26 / 80
春はここでも恋の季節?
⑪
しおりを挟む俺の呟きは、あの日のリトが言った「ウ○コ出る」のように広間に響き渡った。
シギは「気付いてなかったのか……」と絶望し、ラウ爺は「だろうと思った!」と爆笑している。
居た堪れない。
シギに対して「よくこの村に来るよなぁ、暇人なのか?」とは思っていた。
隣村から来る人間はいても、それは村長に用事があったりこちらに嫁いだ家族の様子を見る為だったりする訳で、定期的に同じ人間が来ることはない。
何かあれば行商人に小包や言伝を託し、相手へ送ってもらうことが殆どだ。
「さて、オンラ。……金を持っていて将来性もある若い男と、金はまぁまぁ持っていて将来性は殆どなく長年片思いを拗らせていた男、どっちを選ぶ?」
ラウ爺がニヤニヤとしながら出してきたこの二択に、シギからは「ひでぇ!」と声が上がった。
「俺の細工物だって、結構評判良いんだぜ!?」
「そりゃお前さんの腕は確かだがな。何年も何年も本人に伝えずにウジウジしてた男の評価なんてそんなモンじゃ」
「言ってました! ちゃんと好きって伝えてましたぁ!!」
「いや、子供らの言う〝好き〟と同じように聞いてたけど……」
そのくらい軽い〝好き〟だった。
友達として~とか、冗談で~とか、その程度にしか思っていなかった。
「オンラは鈍すぎるんだよ! 今までだってオンラに言い寄る男がいたのに、全然気付いてなかっただろう?! まぁそういうのは全部チビが排除してたけど!」
「それにめげずに残ったのがシギじゃな。目に余るのはワシからも遠ざけるようにしていたが……そういう意味ではこいつは骨がある。結婚するにあたってはプラスじゃな。……ヘタレなのは間違いないが」
確かに、今までで「こいつ、ちょっと距離が近いな」と思う相手はいた。
いつの間にかいなくなっていたので気にしていなかったが……そう言えば、そんな時に限ってチビがむずがったりして離れることが出来たのだ。
たまにしつこい相手もいたが、そういう時は村の人間が何かと遠ざけてくれていた。
あれはそういう相手だったからなのか。
チビの顔を見ながら「そうだったのか?」と聞くと、コクリと頷かれる。
知らない内に守られていたらしい。
「ありがとう、ラウ爺。――チビも、ありがとな。これからも……ん……んん?」
情けない親だけどよろしく、そう言おうとしたらチビの唇が俺の唇にくっついた。
チビからスキンシップをしてくることは珍しい。
思わず感動してしまって咄嗟に動くことが出来なかった。そのままチビの小さな口が開いて俺の下唇に噛みつき、まるで授乳の時のように吸い付かれる。
「チ、チビ…そこは……んん、いひゃい…………ちょっ、ぅむ」
乳首もだが、そこはお前のオモチャじゃない。
自分の子供に手を上げる訳にもいかず、言葉だけでなんとかしようとするがままならず。何か言おうとすると噛みつかれ、チュウゥゥゥ――と音がするように吸われてしまう。
これ、唇が腫れそうで困るんだが。……そして痛い。
「ん、んー……――ぅ、ぷはッ……チビ、思いっきり吸うな。痛い」
漸く離されたが、まだ唇が吸われている気がするくらい濃密なキスだった。
何度も噛まれた唇を指でなぞる。
ジンジンしているが、血は出ていないようだ。後で気をつけるように言い聞かせよう。
「チビ! おまっ……無表情の癖にドヤ顔するんじゃねぇ! 羨ましい!!」
俺の腕に抱かれたままのチビを指さして、シギがまたしても叫ぶ。
無表情なドヤ顔とはどういう顔なんだろうか。
そして……何故急にこんなキスをされたのだろうか。
――本当に。
早く言葉を喋るようになって欲しい。
……後、シギはやっぱり騒がしい。
1
お気に入りに追加
558
あなたにおすすめの小説
アダルトショップでオナホになった俺
ミヒロ
BL
初めて同士の長年の交際をしていた彼氏と喧嘩別れした弘樹。
覚えてしまった快楽に負け、彼女へのプレゼントというていで、と自分を慰める為にアダルトショップに行ったものの。
バイブやローションの品定めしていた弘樹自身が客や後には店員にオナホになる話し。
※表紙イラスト as-AIart- 様(素敵なイラストありがとうございます!)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生したら従者になった話
涼音
BL
異世界に転生してしまった主人公は、20の誕生日に交通事故で死んだ。
死んだ筈が目を開けたら赤ん坊だった
20で事故に遭い死んだ事を鮮明に記憶に残しながら
その世界は、小説とかによくある魔法や剣の世界【イルヴィアーナ】
主人公の家系は代々王族に仕えている。
ユーラス・シュリアンとして生まれた主人公は王子の従者としてまともに働けるのか
総攻めのハーレムモノになってしまう可能性も無きにしも非ず
side ユアン →なし
side シアン →*
「第三王子の従者になります」の改定版です。
こちらで今度から更新していきますのでよろしくお願いします
がっつり内容が変わるかもしれませんが、そこは御許しください
【報告】タグに主人公攻め入れていたんですが、何か書いてる内に雲行きが怪しくなって来たので外しました。攻めか受けはもう少し後から考えます。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる