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違う世界でもトイレはトイレ

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 そのまま悩み始めたアランを見て、随分と大きくなったなぁ……と、年寄りのようなことを考えた。
 俺がこの世界に来た当初、アランもユアンもまだ八つだった。
 背だって俺の胸よりも下だったのに、いつの間にか肩あたりに頭がある。そして二人ともが精通を迎えて、少しだけ大人になった。
 そりゃあ俺も年を取る訳だ。
 年長者が「こんなに大きくなってなぁ」としみじみとしていた気持ちがよくわかる。

 チビも、いつか――――……


「おぉ! オンラーシ! まだここにいたか。良かった良かった。お前さん、今日は暇か?」

 このスピードで成長を続けたとして、せめて中学生くらいまでは見守っていきたい。
 そして「親父ウザい」なんて悪態を吐かれて、涙の味がする酒を飲みたい。
 そう思っていたら、公民館の隣から村長が出てきて声を掛けられた。

 この村長、もう七十近いジジイだが、役職と年齢で考えるイメージとは掛け離れている。
 まず腰が曲がっていない。
 その為、この世界の平均身長である俺の背丈と殆ど変わらないのだ。むしろジジイの方が若干高い。
 しかもゴリゴリのマッチョ。下手をしたら五十代にも見えるような矍鑠 かくしゃくっぷり。
 村の子供が悪さをしたら猛ダッシュを決めてとっちめているし、村近くに熊が出れば率先して突撃している。

 そんなジジイがしおらしい老人のフリをする時は、面倒なことを言い始めるから注意が必要だ。
 ――既にロックオンされているので逃げられないが。

「おはよう、ラウ爺さん。えーっと……まだ予定は決まっていないんだが何の用だ?」
「おぉ! そりゃ良かった。いや何、そんなに大変な仕事じゃないんだが……そろそろホレ、あの時期になるじゃろう?」
「時期? ……豆も蕪もトマトも、先月末に植えただろ。アールスのところが出産で忙しくなるのはもう少し先だし……アラン、そっちは何か言っていたか?」

 アランの家は養鶏を営んでいる。
 雪の重みで屋根が壊れたと言われたのも、雪解けと共に修理が済んでいる。暫くは依頼もないだろう――その予想に違わず、「特に聞いてない」と返ってきた。

「違う違う。ラルスのとこから伝書が来てな、あっちの方は道が通れるようになったらしい。今日村の若いのに声を掛けて、こっち側の道を確認するんだ。それで問題なければ行商の奴らが来ることになるからな、その準備を頼みたい」

 ラルスと言うのはこの村から一番近い村の村長のことだ。
 伝書はそれ用に飼っている鳥が村と村とを往復する。
 人間が行き来するには山越えとなる為、村々を回る行商人は雪が降れば訪れなくなり、雪が解ければ訪れる。

「今日明日で開通の連絡をしても、来るのは一週間以上先だろう。何か問題があったのか?」
「オンラは察しが悪いのう。いつものアレじゃよ、アレ。もう暖かくなったから、湯冷めをすることはないからな!」
「――――つまり、自分が湯船に浸かりたいと」
「その通り! ……お前はあれか? 明日をも知れぬジジイの、ささやかな願いを断るのか? そんな血も涙もない男なのか? ……おぉ、チビよ、可哀想になぁ。お前だって風呂に入りたいよなぁ」

 この村の家々に風呂はない。
 あるのは村唯一の宿のみだが、その宿を使うのは行商やその護衛ばかりなので冬の間は閉鎖されている。
 俺が来る前は「そろそろ来るのか……」と重い腰を上げて掃除をし、後は使用者のセルフサービスに任せていた。
 しかし、現代日本から来た俺は毎日だって風呂に入りたい。
 掃除も後始末も自分でするなら使用しても構わないと言われたので、最初は純粋なる善意で「折角沸かすから……」と爺さん婆さんにも入浴を勧めた。するとどうだ――……春から晩秋、寒くなって湯冷めの危険が迫るまでは、毎月二回の〈お風呂の日〉が出来上がったのだ。

 希望者のみが入浴すると言っても村人は幼児を含めて百人程いる。
 風呂は大人が十人も入ったらキツキツで、男湯と女湯がある訳ではない。
 結果……男女の入浴を日替わりにして四日間、俺は風呂焚きのみに従事することになる。
 その代わり、俺は毎日風呂に入れる。

 一日の終わりには煤だらけになるので、ウィンウィンの関係かと聞かれれば「違う!」と声を大にして叫びたい。
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