絵本作家は砂糖菓子の夢を見る

宮野愛理

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第三十話

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 一拍を置いて、女性からコロコロと笑い声が漏れた。

「よければお茶でもどうかしら?」
「いや、それは……」

 固辞をしようとする佐藤の耳に「ゴホン」という咳払いが聞こえ、振り返ると先ほどの警官がなんとも言えない表情で立っている。

「それ以上の会話はここから離れてからにしてください」

 どうやら金銭授与や個人情報のやり取りにあたるようで、警官という立場からは話を止めるしかないらしい。ただ交番内から出て、駅前広場で話すならば問題ないとのこと。裏を返せば自分たちの「拾いました」「私のです」も、外に一歩出ていれば良かったのかもしれない。これは性善説に基づく話となってしまうけれど……。

「お礼をさせてくださいな。ユクスさん……このお人形を拾ってくれて、本当に助かったの」

 女性からの重ねての言葉に、佐藤はそれ以上断ることが出来なかった。そのまま連れて行かれたのは店先から覗くことはあっても入ることのなかった喫茶店で、どうやら女性はここの常連らしい。
 店先からは見えなかったが、奥まった場所に並んだ低めのソファーは年期の入った緑のベロア生地。木目が綺麗なテーブルも飴色に光っておりその歴史を感じさせる。

「ここね、とっても落ち着くの。重厚だけどちょっと可愛らしいでしょう?」

 女性の言うとおり、壁にはパッチワークや刺繍のタペストリー、腰高の間仕切りにはレース編みで作られた小物が並んでいた。所々に置かれた間接照明――とはいっても光ってはいないから、ただのインテリアかもしれない――にはステンドグラス風の傘が掛かっている。

「そうですね、すごく……落ち着きます」

 まるで、最近行けなくなってしまったフレイウェルの室内のようだった。強いて違いを挙げるなら、ブライクの家で使われている家具はもう少し明るい木調なくらいだ。
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