絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

文字の大きさ
上 下
31 / 35

第三十一話

しおりを挟む
「ご馳走するわ。男の子だからボリュームのあるものが良いかしら? ハンバーグプレートがオススメよ」
「えっと……お腹は減っているんですが、たぶんそこまで食べられません」

 胃が小さくなっているだろうと思ってだったが、言ってから不適切な発言だったと気付く。しかし女性は「そう?」と気にしていなかった。

「じゃあ私と同じものにしましょう。珈琲と紅茶はどちらがお好み?」
「……それなら紅茶で」

 ぽんぽんと注文が決まっていき、しばらくするとカフェテーブルにティーセットと砂時計が並ぶ。
 女性が頼んだのはアッサム、佐藤はダージリン。食事は砂時計の砂の最後がこぼれ落ちる時に合わせて、テーブルへと運ばれてきた。

「わ、ぁ……」

 大きな白い皿の半分は緑の鮮やかなサラダ、もう半分にはホットサンドを斜め半分に切ったものが二つ置かれている。一つはツナとトマト、もう一つはハムとチーズという王道の味だ。
 遠くへ置いてきてしまった食欲という欲望が刺激される。

「どうぞ、遠慮せずに食べて?」
「……では、いただきます」

 佐藤は紅茶で口を湿らせて、念の為サラダを二口食べてからツナのホットサンドにかぶりついた。じゅわりと熱されたトマトが口の端から溢れそうになり少し慌ててしまったが、なんとか汚さずに一口を食べきる。塩気がちょうどよく、もう一口、もう一口と食べていると、向かいから「ふふふ」と笑い声が聞こえた。

「ふふ、ごめんなさい。とっても美味しそうに食べるから……少し顔色も良くなったし安心したわ」
「顔色?」
「言わなかったけれど、ちょっと心配なくらいだったの。ごめんなさい。食事の邪魔をしてしまったわね。温かいうちに食べてしまいましょう」

 そう言って女性が自分のぶんに口を付けたのを見て、佐藤も残りを平らげた。

「ご馳走様でした」

 温かい食べ物と温かい紅茶で、お腹の中から指先まで温まった気がする。服装は季節に合わせていたつもりだったが、少し冷えていたらしい。

「ふぅ……お腹いっぱい。そういえば自己紹介もまだだったわね。私は高松陽子と言います。改めて、ユクスさんを拾ってくださってありがとう」

 手元の赤いぬいぐるみを撫でながら、女性――高松が机の向かいで頭を下げた。
しおりを挟む
――匿名での感想や絵文字も受付中です――
wavebox
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

年越しチン玉蕎麦!!

ミクリ21
BL
チン玉……もちろん、ナニのことです。

処理中です...