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第三十四話
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「佐藤さん……?」
「……高松さん、教えてください。フレイウェルに戻る方法を。俺は……あちらの世界に大事な人がいるんです」
カタカタと体が震えてしまう己の体を叱咤しながら佐藤が問うと、高松が「そう……あなたもなのね」と目を細めた。
「それなら知っているかしら? あちらの世界との決別の仕方……たった一言よ、〝さようなら〟と告げたらもう終わりなの」
「さようなら……?」
「えぇ、お別れの挨拶。まだそれを伝えていないならまた行くことは出来るわ……でも、あちらで暮らすと言うことはこちらの世界で死ぬことになるって、佐藤さんはわかっているの?」
それはブライクやロッティが言わなかったこと。あちらの世界では浸透している事実らしく、佐藤が思い悩むと思った二人が隠していたのだろう。
高松はその事実を知った時に日本で暮らす道を取った。両親のために生きることは考えられなかったが、未来の後輩たちの先達になりたかったのが決め手だったそうだ。
「これは私の選択だから、佐藤さんがどちらを選んでも応援するわ。でもまだ若いんだからいっぱい悩みなさい。あちらにしばらく行けなくなることは私もあったけれど……その言葉を伝えていないなら、いつか行けるから。今は急がないでしっかりと考えてみて?」
目の前に現われた二つの選択肢。
佐藤の動揺を見て、高松は困ったように笑う。
「私もいっぱい悩んだもの。ユクスさんのことは恋愛感情として好きだったし、彼からも同じ思いを返してもらえていたから……」
「俺は……まだ、そんな状況じゃなくて……」
「それなら、今度行けた時にお伝えしましょう? それともなにか、心配なことや不安なことがあるのかしら」
佐藤の脳裏に〝同性〟という単語が浮かんだが、それを言うことは控えた。なんとなく、高松はフェアな視点で見てくれると思ったけれど、だからといって今日初めて会った相手に言う話でもない。
目を伏せて紅茶をくちに含む佐藤を見て、高松はそれ以上の追求を止めたようだ。
「……良ければ、佐藤さんの過ごしているフレイウェルの話を聞いてみたいわ。ロッティさんのこととか。もちろん、内緒にするわよ」
しぃ、と口元に人差し指を当てた高松を見て佐藤は笑った。
「じゃあ……とっておきの話を」
絵本には入れられなかった話をしながら、この先のことを考える。
(一度、松本とはちゃんと話さないといけないな……)
話題が思いつかないとか、少し気まずいとか、そんなことを言い訳にしては駄目だと己を鼓舞した。
「……高松さん、教えてください。フレイウェルに戻る方法を。俺は……あちらの世界に大事な人がいるんです」
カタカタと体が震えてしまう己の体を叱咤しながら佐藤が問うと、高松が「そう……あなたもなのね」と目を細めた。
「それなら知っているかしら? あちらの世界との決別の仕方……たった一言よ、〝さようなら〟と告げたらもう終わりなの」
「さようなら……?」
「えぇ、お別れの挨拶。まだそれを伝えていないならまた行くことは出来るわ……でも、あちらで暮らすと言うことはこちらの世界で死ぬことになるって、佐藤さんはわかっているの?」
それはブライクやロッティが言わなかったこと。あちらの世界では浸透している事実らしく、佐藤が思い悩むと思った二人が隠していたのだろう。
高松はその事実を知った時に日本で暮らす道を取った。両親のために生きることは考えられなかったが、未来の後輩たちの先達になりたかったのが決め手だったそうだ。
「これは私の選択だから、佐藤さんがどちらを選んでも応援するわ。でもまだ若いんだからいっぱい悩みなさい。あちらにしばらく行けなくなることは私もあったけれど……その言葉を伝えていないなら、いつか行けるから。今は急がないでしっかりと考えてみて?」
目の前に現われた二つの選択肢。
佐藤の動揺を見て、高松は困ったように笑う。
「私もいっぱい悩んだもの。ユクスさんのことは恋愛感情として好きだったし、彼からも同じ思いを返してもらえていたから……」
「俺は……まだ、そんな状況じゃなくて……」
「それなら、今度行けた時にお伝えしましょう? それともなにか、心配なことや不安なことがあるのかしら」
佐藤の脳裏に〝同性〟という単語が浮かんだが、それを言うことは控えた。なんとなく、高松はフェアな視点で見てくれると思ったけれど、だからといって今日初めて会った相手に言う話でもない。
目を伏せて紅茶をくちに含む佐藤を見て、高松はそれ以上の追求を止めたようだ。
「……良ければ、佐藤さんの過ごしているフレイウェルの話を聞いてみたいわ。ロッティさんのこととか。もちろん、内緒にするわよ」
しぃ、と口元に人差し指を当てた高松を見て佐藤は笑った。
「じゃあ……とっておきの話を」
絵本には入れられなかった話をしながら、この先のことを考える。
(一度、松本とはちゃんと話さないといけないな……)
話題が思いつかないとか、少し気まずいとか、そんなことを言い訳にしては駄目だと己を鼓舞した。
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