上 下
19 / 80
春はここでも恋の季節?

しおりを挟む
 
 その後、シギは「そうか。行商のいる間はオンラが村長の家で寝泊まりすれば良いんだ。チビを盾に取られることもないし安全だ」などと言い出した。
 こいつには俺がか弱い乙女にでも見えているのだろうか。
 確かにチビを人質に取られたら困るが、それならチビだけを預ければ良い話だ。

「よし! そうと決まればさっそく村長のところに行こう!」
「今は商会のお偉いさんが村長と交渉中だろうが。――バカなことを言ってないで、店に行くぞ。売り切れることはなくてもプオゴは確保したい」

 本当にあの赤髪が俺をどうこうしようとしたら……そして、自分だけではどうにもならなくなったら頼もう――そう頭の片隅に入れておいて、テントを回ることにする。
 とりあえず今夜の分だけでもプオゴが欲しい。

 ちょうど目の端に入ったテントで、店番の少年がプオゴを入れた籠を出しているところだった。
 あそこにしようと足を向けると、少年はこちらを見ながらニッコリと笑った。

「どうも! 可愛いお子さんだね。プオゴかい?」
「あぁ。今回はどのくらい持ってきているんだ?」
「詳しい数は知らないけど……お一人様お一つまでって聞いてるよ。でも毎日買っても大丈夫。更に最終日には大売り出し!」
「……つまりいつもと同じってことだな。こいつの分も頭数に入れて良いか?」

 一人一つだと俺とチビの分で二個しか買えないので、折角シギがいるんだから頭数に含めたい。
 そうしたら三個買える。
 買いすぎても腐らせてしまうだけだが、熟れた実から先に出すから最終日は完熟の三歩手前の実が出るから問題ないだろう。
 自分でもセコいと思うが、冬の間は我慢していたんだから許して欲しい。

「えーっと、その人って俺たちと一緒に来た人だよねぇ。それって良いのかな……駄目とは言われてないけど……ちょっと待ってて。おっちゃん呼んでくる! 何でもかんでも良いって言うなって、俺、おっちゃんに怒られてるんだ!」

 そう言ってテントの奥に引っ込んでしまった。
 でも自己判断をせずに上に確認するのは良いことだ。〈報・連・相〉が出来るなら、彼はきっと良い商人になる。

「――んー? なんだ、面倒くさいことを言ってるのはシギの連れか? ……まぁシギは向こうの村で買ってないから、その分をここで買ったってことにしても良いけどよ。なんだい、兄ちゃん。お前さんはシギのコレかい?」

 奥から出てきた四十過ぎと思われる男は、そう言いながら親指と小指を立てた。
 そのハンドサインはどっかの国の挨拶ではなかっただろうか――……向こうの国の話だが。
 横でシギが「ドルド! ちがっ、まだ、そういうのじゃ!」と騒いでいてうるさい。

「シギ、黙ってくれ。――じゃあ三つ買って良いんだな?」
「……シギ、お前さん眼中にねぇじゃねぇか。まぁ俺には関係ないけどよ。――あぁ、三つで良い。ただし他には言うんじゃねぇぞ。今回は特別にだ」
「ありがとよ」

 よし。三つゲットだ。
 今回ザハーヌ商会が滞在するのは四日間。最終日は大売り出しになるので関係ないが、それまでシギがいるなら毎日三つずつ確保出来る。

「そういやプオゴって、もうちょっと日持ちさせることは出来ないのか? 干したりジャムにするのを考えてるんだが、失敗するのが怖くて試せてないんだ」
「あー……それなぁ……いや、商会でも試したことがあるんだけどよ。どっちも駄目だった。グズグズに溶けちまって、クソ不味い代物になっちまう。元々の木が特殊でな、ちょっと他とは違うんだよ」
「……へぇ?」

 そう言えば―――向こうにもある食材はこちらでもそのままの名前だが、チェルやプオゴはこちらでしか見たことがない。
 プオゴが桃やプラムに似ているとは言え、〈桃〉はこちらでも通じるのだ。
 ただ、甘さが薄く、しかも固い。あれは品種改良をする前の桃なのかもしれない。

「プオゴは土地に魔力がないと育たないんだ。だから昔は採れる場所も数も限られていて、王族や貴族しか食べれなかった……――その苗を『魔力で育つなら自分でも育てられるだろう』って育てた魔力持ちがいてな。その人が栽培方法を確立させたから、俺ら庶民でも手が届くようになったんだ」
「その人が、このザハーヌ商会のご先祖様で、プオゴは今でもうちが一番なんだ!」

 おっさん――ドルド――が言ったプオゴの説明を、最後は少年が纏めてくれた。
 なるほど。五年近く住んでいてもまだまだ知らないことは多い。
 もっと早く聞けば良かったと、得意げに胸を張る少年とドルドを見ながら思った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

処理中です...