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甘い物は主食です

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 小木おぎ 雄大ゆうだいさん。三月二十二日生まれで、もうすぐ二十六歳。
 身長は百八十一センチ、体重七十キロ。体格はしっかりしていたけど、特に鍛えてはいないらしい(筋肉がつかない人間からすると羨ましい)。お店から十分の所に一人暮らし。噂通り、あまり店頭には出ていない(レアキャラ扱いを教えてしまったので、今後の更なる引きこもり悪化が懸念される)。お店は十時から二十時まで。でも雄大さんと叔父さんは七時過ぎには厨房に入っているらしく、長時間労働! と思ったが、空き時間も長いしホテル勤務よりは全然マシだそうだ。そして夕方には作業終了。その後は新作を考えたり、家に戻って家事をしたり……
 教えてくれたお店のブログは店主夫妻の娘さんが書いているそうで、なかなかファンシーなレイアウトだった。たまにネタを出せとせっつかれて困ると言っていた。女の子って強い。

 メッセージアプリへ朝と夜に送られてくる内容だけで、とりあえずここまでの個人情報を把握した。そして、同じくらい俺の個人情報もあちらに流れている。だって教えられたら自分も答えないと、って思うじゃん。……しかし身長と体重は教えたくなかった。ヒョロイからね。趣味とかを教えるのは別に良いんだけど。
 うん。なんか色々とおかしい気がする。だって今日は日曜日。まだ出会ってから四日目ですよ。社会人になるとプライベートな友達ってそうそう出来ないから、これが一般的なのか判断が難しい……いや、雄大さんがフレンドリーなだけ? 相談しようにも先輩に話したら速攻で主任にバレるからなぁ。やましくはないけれど、なんとなくイケメンと連絡を取り合う仲になったのは隠してしまったし。だって翌日に「会いましたよ、あの人に似てました」と軽く伝えたら、「私も行けば良かった……!」なんて悔しそうに呟いていたし。あの芸能人、そんなに好きだったっけ? というか先輩、あんなに言い聞かせたのに巻き返せなかったのかな……なんだか怖くて、詳細を聞くのは止めてしまった……
 そんな主任はこの土日に佐藤さんとキルシュブリューテへと出掛けている。他にも何人か、お店が気になった人が「行ってみようか」と話していたので、俺は広報さながらお店のショップカードを配ったりブログを教えたりして積極的に宣伝しておいた。なので金曜の内に、雄大さんには客足が伸びるかもしれないことと、顔を売りたくないなら店頭に出ないようにと連絡してある。その返事として送られてきた〝ありがとう〟のスタンプがなんだか異様に必死なものだったので、この感謝には二重の意味が……と涙を誘った。あの顔だったらイケメン・パティシエなんて特集されてもおかしくないだろうに……やっぱりそれで売り出したくはないんだな。

 土日は忙しいと行っていた通り、ポツポツと送られてきていたメッセージは途絶えている。いつも十八時過ぎに『お疲れ様です』と送ってくれるから俺も昨日は二十時に送ってみたけど、それに対しては『明日も頑張ります』というちょっと切羽詰まったような返信だった。
 主任からは『イケメンいなーい』というメッセージを貰っている。うん、出ないように言ったからね。でも一緒に送られてきた写真には悔しい思いをさせられた……俺も生クリームの載ったやつが食べたい! 手元に確保したブラウニーは勿論美味しいんだけどさ。

 ――ピコン

 そんな風にお店のことを考えていたからだろうか。タイミングよく雄大さんからメッセージが届いた。あ、もう二十時過ぎてる。

『紘夢さんのお陰で、何名かお客様としていらして下さったようです。礼子さんがバレンタインやブログのことを話されているのを聞いたと言っていました。本当にありがとうございました』

 おぉ。お店に貢献できたなら良かった。『お疲れ様です。明日からの連休はゆっくり休んで下さい』……返事はこんな感じで良いかな。と思ったのに――

『休みには試作品を作ろうと思っているのですが、紘夢さんはどんな物がお好きですか?』

 え? 疲れてるのに話を続けるのっていうか、俺の好きな物を基準にするの? そこは売れる物を基準にしようよ。旬の苺とか、季節に関連した味とかさ。

『そこからイメージするだけなので、難しく考えないで下さいね。例えば、蜂蜜はお好きですか?』

 はちみつ……ハニートーストとか美味しいよね。俺は蜂蜜をたっぷりと掛けたいタイプ。バターと蜂蜜が口に入れた瞬間にじゅわっと染み出してくるあの魅惑の味。それを甘くないカフェオレと一緒に食べるの最高。でも甘すぎるっていう人もいるし、独特なクセが苦手って人もいるしなぁ……先輩とか、絶対に嫌いだろうな。

『俺は好きです。でもアレルギーがあるとか、クセが強いって苦手な人もいますよね。メープルシロップならクセは少ないと思いますけど』
『もし販売することになったらアレルギーについては明記するつもりです。念の為、メープルシロップでも考えてみますね。あと、抹茶味で何か考えているのですが、食べたい物はありますか?』

 う、うん……やっぱり俺が基準な訳か。抹茶味ねぇ……結構なんでもあるんだよね。抹茶って汎用性が高いよな。甘い味にするか、苦味を出して大人向けにするかで変わってくるけど。お店のイメージからすると、どちらにも対応するような物が良いのかな?

『シフォンケーキとか? すごいシンプルな見た目になりそうだけど』
『見た目はちょっと考えてみます。シフォンケーキはお好きですか?』

 えーっと、どう答えたら良いんだろう。好きか嫌いかで答えるなら普通に好きです。食感が軽いからパクパク食べられるし、朝飯にパン代わりとして食べることもある。材料が殆ど同じだから菓子パン扱いでも良いと思うし。

『いろんな味があって楽しめるし、軽いから朝食に食べることもありますね』

 と、まぁこんな感じに書くしかないよな。無難が一番。というかこの流れって、俺が食べたいと言ったなんて理由で新作が出来上がるってこと? 責任重大じゃね? いやきっと、あまりにも変なことになったらあそこの叔父さんが止めてくれるよな??

『朝ご飯ですか?』
『ちゃんと野菜やお肉も食べます。ただ、パンの代わりに食べたりするってだけですよ』

 甘い物を食べるから食生活は心配されることが多いんだよな。ちゃんと野菜も食べるし、甘い物以外もちゃんと食べるようにしている。勿論、運動も。

 それからなんとなく好きな物や嫌いな物などの話が続いて、気付いたら二十二時近くになっていた。雄大さん、疲れているのに……改めて『今日は疲れただろうし、そろそろ休んで下さい』と送ったら、『紘夢さんは明日から仕事なのに長々とすみませんでした。お仕事頑張って下さいね』と気遣われてしまった。まぁ確かに、明日から仕事なんだけどさ。水曜には会う約束をしているし、残業が続かないように頑張らないと。
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