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春はここでも恋の季節?
③
しおりを挟む高層ビルのない都会――日本の大都市を知っているとその風景を思い浮かべることは難しく、この村から三ヶ月も掛かるような王都にこれから先行くとは思えない。
なので、それ以上は考えることを止めた。
「あ、そうだ。言い忘れていたんだが……オンラ、今回は気をつけろ」
「は?」
「商人と一緒に来てる――――あぁ、ほら。あそこにいる赤い髪のヤツ」
シギがそう言って指差した先には、確かに赤い髪が特徴的な男がいた。
こちらからでは、年の頃は二十代半ばのヒョロっとした体躯……としかわからない。
「あのボサボサ頭はどうにかした方が良いと思う」
「そうじゃない。……そうじゃなくって、あいつは魔力持ちなんだ」
「へぇ? 珍しいな。……それで?」
こいつが何を言いたいのかわからないが、魔力持ちは珍しいとしか思えない。
後、ボサボサ髪から商会の人間ではないことくらいはわかる。客商売をするには身嗜みを整える筈で、あの髪では店頭に立てないからだ。
短髪が嫌ならちゃんと櫛を入れろ。
「オンラ……行商人と一緒に移動するのがどういう人間か、聞いてるだろう?」
行商人と一緒に来るのは――――……
「出稼ぎか? この村じゃロクな仕事はないと思うが……まぁ俺でも何かしら仕事はしてるし、全くない訳じゃないけどな」
「違ぁう! ……あー、もうっ! ぜってぇ婿入り志望だよ、あの男は!!」
シギは「なんでわからないかなぁ!」と憤慨しているが、男と男が出会って「婿入りですか?」は最初に出て来ないだろう。
いや恋愛は自由だし、この世界は結婚も自由だ。
俺としてもそれをとやかく言うつもりはない。
「結婚相手を探すなら尚更、身嗜みには気を遣った方が良いな。あれじゃ若い子は見向きもしない――そう言えばシギは結婚はどうするんだ? お前、もう三十だろ?」
「今は関係ない! 俺のことよりも、オンラのことだ!!」
「うーん……俺にはチビがいるからなぁ。コブ付きのオッサンなんて女の子は嫌だろうし。――あ、チビが嫌なんじゃないぞ? お前は俺がちゃんと育てる。ただまぁ、そうだな……死ぬまでに一度は結婚したいってくらいだよ」
今よりも歳を取って、その時に大賞から見向きされる男でいられるか? と言う問題には目を瞑る。
「オンラがそのつもりでも、他の人間はそのつもりじゃないんだよ! って言うかオンラはモテる、魅力的だ。その自覚を持った方が良い!」
「そうは言ってもだな。……俺は男だぞ? わかってるよな?」
「男でもチビを産んだだろう?! つまり、女側だと思われる――それに、俺もその……オンラのことは……――」
シギの言葉をまとめると、色々と危険だから自衛しろと言うことか。
魔力持ちは男相手でも子を作れるらしいが……俺みたいな体格の男をどうこうしようなんて人間、そういないと思うのだが。
行商人と移動するのはおおまかに言って三パターンにわかれる。
一つ、目的地が同じ旅行者。多少の金銭は必要だが、目的地が同じなら邪魔にならない範囲で一緒に移動が出来る。
二つ、出稼ぎ。そこの商会で働きたい場合、個人で移動するより遠回りでも一緒に移動したほうが効率的だからだ。
三つ、結婚相手探し。
子沢山な家庭ではよくある話だ。
継ぐ家も土地もない三男四男それ以降になると、余所の土地で家庭を持つことになる。
例えば、一人っ子、伴侶に先立たれた人間……そういった先へ婿入りをする。生涯独身を貫く主義でも、成人してからもも実家暮らしを続けることは難しい。
なんせ長男や長女の夫婦がいるからな。所帯を分ける為には外へ出ていくしかない。
そういう場合、親が知り合いに声を掛けることもあるし、村々を回る行商人に口利きを頼むこともある。その中で本人が「自分で相手を探したい」と思うようなタイプだと、行商人と一緒に移動することを選ぶ。
それぞれを紹介しあうタイムロスがないし、相手の人となりを調べる余裕が出来るので結構いる。更には「情熱的な人だ」と好意的に受け入れられることが多い、らしい。
女性も、生まれ育った土地に条件の合う相手がいなければ、システムは同じだ。
但し――この村は本当にド田舎なので、ここまで来る人間は滅多にいない。
田舎よりも都会を選ぶ若者が多いのはどこも一緒。
余程の物好きか、はたまた脛に傷を持つ人間である可能性が高い。
悪名や浮名を轟かせ過ぎて……とかな。
「大丈夫だろ。ここで嫁取りするのも婿入りするのも、村長が立ちはだかる壁になる」
「……」
「嫌がる人間に強行するような鬼じゃない。……まぁどんな相手でも本人が嫌だと言えば悪鬼になるけどな、ラウ爺は」
「……あの村長を倒すとか、無理」
本人が希望し、親が了承し、更にこの村では村長の許可がいる。
魔力持ちだろうが何だろうが、あのラウ爺を倒せる猛者がいるなら見てみたい。
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