって欲しい。
……後、シギはやっぱり騒がしい。
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